○ プレートメイルは曲がらない
いつもは武器の話ばかりですが、今回は鎧の話です。
中世の武器の話を取り上げると、必ず上がってくるのがこのプレートメイル。
『実は弱いんじゃないか』
なーんて話が時々聞こえてくるんですが、このプレートメイルは実際では滅茶苦茶に強いんです。
ちょいとコラムっぽいもので、プレートメイルを何とかかんとか撃破してみようと思った筆者ピーターにお付き合い下さいませ。
ということで、プレートメイルをとりあげて見ていきましょう!!
ちなみに一番重装備のプルプレートメイルですよ。
◇◇◇
~プレートメイルのウソ・ホント~
その1!!
身に付けたら動けない、これは嘘!
実はとんでもなく身軽に動けます。
重量はプレートメイルのタイプにもよりますが、軽くても20キログラム、40キロを超える物も当たり前に存在していたようです。
なおかつ、鎧の下や関節部分にはチェーンメイルを装備することで隙間を狙う攻撃を避けられるようになっています。
40キログラムに、チェーンメイル(これも軽い印象がありますが、実は滅茶苦茶重い)を加算するわけですから、動けなくなりそうとイメージしますが……
自衛隊の行軍などでは、総重量が70キロを超える装備と資材を持って移動したりするので、動けなくなる重量ではありません。
また、関節部分などもパーツを別け、チェーンメイルで補強しているわけなので、関節の動きを一切妨げる事なく動き回れる構造になっています。
宙返りなどは無理ですが、前転・側転くらいなら手軽に出来るのがプレートメイルですね。
関節が固定されて動けないというのは、馬上でお互いを突き落す競技専用で作られていた物です。
なので、通常運用されていたプレートメイルとは根本から違う鎧のことです。
その2!!
メイスや斧で簡単に壊せる、これは嘘!
メイスや斧を対プレートメイルで有効と伝えている事が多いのですが……
『簡単に撃破できる』ではなく『何とか壊せる可能性がある』が正解です。
厚い金属を使用しているだけではなく、その金属は上質であり、人間の体を覆う流線形をしています。
ただの鉄板であれば強烈な打撃で曲がりますが、こうした丸みを帯びた形ですと、衝撃が流されてしまい、なかなか凹んでくれません。
厚さ数ミリの鉄板の下にはチェーンメイルの補強、耐衝撃のレザーなどが仕込まれているので、衝撃だけで脳震盪などを狙うにしても簡単ではないんです。
そのため「プレートメイル撃破に必要な要件」はパッとあげると以下の5点かなと思います。
転ばせて動けなくして
重力を味方につけた必殺の大上段を
地面をまな板にして衝撃の逃げ場をなくして
他の敵兵の邪魔されずに
寸分たがわず、致命的な場所に叩き込む
ここまでやってようやく撃破できるんです。
一瞬でもタイミングがずれたら、側転などで転がって避けられるし、敵の邪魔も入ってきます。
攻撃の手も簡単ではありません、強烈な振り下ろしを的確に瞬時に繰り出せる技量も求められます。
ちなみに武器を取り上げても、自重+40キログラム以上の金属の固まりになるのがプレートメイルです。
体当たりされるだけでも生身なら死んでしまうので、鎧という武器にもなるのがプレートメイルです。
手を守るガンドレッドだけでも1キログラムを余裕で超えるので、素手のプレートメイルでも鉄アレイで殴ってくるぐらいの攻撃力はあります。
これに対峙する緊張感を乗り越えて「プレートメイル撃破の要件」を満たさなくてはなりません。
その3!!
1人で着られない、これは大体ホント!
何人も従者が必要、これはホント!!
沢山のパーツで構成されているプレートメイル、着るだけでも大変な労力がかかります。
従者に協力してもらわないと、着たり脱いだりはとてつもなく時間がかかり、それだけで体力を使い果たしてしまいます。
2人の従者に手伝ってもらえば、10分程度で着脱が出来たとされています。
また、戦闘中では脱いだり着たりもできないので、排泄なども鎧を着たまますることになります。
戦いを終えて戻って来たら、キレイにしておかないと病気の温床に直結するので、お掃除をしてもらわなければなりません。
ちなみに、水は貴重品になりますから、鎧のお掃除は水使用禁止です。
砂や土に汚れを染み込ませてから、それを汚れごと擦り落とすなどが掃除方法になりますから、ものすごく大変です。
食事の用意や武器・鎧の手入れ、プレートメイルの脱ぎ着や馬の世話などの後方支援。
さらに、時には相手のプレートメイル兵を転ばせたり、一緒になってボコボコにするためにも従者は欠かせない存在です。
命を懸ける場に引きずりだされ、食事の準備に加えて、糞尿まみれの鎧を水使用禁止で掃除する従者が一番大変だと思いますね。
その4!!
クロスボウで貫ける、これはホント!
でもね……
以前にも連載でクロスボウをとりあげましたが、これはバイクのフルフェイスのヘルメットを貫通できるほどの威力があります。
ですが、プレートメイルの装甲を貫通するためにはかなり接近して撃ち込まなければなりません。
クロスボウは2発目の設定に時間がかかりますから、1発で確実に仕留める事も求められます。
クロスボウもこうしたプレートメイルを何が何でも貫くために、どんどん改良されて凶悪な性能になっていきました。
それでも、10メートルくらいには近づく必要がありました。
弓である以上単発発射なので、撃ち込んだ後に十分撤退できるためには工夫が必要です。
プレートメイルというと白兵戦のイメージがありますが、プレートメイル兵でも飛び道具を持っている事は十分ありますね。
こっそり接近して撃破するとしても、10メートル程度のかなり接近した距離です。
当然、軽装であれば走って追いかけてくるプレートメイル兵は簡単に振り切れますが、相手が飛び道具持っていれば、その射程から逃げ切る事は非常に困難になってしまいますね。
◇◇◇
とまぁ、このように
プレートメイルは行動のスピードこそ、非常に低いものの。動きは意外と阻害されません。
足をとめて、殴り合うような戦い方であれば、とてつもない強さを発揮する事になります。
ミセリコルデのように、隙間から突き込むとされている武器でも、プレートメイルの下にあるチェーンやレザーを貫く必要がありますから……
やっぱり武器使用の鍛錬ってものを相当に積み重ねていないと、プレートメイルは撃破できないということですね。
例えばハルバードはプレートメイルを相手にして、転ばせて一瞬動けなくなった所を叩き壊すことが目的です。
造られた経過もですが、その使い方に至るまで、凄まじく難易度が高くなっているのは、このプレートメイル撃破という偉業達成のためだと良く分かります。
プレートメイルの存在が武器の発展に大きく貢献している事は間違いありません。