第153回 グリーク・ファイヤー 水の上でも燃える
グリーク・ファイアー
ギリシアの火
ギリシア火薬
海の火
謎が多く、現在でも正体がはっきりしていない、伝説的な存在にまでなりつつあるのが、今回とりあげるグリーク・ファイヤーです。
その名前の通り焼き尽くすための兵器、いわゆる火炎放射器とも言える武器です。
名前についてもまだまだ沢山あったりします。
使われていたのは7~8世紀の東ローマですが、9世紀になっても使われていたという説や記録と思われるもの、逆にもっと古い時代から使われていたという説があったりするので、年代はハッキリしません。
大きさや形についても戦艦などに設置する大型の物から、個人が携帯する小型の物まで様々とされています。
さらに、火炎を放つための原料も、液体であることがほとんどですが、中には火薬を混ぜ込んだ物や火薬そのものだったりします。
実際、流通の関係で油や火薬の産地が様々だったり、使われている期間の間に改善・改良されていくうちに成分が変えられている事なども、ハッキリしていない1つの要因と言えます。
さらに、さらに、名前についてもギリシア火薬という名前はこの頃に使われていた、焼夷兵器全般について指していたので、壺に火薬を詰め込んだ砲弾だろうが、火の弾を打ち込むものだろうが、全部「ギリシア火薬」扱いだったようです。
中国やモンゴル、アラブにルーツを持つ、火薬・火炎を扱った武器も含まれていたので、滅茶苦茶ややこしいことになっています。
このごちゃごちゃは整理が大変なので、今回の解説は船に取り付けられていた火炎放射砲台であるグリーク・ファイアーが中心です。
液体燃料を使って火炎を放つ仕組みが、この兵器の肝になってくるところですね。
水では消えず、海すら燃やす、消えない不思議な炎を探っていきましょう!
みなさんご一緒に!
レッツ! ファイヤー!!
◇◇◇
~火炎を放射すること~
まず、グリーク・ファイヤーの前に火炎を放射するということをチェックしておきたいと思います。
ガスバーナーを大きくしたようなイメージを持つ方もいますが、武器として使う場合はこうした形では不十分です。
なぜなら、簡単に消えてしまうからです。
ガスバーナーではガスが切れたり、風で火が消えたらそこで終わりになってしまいますね。火が消えやすいということでもありますね。
鉄や石の上でも燃えてくれないと、兵器としては効果がイマイチですね。
燃えにくい所でも燃えて、さらには消火しにくいということが求められます。
ここを踏まえておいてくださいね。
それでは、メインのグリーク・ファイヤーですが、これは船の上で使う兵器です。
逃げ場のない船の上で炎に巻かれるなんてことになれば大混乱は避けられません、戦いだろうが、航海だろうが、船の機能は全停止です。
大概の船は木製なので簡単に燃えそうですが、水上なので消火に使う水なんて無料で使い放題になりますから、ちょっと火をつけたくらいではすぐ消火されてしまいます。
グリーク・ファイヤーは使われていた火薬・燃料はハッキリしていませんが、液体の燃料が使われていた事は確かです。
液体燃料を理科の実験で皆さん体験したことがあるサイフォンの原理を応用して、ホースのような管を通して、船に設置されている砲台状の先端から敵船に向けて勢いよく噴出させます。
ここに火をつけてやれば、火炎放射の完成です。
見た目は炎が噴き出しているようですが、実際は燃料が噴き出しています。射程は燃料の飛距離そのものになります。
グリーク・ファイヤーの射程は約30メートル程度はあったとされています。
30メートルというと、現代の消防車の放水が届く距離が40メートル程度だったはずですから、結構な飛距離と言えますね。
さて、解説を続けていきましょう。
船の上に燃料が吹きかけられ、そこに火がついている。大ピンチですが、先ほども言ったように船の上なので、水をくみ上げてかければそれで済むように思いますが、ここで不思議な事が起こっています。
なんと、水の上まで燃えているのです。
ありのまま話をするぜ「水の上が燃えているんだ」となってます。
仮に別の場所から水を持ってきてかけても、火は全く消えません。
それもそのはず、グリーク・ファイヤーの燃料にはナフサが使われている(という可能性が非常に高い)からです。
