第29回 サリッサ 長槍「あっ折れた!」でも反対側も使えます。
サリッサ
古代ギリシャでアレクサンドロス大王が指揮をとったマケドニア軍が使っていた長槍です。
騎兵用の短い物、歩兵用の長い物が存在しています。
かわいらしい名前とは裏腹に、マケドニア式ファランクスという陣形に使われており、最前線に投入される勇ましい武器が、このサリッサです。
騎兵用は3メートル前後で約4.5~5㎏くらい。
歩兵用は5メートル前後で約6㎏程度でした。
長い物では6メートルを超えており、その分重量も増加、使われた時代によってはもっともっと長く重い槍になっていました。
ファランクスは通常、片手に盾、片手に槍を持って密集することで、お互いが盾で守りつつ、槍を構える事による槍衾で攻撃と防御を兼ね備える事ができる強力な陣形です。
サリッサが使われたマケドニア式ファランクスは、なんと盾が小さく肩と腕につけるような形になっており、両手でサリッサを持って構えて使います。
サリッサは、穂先の反対側の石突の部分にも尖った金属がはめ込まれています。
たとえ戦いの間に穂先が折れ曲がってしまったとしても、反転させる事で、槍としての機能を失わずに戦いを続けられるように作られています。
しかも、この穂先と石突はソケット式になっていて、柄の部分にはめ込まれるようにして取り付けられていました。
戦いの中で刃がなまくらになってしまい、石突部分もひん曲がってしまった。
これでは武器として使えませんが、サリッサは切れ味が落ちた穂先と曲がった石突をとって、新しい物をはめ込めばお手入れ完了。
すぐに戦場に復帰させることができました。
武器なんて、そうそう壊れたり曲がったりしないよ。などと言う方もいると思いますが、戦場では結構壊れます。
決死の覚悟の突っ込んでくる騎兵を迎え撃つため、多数の槍を用意して相手に向かって突き出します。
騎兵の勢いを殺しきれないと槍の壁を抜けられてしまいます。
命をかけて突撃してくる騎兵、抜かれたら命が無い歩兵。どちらも決死の覚悟でぶつかり合います。
突進の勢いも相まって槍も防具も次々と壊れていきます。
これほどの戦いの中で武器が壊れたら、死あるのみです。
しかし、サリッサなら大丈夫、穂先が折れても反転させればまだ戦えます。
手入れが容易なので、今を生き延びれば、穂先と石突を取り換えてまた戦えます。
柄の中間を金属のパイプで繋ぎ、さらに長くしたサリッサもあります。
これは、柄が折れてしまったサリッサも、他の折れた物とつなぎ合わせる事で修理することもできたかもしれません。
とても使い勝手がよく、補修も比較的容易、複雑なパーツや造りがなかったため軍隊が扱うために量産することも可能だったサリッサ。
アレクサンドロス大王の死後に起こった戦争では、どんどん長いサリッサが登場して使われるようになっていきました。
しかし、あまりに長くなりすぎたサリッサは取り回しが悪くなり、部隊の動きを制限したものになっていってしまいます。
まあ、5メートルくらいの棒であれば、長めの物干し竿です。
両手であれば、持ち直して反転させることもそんなに難しくないですが、10メートルとかになるとちょっと大変です。
5メートルなら、両端のパーツを変えるのもそんなに難しくないですが、10メートルになると、ひょいひょいと持ち直して交換するのは手間になってくるでしょう。
ただでさえ、重い槍だったサリッサですが、限度を超えて長く重くなった結果、機動性が大幅に低下してしまいました。
そのため、お払い箱という悲しい扱いになり、前線からは姿を消すとととなったのです。
マケドニア式ファランクスよりも優れた陣形が登場してきたことで、サリッサの改悪だけでなく、防具も重装備にさせてしまいました。
これもさらに部隊の機動性が低下していった要因となっていたのです。
修理が容易、量産可能、取り回しが良い、騎兵でも歩兵でも使える。
金属のパイプによる延長、などなどメリットが沢山ある武器だけに、勿体ないと感じてしまいます。
ワンタッチ交換!
外れないように取り付けられていたはずなので、ワンタッチ交換ではないです。
両手槍でファランクスってめっちゃ攻撃的です!