第170回 忍び槍 「むっ! 曲者!」
忍び槍
時代劇で天井裏に忍んでいる忍者を突き刺している槍の1つがこの忍び槍です。
「くっくっく、そちも悪よのう?」
「いえいえ、代官様にはかないませぬ」
「また、この黄金色に輝く菓子、楽しみにしとるぞ」
なんて会話をこっそりと聞いている忍びの者。
屋根裏に潜み、聞き耳を立てて、天井板の隙間から様子を伺っています。
気配を完璧に殺していたはずなのに、悪役ってのは感性がするどいんですよね。
「む! 何奴!」
とか何とか言いながら、どこからか取り出した槍を天井に突き立てます。
「ぐはぅ!」
「手ごたえあり!」
忍者の急所に突き立てられた槍の先端は真っ赤に染まり、悪事は暴かれず圧制は続くのであります。
という、悪の親玉さんが使うイメージしかありません。
ほんと、どっから槍もってきたんですかね?
今日はこの槍を見ていきたいと思います。
◇◇◇
~形状~
長くても200センチほど、デザインはびっくりするくらいシンプルで、まっすぐな柄に先端にだけ小さい穂先が付けられています。
また、石突部分もシンプルで、木材を丸く削り出している程度になっていることが多くあったようです。
室内で使う事前提ですから、振り回して穂先と石突の連続攻撃なんてことはやらない想定でしたでしょうからね。
基本の突き技だけ使えれば十分です。
床の間なので、日本刀を堂々と美術品として飾ったりすることもできますからね。
緊急時の装備として忍び槍にだけ頼らなくてもいいので、それほど豪勢な槍にする必要はありません。
急な襲撃などを受けた時などに防衛のために使われる武器となっていますので、それほど実践で使われた記録は残っていません。
なので、実物とかも残ってないんじゃないかな?
むしろあったとしても、シンプルな素槍と同じような形なので、他の槍に紛れてしまっていたことでしょう。
◇◇◇
~どこにあったの?~
基本的に日本家屋の中で客人をもてなす場所は「床」と呼ばれる掛け軸とか、花とか、刀や壺などの美術品を置くための場所を設けた部屋になります。
以前は床とその部屋は別物とされていたんですが、いつの間にやら部屋のこともひっくるめて床の間と呼ぶようになってました。
相変わらず、日本語ってごちゃごちゃしますね。
床の間の掛け軸やら美術品がおいてある畳一枚分くらいのスペースですが、そこには床柱という柱が一本つけられていることが多くあります。
ここの柱の後ろ側はお客様からも見えない死角になっており、お部屋に訪れた方の目は、飾られた掛け軸や美術品に向かいます。
もちろん、柱は天井側の板にも貴重な木材を使ったり、見事な細工が施されていればですね、その後ろ側に人の目は向かないという物です。
忍び槍はこの柱の後ろ側に立てて隠してあります。
掛け軸の後ろに隠し戸をつけてる描写になったりしますので、みなさんここは予想がつきますよね。
ですが、その横にある柱のその後ろ側はだれも目をむけません。
屋敷の主が居る前で、床の間の柱の裏を覗こうとするような変人なら気が付くかもしれませんが、そんな妙な人間は玄関で追い返されますからね。
日本家屋は襖や障子などがあったり、家の梁などがあり、廊下なども狭く作られています。
大振りな槍や日本刀などを振り回そうとすれば、梁や柱に引っ掛かってしまいます。
つまり間合いが狭い武器しか使えないということです。
廊下も狭いので1人ずつしか部屋に飛び込んでこれません。
こうした襲撃を受けた緊急時は、この忍び槍を持ち、部屋に飛び込んでくる悪漢共を1人入ってきた瞬間に突き刺して撃退していくわけです。
狭い家という限定的な環境で、相手の間合いの外から攻撃するという忍び槍。
置き場といい、用途といい納得の作りですね。
曲者ぉ!!
そもそも天井裏に忍び込んでも、強度不足で落ちてくるような気がするんだよなぁ。
とか言って天井突いていれば穴だらけになってんちゃうん?
やりすぎたら雨漏りするでよ。