ナフサとは、つまりガソリン。低い温度でも簡単に発火し、水の上に浮かぶように広がるばかりか簡単に揮発するので広範囲を燃やし尽くすという性質を持っています。
水をかけても燃料に火が付いたまま水の上に浮いてしまうから鎮火しないんですね。
燃えるという現象に必要な3要素『燃料』『熱』『酸素』、これのどれから消えれば、火は消えます。普通は水をかける事で『熱』を奪って火を消すのですが……
グリーク・ファイヤーは低温でも燃えるナフサですから、水をかけて熱を奪うだけでは消えません。
『燃料』となる物を取っ払って鎮火を待つ方法も、液体であるナフサを取っ払う事は困難です。
残された方法は『酸素』を奪う事。土や砂をかけるなど、窒息させて消火するしかないのですが、水上から燃え上がる炎に土や砂をかけても水に沈むだけ……
つまり、グリーク・ファイヤーによって付けられた炎はこうした理由から「消えない」という恐ろしい特性がついています。
海ごと燃え上がっているので、だれも助けに行けず。
船から逃げようとしても、船も海も炎につつまれているので、逃げられません。
できる事はローストされていく船と自分自身を嘆き、絶叫しながら炎に包まれることだけです。
燃え盛る水面に落ちようものなら、炎が酸素を消費しているので、燃えながら窒息するというとんでもない経験の末にあの世へと旅立つ事になってしまいます。
想像するだけでも十分なほど、地獄の光景が目の裏に広がります。
水上でグリーク・ファイヤーを積んだ東ローマの船をみたら、全力で逃走することがオススメです。
◇◇◇
~明確な記録がない理由~
敵船に恐ろしい恐怖を与えるだけでなく、燃える海を作り出して航路を遮ることまで出来たグリーク・ファイヤーは現在でも原料や製造方法がハッキリしない謎につつまれた兵器となっています。
明確な使い方や様子、効果はハッキリしているのに、なんでこんなに謎とされているのでしょうか?
これは当時に徹底的なまでに施された秘密保持の対策によるものが大きいとされています。
グリーク・ファイヤーを使用するにあたってはいくつか押さえておかなければならないポイントがあります。パッとあげるとこんな感じでしょうか。
①燃料
②燃料の運搬
③本体の作り方・取り付け方
④扱い方(燃料の噴出、点火の方法、狙い方など)
分割すればまだまだありそうですが、とりあえず、この程度にしておきましょう。この項目を1つ1つ分析すると、謎が多い理由が分かります。
燃料については、その製造方法や調合方法の全工程を知っている物はごく少数に限られていました。限られた場所で、限られた工程だけを分割して職人に作らせていたという訳です。
運搬も運送するための専用船が作られて、製造された物を港から戦場へ運搬していましたが、この船の乗組員は兵器の燃料を運んでいるとしか知りません。
本体の原理についても、どのような構造でどのような原理で動いているか知っている人も限られており、燃料の製造や運搬の人員とは別にされていました。
扱い方についても扱い方にのみ特化した、特別な訓練をうけている人材に限定するという徹底ぶりです。
このように、全体をみればシステムとしてグリーグ・ファイヤーを使用する要件が整っていますが、その全体を知っている人は「いない」と言える程に徹底して秘密にされていました。
こうした秘密保持の方法は、美味しい炭酸飲料の世界的なメーカーや、フライドチキンで有名なあのお店などでも実戦されていますね。
これほどのシステムを狂いなく運営できる体勢と、製造とメンテナンスができるという財力・技術を今から1000年以上前に持っていた東ローマ、恐るべしですね。
実際、この徹底した秘密保持のおかけで、敵国に模倣される事なく、東ローマ帝国唯一の物と言えるほどの物となりました。他国が真似しようとも、製造や使用などどこかのポイントで失敗していたからです。
とはいえ、その徹底した秘密保持のおかけで、現在でも全体がハッキリしない、様々な説がある謎につつまれた超兵器となっているのがグリーク・ファイヤーです。
炎の海!
ネットとかで見ると、滅茶苦茶複雑な理由が良く分かると思います。
携帯用とかまで書いてると、どこまでも長くなっちゃう……