第174回 藁人形と五寸釘 丑の刻参り(幻想武器)
もしかして番外編にしたほうがいいのかと思いつつ、呪いというファンタジー的なものをとりあげました。
「鰯の頭も信心から」
なんて、言われるように実際に効果があったとか、なかったとか。
タイトルは丑の刻参りとしましたが、実際「呪い」という負の思念を相手に投げかけることで、能力を下げたり、不幸にさせたりと様々な効果をもたらします。
これがですね、不思議なことに迷信がまかり通っている時代であれば効果がちょっとばかりあったという説があります。
さすがにですね
「般若の面を被った白装束の女性を召喚して襲い掛からせる」
なんてことは出来ないんですがね。
相手の精神にダメージを与えてパフォーマンスを下げさせるとか、持病を悪化させる。
この程度ならやってやれないことはありません。
さて、今日は呪いの代表とも言えるほどに有名な、丑の刻参りを見ていきましょう!
あれ? やってるとこ見たら呪われるんだっけ?
◇◇◇
~やり方~
多少のやり方の違いはあれど、大体やることは一緒です。
どうやら江戸時代にはやり方が確立されていたようですが、この通りにやっていたのかは不明です。
藁人形の作り方なども詳しく分かっていないので、もしかしたら、名前の書いた人型の紙とかつかっていたかもしれませんね。
まずは衣服から白い衣服で顔も白く塗り、頭に蝋燭を灯します。
蝋燭は五徳(囲炉裏とかにヤカンとか置くために使っている、円形の金属の台)をひっくり返すと、足が3本なので、耳の上と後頭部に足がくるので、ここに蝋燭を刺して火をつけるわけです。
丁度、耳のあたりと後頭部に蝋燭が灯りますね。
靴は一本足の下駄にして、髪の毛はお手入れせずに乱れさせておきましょう。
口元は紅を入れますが、右端・左端のところにピッと跳ねるように刺して、唇が裂けているかのように見せると効果的ですね。
鏡を胸元に下げて置くとなおの事よろしいでしょう。
服装は完璧ですね、では小道具を用意しましょう。
まず藁人形を作りましょう。藁をまとめて縛って、複数組み合わせたり、縛った先を別れさせて別れた先で縛り直すなどして、人の形に仕上げます。
できれば、憎いアイツの髪の毛を藁人形の胴体に仕込んでおきましょう。
なかったら、名前の書いた紙とか憎いアイツの持ち物でもかまいません。呪いの相手が明確に分かるようにしておきましょう。
近年では写真を切り抜いて顔部分に張り付けたりしているみたいですね。
木槌と五寸釘を用意して、藁人形・五寸釘・木槌を握りしめて、丑の刻(午前1~3時頃)に神社へ向かいます。
出来れば牛の刻の中でも三つ(一つは現代の30分)となる午前2時~2時半頃が理想です。
これで準備は完了です。
神社のご神木に藁人形を押し当てて、五寸釘を差し込みます。
木槌を使って五寸釘を打ち込んでいきましょう。
まわりに誰もいないか注意深くみておくことを忘れないで下さい、この牛の刻参りをしている所をみられると自分が被害にあってしまいますからね。
五寸釘は神社仏閣などの大きな建築に使われる釘で、長さが何と15センチほどもあります。
全部を生木へ打ち込むのは大変なので、半分ほど打ち込むのが限界でしょう。
藁人形はモズのはやにえのような見た目になっているのでグロテスクですね。
上記のことを7日間行えば、牛の刻参りは完了。
呪った相手には何かの不幸が訪れているはずです。
ちなみにですが、細かい手順は結構曖昧です。
藁人形は同じ物を使うのか、別な物なのかなども明言されていません。
釘を打ち付ける場所も指定されていたり、指定されていなかったり。
まぁ、大体で問題ないでしょう。
◇◇◇
~牛の刻参りの効果~
7日目に死ぬ、とかされていますが、ここではちゃんと考えてみます。
そりゃ、7日間は面倒なものの、木に人形を打ち付けるだけでターゲットがやれるなら、暗殺し放題ですからね。
