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第27回 ミストルティンの矢 万物防ぐ体、唯一の例外(幻想武器)

ミストルティンの矢


 作品や出典によってはミストルティンの槍ともされている。

 北欧神話で最高神のオーディンの息子、光の神バルドルに死を与えた武器が、「ミストルティンの矢」になります。


 ぶっちゃけた話、武器としては最下層とも言えるほどにもろく弱い作りになっています。


 ミストルティンとは、ヤドリギの事です。

 山のお散歩に行くと、背の高い木に丸っこく他の枝と違った葉っぱがある様子を見る事ができます、これがヤドリギ。


 ヤドリギは品種によっては最大で100㎝くらいになることもありますが、大体はその半分前後程度です。

 枝分かれして全体的に丸いフォルムになるので、くねくね曲がった枝ばかりになる。


 さらに、この枝そのものも丈夫な物ではありません。

 他の木に寄生しながら、自分でも光合成する植物なので、あんまり丈夫で大きくなる種類ではないんです。


 武器に使われる木は密度が高い物、そして柔軟性に富んでいる物が使われています。

 このヤドリギは強度でも、柔軟性でも、入手のしやすさのどれをとっても武器には不向きな材質です。


 ですが、悪神ロキにはこれを武器にしなければいけなかった理由があるんです。





 光の神バルドルはある日、自身に死が訪れるという予知とも言えるほど、ハッキリとした夢を見ました。


 この夢が現実に起こらないよう、母フリッグは神の住まう世界のあらゆる存在に召集をかけて、1つ1つの存在に「バルドルを傷つけることはない」と誓約させていきました。

 

 神の住む世界ヴァルハラの西の外れに、生まれたばかりのミストルティンがいました。

 まだ若すぎる上に、その存在は弱く、繊細なものであり、誓約させられる事はありませんでした。


 バルドルが成長すると、その体は誓約により、何者にも何の存在にも傷がつけられない無敵の男になりました。

 木も、鋼も、炎も、バルドルに傷をつけることは出来ません。


 神々はバルドルの体に槍を投げ、時には切りかかるという事をしていました。

 バルドルを攻撃した神はオーディンの息子と戦ったという名誉を、バルドルは傷1つつけられずに戦いを終えたという名誉を得る。

 このような遊びだったという訳です。


 バルドルの弟ヘズは盲目だったため、この遊びに参加する事が出来ないで過ごしていました。

 ※弟はホズと書かれている物もあります。発音の関係でカタカナにするときの音の聞こえによる違いかもしれません。


 北欧神話の悪神ロキはバルドルの事を疎ましく、邪魔に思っており、何とかしてあの無敵の神を殺す方法はないかと考えていました。


 ロキは変装してバルドルの母のフリッグに近づき、色々な話をする中、誓約でミストルティンだけが例外となっていると聞きだす事に成功します。


 悪神ロキはヴァルハラの西の外れに飛び、誓約を逃れているミストルティンを見つけ、その枝を使って矢を作り出しました。


 そしてまた、ロキは考えます。

 自分がバルドルにこの矢を射かけては、バルドルの父と母に自身が殺されてしまう。

 いや、殺されるだけで済めばいいが、未来永劫に責め続けられる可能性すらあると考えました。


 ロキはどうすればいいかを考えるなかで、ついに自分が手を下さなくとも、バルドルに矢を刺す方法を思い付きます。

 それは盲目の弟ヘズを使う事でした。


 ロキは神々がバルドルを切りつける遊びに興じている場所まで、バルドルの弟ヘズを連れて行きました。

 そして、穏やかに語りかけます。


「ヘズ様、あなたも皆と同じようにバルドル様に矢をかけましょう」

「ロキよ、私は目が見えぬ、狙い定める事など、できようもない」

「私が狙いを定め、弓を引きましょう、あとはあなたは手を離すだけで矢は届きます」


 ロキはミストルティンの矢と弓をヘズに渡し、手をとり足をとり、ヘズに弓を引かせます。


「そこです!」


 ヘズはロキの声を受けて手を離すと、ミストルティンの矢はバルドルの背中に吸い込まれるかのように深々と刺さってしまいました。


 ロキはバルドルが見た死を暗示する予知夢を現実の物とさせ、ヘズには兄を殺したという汚名を着せる事ができました。

 ヘズはロキの顔を見る事ができませんが、ロキの顔はとても嫌らしく憎らしい笑顔を見せていたことでしょう。





 作品によってはベースとなる神話の内容が槍になっています。


 ミストルティンの槍をヘズに渡し、バルドルの所にまでロキが手を引いて連れて行く。

 バルドルは弟に動かないから突いてみろと言い、ヘズが槍を突き出すとバルドルの胸に深々と刺さった。

 という物もあります。


 また、ミストルティンで刺された事により、バルドルの力が封じられてしまった、あるいは失われてしまったとして描かれている物もあります。


 いずれにしろ、ミストルティンがバルドルの体に刺さる唯一の物だった事には変わりありません。


 ケルト神話でも魔術師とされているドルイド達が、ヤドリギが冬でも葉が青く茂っている事から、生命力の象徴として信仰の対象にしています。

 材質や伝説には諸説あり、詳細が不明ですが、ミストルティンという名前の剣も登場しているようです。


 ヤドリギという植物が北欧神話やケルト神話の中で、特別な存在になっている事がうかがえます。

何事にも例外はある!


 万物から守られた体も、ヤドリギが例外。

 武器に適さない材質のヤドリギを武器にしたことも例外。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほうほう。ヤドリギは信仰の対象なのですか。 ならば、神の命を奪った武器としても頷ける部分がありますね。 [一言] このエピソードは、いかにロキが賢く邪悪だったかを明示しているようにも思えま…
[良い点] ◎ ヤドリギ製のミストルティンは本当は、なまくら? …… バルドルがふつうに防具をつけていたら無事だった。いや、無敵なのだから、もともと防具などもってないはず。 …… 無敵の神なら、ふだ…
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