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第171回 踊る円月刀 使い手いらず?(幻想武器)

踊る円月刀

魔法の曲刀

フライングソード



 言い方、呼び方は数あれど、自在に飛び回れる魔法がかかっている刀剣のことです。

 ファンタジーの作品では時々見かけるアイテムですね。


 持ち主が剣術に触れた事が無い上に、運動がメチャ苦手な人でも、あっというまに達人でも勝てない程の剣術を披露させることができますね。


 なかには意思を持ってたり、会話が出来たり、そんなインテリジェンス・ソードだったりすることもあります。

 け、剣がしゃべった!?

 お約束なんだけども、これが胸熱なんですよ。


 曲刀の場合は、踊るような戦いを見せる事から『踊る円月刀』などと呼んだりします。

 響きと言い、語感と言い、踊るような扱い方をする名前です。


 なんか、こう……

 グッ! っときますね!!


 筆者ピーターの好みが丸分かりでしょう?

 ではでは、今日はこの魔法がかかった曲刀を見ていくとしましょう。



◇◇◇



~2つのパターン~

 持ち主は必要かどうかで2パターンに分類できます。


 剣を手にする持ち主が必要なタイプ、持ち主がいなくとも自在に飛び回って戦えるタイプ、この2種類それぞれ見てみましょう。


 どちらも素人が持っても達人に早変わりする所は一緒なんですが、そこに至るまでの経過が全くと言っていいほど別物です。


 だってかかってる魔法が違うんだもん。


 まず、持ち主が必要なタイプの魔法の曲刀ですが、これは置いてあるだけならほかの刀剣と同じです。

 ちょっと目立つ場所に置いておけば、インテリアとしてカッコいい空間を演出してくれます。


 この刀剣を手に取った瞬間、かかっていた魔法によって持ち主に達人の技術、達人の判断力がインストールされます。


 素人だったはずが、素晴らしい扱い方の型を披露するばかりではありません。

 次々と切りかかってくる敵の攻撃をかわし、捌き、防ぎつつ、確実に敵の体へと刃を埋め込んでいきます。


 この魔法の曲刀にかかっていたのは「持ち主を達人にする」という、超強力なバフをかける魔法だったというわけです。

 お話出来たら、剣術のアドバイスもしてくれそうですね。


 さて、もう一本の自在に飛び回れるほうですが、こちらも誰かが持って戦う事もできます。

 でもでも、こちらは持ち主の力はあんまり関わってきません。


 曲刀の方が持ち主を引っ張って行って、曲刀自身が動き回って戦っていきます。

 主役は曲刀のほうですね。


 持ち主の方を敵が攻撃してきても、曲刀が勝手に動いてガード、持ち主が攻撃を仕掛けようとしても、その行動を無視して曲刀が考える適切な攻撃を繰り出します。


 結果、持ち主は曲刀に振り回されるばかりなのですが、やっぱり敵の攻撃をかわし、捌き、防ぎつつ、確実に敵の体へと刃を埋め込んでいきます。


 結果は変わらないのですが、前者の場合は持ち主の動きがカッコいい!

 でも、後者の場合は持ち主が初めてジェットコースターに乗った人のように振り回されてますね。

 ある意味、カッコ悪い!


 戦っている最中は鏡のような刃が目の前を通過したり、止まったりするわけなので、そりゃ怖いっしょ。

 ヒヤヒヤし続けて、戦いが終わる頃には涙ボロボロに違いありません。


 ちなみに自在に飛び回れるとしたら、むしろ持ち主がいない方が強いです。


 剣術では自分を切ってしまう事故が結構ありますが、逆に言うと自分自身の体が邪魔になって出来ない動きが存在します。


 下段から振り上げる動きで自分の足を切っちゃったりとかしますが、こうした制限が全部取っ払えるので、予想もしないどころか、人間では考えられない角度から攻撃が飛んでくるわけです。


 しかも、普通の刀剣であれば持ち主を倒せば無力化できますが、刀剣そのものが向かってくるんですよ?