攻撃手段としては強力すぎますし、ここまでの効果があれば各国の要人は絶滅していることでしょう。
神社のご神木に打ち付けられた藁人形は、神社の神主を始め関係者や参拝者の様々な人の目に触れます。
つまり「誰かが、恨みを買うほどの事をやったのだ」と分かるわけですね。
さらに、藁人形の中からは髪の毛や名前を書いた紙や私物が出てくる訳ですから「誰が標的か」ということまで分かっちゃうかも。
電話やメール、SNSなんて便利なものは無いですから、話は口伝えで広まっていきます。
そんな中、丑の刻参りの対象となった人物にまで話は回ってきます。
「あんた、何か恨み買う事したんかい?」
「そんなこたぁねぇ、と思うんだが、そんなこと聞いてどうしたってんだ?」
「いやね、あの神社の神木に、お前さんの名前書いた藁人形が釘で止められてたんでよ」
こんなやりとりが、段々と広まっていくわけです。
もしかして、この人物が非道をしていたり、トラブルメーカーだったりした日には、噂の勢いは半端ではないでしょう。
尾ひれ背びれがついて、周囲の評判はだだ下がり。
「あんた、女房の顔ぶん殴ったんだってな、なんでそんなことを!」
「そんなことしてねぇってんだ! 噂そのまま信じやがって」
連日見つかる藁人形、呪われている相手はハッキリわかりますから。こうしてちょっとずつ精神に負担がかかるんです。
ここでワンポインと、丑の刻参りをしている所は誰にも視られていないので、誰が呪っているのか分かりません。
呪われているのは間違いなく自分なのに、呪いをかけている相手は分かりません。
こうした迷信が信じられているのであれば、自分が不幸になることは確信ですがいつどうなるか分かりません。
周りの噂もどんどん広まって、あることないこと言われまくってます。
分からないことばかりなのに、誰かの恨みが向けられている事は確実です。
丑の刻参りが不発だとしたら、そいつが直接コッチに攻撃してくるかもしれません。
あ、私物や髪の毛が取られているのなら、自分の家に誰か入ってきているということでしょう。
精神的には不安です。
いつどうなるか分からないので気が気ではありません。
仕事には集中できませんし、注意も散漫になるので、事故にも巻き込まれやすいですね。
夜も落ち着いて眠れないので体力低下しているので持病も悪化しやすいです。
さてそうなると……
事故で負傷したり、致命的な怪我をしてしまう。
イライラして喧嘩を吹っかけてボロボロにされる。
噂が広まり悪事が暴かれてしょっぴかれる。
精神的ストレスから体調不良。
こんなことが起こりやすくなります。
しかも何かネガティブな事が起これば、より効果を実感します。
「あいつ最悪なやつだな」
「あぁ、噂がホントならとんでもねぇ奴だ」
「そりゃ、牛の刻参りもされるってもんだい」
「いい気味ってもんだ、悪人にバチが当たったんだよ」
あれ、事故になっているのに、丑の刻参りをやった奴には視線が向かなくなっていませんか?
釘を打たれた藁人形という猟奇的な見た目、人の噂を通じたネガティブな話、誰かに恨まれているのではないかという不安感。
これこそが呪いの正体と言えませんか?
万が一見られてしまっても、最初に書いた衣装でいれば、そっちに目がいってしまうので近所の誰かは分かりません。
いや、むしろ、ある程度噂が広まっていれば見られたほうが、噂が確信になって効果がアップするかもしれません。
木槌と藁人形という小道具ですが、意外とちゃんとダメージが通っているように思いますね。
きぃぇぇえええ~!!
現代でも、犯人が分からないように嫌がらせを継続してやって、SNSを炎上させたり乗っ取ったりすれば多大なる精神的負担をかける事ができます。
いう間でもなく、こんな状況下では人間は様々な能力が低下しますね。
呪いってデバフをかけることで、様々ダメージが発生しやすい状況をつくるのはちゃんと攻撃ですね。