第23回 パリィ・イング・ダガー 可動部がある武器について
パリィ・イング・ダガー
これまでにも何回か触れていますが、相手の攻撃を防ぐために盾のように扱われる短剣の総称がこれです。
当然可動部が存在しているタイプもありますが、今回は可動部があるタイプについて解説と考察をしていきます。
サイズとしては短刀になり、持ち手の部分を含めた全長で長くても40㎝程度になっています。
鍔の部分が大きめに作られているタイプが多く、刀身だけでなく、鍔も防御に使う事ができるようになっています。
刀身に仕掛けがあり、鞘から抜いて仕掛けを動かすと、刀身の両刃の部分が左右に開き、中央の1本と左右の計3本に分かれます。
相手の剣に合わせてこのパリィ・イング・ダガーを当てれば、長い鍔の部分や、3本の刀身のどこかに引っかかるので盾のように防御することができます。
トーナメントという用語はみなさんご存じかと思います。これは鎧をまとった騎士同士の儀礼的な喧嘩・戦いの事を指しています。
フルプレートアーマーを纏っての戦い、有名な転んだら起き上がれないという実戦には使えない鎧も登場していたのがこのトーナメントです。
このトーナメントは16世紀に廃れ、代わりに私闘が流行してきました。
この私闘は時と場所を選ばないため、レイピアなどの剣を携帯することは日常的になっていきました。
プレートアーマーを纏った騎士たちは剣に加えてバックラーなどの防御用のアイテムも持っています。
私闘になったとしても、相手の武器から身を守るためにマントや手袋、剣の鞘など様々な物が使われていました。
やがて短剣を使う事が主流になり、その流れでパリィ・イング・ダガーが登場しました。
帯剣はレイピアなどの攻撃用の剣と、防御用のアイテムとなるバックラーや短剣という形がスタンダードだったかもしれません。
日本でも日本刀では太刀と脇差しのセットのイメージが強いですね。
片手剣と両手剣の違いはありますが、そう考えると、日本刀は両手で使うから1本でよかったんでは?
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パリィ・イング・ダガーの使い方、相手の剣を防ぐ、以上です。
重量は300g~400g程度、上手く当てて軌道をそらしたり、盾のようにしたりします。
レイピアは2㎏くらいあるのですが、この重量の差を考えると何度も受け止める事は難しいと思われます。
マインゴーシュのように可動部が無ければ強度は高いのですが、今回取り上げているパリィ・イング・ダガーには可動部があります。
この可動部があるという事が強度を著しく下げています。
私は鉄扇を持っているのですが、扇子の骨の部分が金属製になっており、根元の部分が金具で留められています。
この留め具があるおかげで開いたり、閉じたりができるようになっています。
ですが、友人が投げた本だか何だかを鉄扇で受け止める事を数回やってみたら、留め具が緩んでしまいました。
元々、もろく作られていたのかもしれませんが、日用品程度を受け止めただけで簡単に緩んでしまいました。
たとえ丈夫に作られていたとしても、命を奪う事すらあり得る剣を何度も受け止めていれば、多少丈夫に作ったとしてもすぐに壊れてしまいます。
一部が壊れてしまえば、重心の位置も変わってしまう、そうなると上手く扱う事すら難しくなるため、防御力は著しく低下してしまいます。
決闘中でも何度も何度もパリィ・イング・ダガーで攻撃を受け止める事は無かったでしょう。
攻撃用の剣でも受け流しは基本ですから、数発持ちこたえてくれれば十分だったのかもしれません。
連戦で決闘ということもなかったでしょうから、一回の決闘で壊れても仕方ない。命があってよかったですね。
ただ、剣というのはそれだけで刃の作りや、持ち手の作り、全体のバランスや細工、キレイに収まる鞘などの技術の粋が集められて造られています。
それだけで高価な物になります。本当にお高くなっています。
パリィ・イング・ダガーが一般的になっていれば、これが描かれているシーンやイラストも出ていたでしょう、場合によっては歴史の教科書にも載っていたかもしれません。
これが無いってことは、作るのも大変だったんで、使われなかったんでしょう。
開け! 刃よ!
ギミックや可動部がある武器の中でも歴史ある武器で、実戦にも使われていたケースが比較的多いと思います。