 的が小さい上に金属の固まりを叩き潰さない倒せない強敵って、もうチートっすよ。



◇◇◇



~踊る円月刀~

 何の変哲もない円月刀、おそらく「シミター」などと呼ばれている種類の刀剣です。


 むしろ、ちょっと古びているような印象があるくらいの特徴がなく、よくあるタイプの曲刀がおいてあります。


 『持ち主を剣の達人に変える曲刀がある』という噂がまことしやかにささやかれていますが、ある男は、ひょんなことから古びた曲刀を手にしました。


 古すぎて売り物にもならない、この曲刀をどうしようと思っていた所、この男は数人の強盗に襲われます。


 男を殺して持っている物を奪ってやろう、強盗はいつもの仕事だと言わんばかりに各々の曲刀や短剣を抜いて距離を詰めてきました。

 どの武器にも傷やサビが見え、すでに何人もの血を吸っていることは明白です。


 男が恐怖にかられながらも逃げ道を探しますが、すでに取り囲まれて逃げ場はありません。

 強盗の1人が持っている武器を振りかざして飛びかかってきます。


 絶対絶命、死を覚悟し、これまでの思い出が頭のなかを駆け巡るっていました。

 刃が迫るまでの僅かな時間は男にはスローモーションになっていたことでしょう。


 切られる! 思ったその瞬間。

 手にしていた曲刀が勝手に動き出し、強盗が振り下ろした刃を受け止め、その軌道を男からそらせます。


 強盗の体勢が崩れたその一瞬、相手の刃から曲刀が僅かに動いて、強盗の首筋を優しくなでた瞬間に勢いよく振り抜かれました。

 振り抜かれた曲刀の先端は背後に忍び寄っていた別の強盗の腹を貫いています。


 男がこれが魔法の曲刀だったと気が付いたのはこの時です。

 曲刀は一撃を防いだあとの刹那の瞬間を逃さず、目にも写らぬ早さで2人とも仕留めていました。


 残った強盗も仲間の仇だと言わんばかりに襲ってきましたが、次の瞬間には血の海に沈んでおり、男の体には返り血の1滴もついていません。


 男は確信に至ります。

「あの噂は本当だった、俺は剣の達人になったのだ」


 それから男の人生は変わりました。


 次から次へと戦いに身を投じ、一太刀も浴びる事なく戦場を潜り抜けて行きます。

 当然、富も名声も欲しいまま。美女を侍らせ、美酒と高価な食事を堪能すると、また戦場に出ていきました。


 上には上がいるということを知らないままに……


 あるとき、男は剣の達人と相対します。

 この剣の達人は次元が違いました。


 狂気とも言えるほどに剣術を磨き、剣術に全ての人生を捧げ、尚も鍛錬を続ける。

 寝る間も飯を食う時間も惜しみ、金も名声も求めず、糞尿を垂れ流しながらも、なお屍を積み上げる。

 達人というのも生ぬるい、もはや『化け物』です。


 男と化け物は互角の戦いを繰り広げました。

 人の目には捕らえられないほどの神速の斬撃をお互いに雨のように繰り出します。


 この戦いでも男は自分が負けることはないと思っていました。


 ですが、この化け物は魔法の曲刀の持つ攻撃の僅かな隙を見つけていきます。

 それは隙とも言えぬ刹那の隙間、神をも超える速さがあっても届かぬ隙間。


 紙よりも髪よりも、目にも映らぬ極限の薄さ、刹那の瞬間よりもわずかな瞬間の隙間を縫って化け物の攻撃が男の体を掠めていきます。


 魔法の曲刀を手に入れてからカスリ傷1つ負わなかったのに、男は驚愕の表情を浮かべます。


 化け物も自分と同等の戦いを繰り広げてくれる相手が嬉しかったのでしょうか、狂気の笑みを浮かべながら神速をも超えた斬撃を次々と繰り出してきます。


 ついに化け物が魔法の曲刀の能力を超えた、一撃を繰り出します。


 男の体は滑らかに二つに分かれ、その場に崩れ落ちていきました。

 曲刀も男の体と一緒に地に伏せるはずでした。


 ですが、魔法の曲刀は男が倒れてからも自在に空中を舞い、踊るように次々と斬撃を繰り出していました。

 化け物もそれを疑問に思わず、斬撃を返しています。


 使い手の男など最初からいなかったように、空中を舞い踊る刀剣と化け物は戦いを続けていたのです。


 化け物が笑みを浮かべていたのが、人外の剣の達人と相対していることに気が付いたからかもしれません。

 なぜなら、持ち主という男を守る必要がなくなった魔法の曲刀、持ち主が死んだ今、本当の力を発揮できる様になったから。


 人を越えた剣術の踊りは始まったばかりです。

ダンシングソード!


 勝手に飛び回って戦う武器って、なんかカッコよさを感じて好きなんですよね。


 でもでも、素人を段々と達人にするタイプも渋い魅力を感じまっす!

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― 新着の感想 ―
まさに呪いの剣ですね! 人対人ではなく、人智を越えた戦いに胸熱です。
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