第172回 振り杖 見た目はただの棒
振り杖
乳切木
契木
現代では杖は足腰が弱ったり、怪我をしたときの歩行の補助具として活用されている握りのついた棒のことを指すことが多いですね。
山伏の方々が修行で山を歩く際に170センチくらいの杖・錫杖をもっていたりします。
こうした杖の中には六角に木を伐り出した物もあり、武器として扱うことができます。
杖術とも言ったり、棍と言ったり、棒と言ったり、地域や流派によっても様々変わっているので大混乱するのが、杖ですね。
今回紹介する振り杖は江戸時代に使われていました。
まだ道の舗装が十分でなかったこの頃は荒れた道・岩場など、いまでいえば山登りをするような道が「ここは手入れが行き届いていて良い道だ」とか思いながら歩くような時代です。
足腰の負担を軽くするために一般の方々も、四国のお遍路さんが持っているような130~170センチくらいの長い杖を使って、町と町を行き来していました。
当然、こうした長い杖はそのまま武器にもなりますが、それから一段踏み込んで作られたものが振り杖です。
振り杖の長さは120センチ程度とやや短めの杖にも関わらず、重さは4~5キロと超重量級となっています。
確かに樫などの密度が高い木材を使って、太めに作られている事は確かですが、それにしても重すぎです。なんでこんなに重いんでしょうか?
名前と重さから、すでに推察されている事だとは思いますが……
振り杖の解説、いってみましょう!!
◇◇◇
~隠し武器なんです~
120センチの杖の中はくりぬかれており、そこに全長70~100センチの分銅付きの鎖が仕込まれています。
いくつかのパターンがあり、分銅その物が蓋になっているもの、蓋が別途取り付けられているもの、仕掛けで開くものなどなどです。
乳切木・契木と呼ばれるものは、棒の先端に鎖が付けられていて、杖の中に収納できないようになっているものです。材質も樫などの木材とは限らなかったらしい……
乳切木と呼ばれる所以は120センチくらいが、この頃の日本人の胸の高さくらいであり、この長さくらいで切ったので「乳の高さくらいで切った木」という意味になります。
分かりやすいですね。
扱い方については言うまでもありませんが、振り杖を振ると分銅が重石となって鎖が勢いよく飛び出します。
この初撃で相手の脳天を叩き割ったり、体に当てて痛みで悶絶させたりと先手必勝を狙うのが基本の使い方です。
相手はただの杖と思っていますので、鎖が飛び出してくるなんで思ってもいませんから、意外とすんなり一撃もらってくれることでしょう。
この一撃を避けられたとしても、鎖を武器化する技術というのは様々あります。
鎖分銅を上手く使って相手の武器を絡めとったり、腕や足に巻き付けて引き倒してやりましょう。
持ち手となる棒の部分が長いので、かなり勢いよく鎖を振り回す事が可能なので、ブンブン振っているだけで十分牽制できますから、時間稼ぎにも有効です。
そして、振り杖の材質は樫などの固い木材ですので、鎖に頼らず杖で殴打することも可能です。
そのまま殴るだけで十分強いのに、鎖で牽制の一撃を繰り出したあと、振り杖の本体での殴打みたいな1人連携攻撃なんてロマンアタックも不可能ではありません。
中には全部鉄で作ったトンデモナイ振り杖もあったようですが……
そもそも、こんな重い物、どこに持ち運んで、どこで使っていたんでしょうかね?
相対したらめちゃくちゃ大変な武器なんですが、自分が使うとなると、すごい苦労しそうです。
ぶん! ひゅぱ!!
最初の一回がめちゃカッコいい!
鎖系統の武器全版に言えますが、自爆率が高い点には要注意ですよ。