第145回 ダグザの棍棒 即死と蘇生(幻想武器)
ダグザの棍棒
北欧神話、ケルト神話に登場する偉大な神ダグザ。
体がとても大きく力持ち、武芸に秀でているばかりか、性格も穏やか。
時に戦地で敵方が用意した美味しいおかゆを食べたいあまり、帰りが遅くなってしまうというお茶目な面も持っている素敵なダーナ神族の重鎮がダグザです。
ものすっごい大食いの神様ですが、能力も非常に高く、彼ひとりで他の神様の偉業をこなす事もできるほどの力を持っているそうです。
すごいのは能力ばかりではありません。数々の秘宝や魔術のアイテムもゴロゴロと持っています。
いつでも実をつけて年中収穫できる果樹、片方が焼かれて食べられても片方が焼かれている間再生する2頭の豚、などなど不思議で便利なアイテムばかり。
特に有名なのは食べても食べても中身が減らないどころか、中身が増えているともされる『ダグザの大釜』という鍋でしょう。どうやら死者をこの鍋に放り込むと行き返ってくる力も持っているそうです。
この大釜が1つあれば、戦場の食料問題は一気に解決です。
解釈によっては食べても減ったと実感できないほどの大量の食材を一度に調理できる大鍋とも言えそうです。現実にもショベルカーを使ってかき回さないといけないほどの巨大な鍋とかありますよね。
きっとダグザの大釜もこれくらい大きくて、焦げ付かずに美味しく仕上げる特殊能力も装備されていることでしょう。
う~ん、規模がすさまじくデカイ。
そんな大きな大きなダグザ様ですが、ここまで紹介したのは食事に関するものばかり。
今回も武器がテーマですので、彼の持つ生と死を与える棍棒こと「ダグザの棍棒」を今回は取り上げていきます。
◇◇◇
~ダグザの棍棒とは~
ダグザが持つ、多数の魔法の宝物はサイズが大きな物も沢山あるのですが、この棍棒は特に大きくて重くいものです。
確実な死を敵兵に与えるばかりか、生き返らせる事もできるという便利な棍棒になっています。
ダグザは独りで棍棒を振り回せますが、普段は棍棒専用の巨大な運搬専用の車輪を使って、8人がかりで運んでいたとされています。
しかも、この車輪が通り過ぎた後は車輪と棍棒の重さで掘りになるほどにえぐれてしまう程。それほどの重量を持っています。
一般の人間であれば8人がかりでもこんな重量を押しても引いても動かないでしょう。それでも動かせたのは、この8人が強い力を持つ神族だからこそできる事です。
これほどの重量を持つ棍棒をダグザは独りで握り、独りで振り回します。
姿形は諸説あり、両刃のような突起があるとされていたり、8つの突起が付いていたりとされています。
運搬専用の車輪も棍棒に備え付けられているとされていたり、別になっていたりと、資料や作品によって形状には違いが見られています。
この棍棒を振るった時の威力は大変恐ろしい物です。
一振りで8人の敵を打ち倒し、殴られた敵は全身の骨を砕かれて2度と立ち上がる事なく命を落とします。
一撃でこれですから、全力で振り回したとすればどうなることやら、あっという間に敵部隊は壊滅状態になることでしょう。
神族8人がかりで運搬する棍棒ですから、この重量を直撃されたら例え神々でも致命傷になることでしょう。この棍棒の一撃を受けられる神は限られてしまいます。
ダグザ自信は力自慢でありながら、武芸にも秀でていますからね。
さて、敵と戦うばかりではありません。味方にも死者は出ているでしょうし、敵兵の中にも死んでほしくなかった人もいたことでしょう。
ダグザは棍棒を反対にして持ち、一振りすると、あら不思議、致命傷を受けて命を落としたはずの人々が意識を取り戻し、命を奪ったはずの傷が癒えてしまいました。
色々な作品や文献などでも『棍棒を反対』という記述がありますが、この反対にするという事に2つの説があります。
1つは打面を表から裏にさせる反転をさせるという方法、卓球のラケットの表と裏を変えるようなやり方、もう1つは持ち方を反対にして握る方を上にして殴る所を握りにした文字通り反対の持ち方、この2つです。
筆者のピーターとしては、表と裏の使い分けでこれほどの便利な扱い方よりも、打撃面を握るという一見奇妙な動作が入ったほうが『生き返る』という奇跡をより実感できると感じますね。
◇◇◇
~偉大なるダグザ~
戦場の後ろに立てば、逆持ちの棍棒で倒れた味方を次々と癒し、大釜で十分すぎるほどの食料を与えて下さいます。
戦場の最前線に立てば、棍棒を振るい敵を落ち葉でも掃くかのように薙ぎ払っていくダグザ様です。
これほどの神が死を迎えるということなど、ありえないとも思いますが、例え神と言えどもその命は永遠や不滅を保証されている訳ではありません。
嘆きの平野とも言われる、マグ・トゥレドの地。ここでは2度の大きな戦いがありました。
光の神ルーが祖父でもある一つ目の巨人バロールを倒したのもこのマグ・トゥレドの2度目の戦いの時でした。
実は、この戦いにもダグザが参加しており、ここで受けた傷が彼を蝕むこととなります。
力と技術を惜しむことなく戦場で活躍していたダグザですが、邪眼のバロールが率いていた軍勢は手強く、さすがのダグザとも言えども一息に片付ける事は出来ていませんでした。
邪眼のバロールもそれだけの力を持っていたということですね。
戦いの中でダグザは一本の投げ槍を受けてしまいます。
ダグザに槍を当てた者はケスリン(もしくはセトレン)、バロールの妻にして預言者の女性でした。
並みの槍なら刺さらないであろう程のダグザの体に、ケスリンの放った槍は命中し体に傷を残したのです。
ですが、ダグザも偉大なる神、槍の一本を受けた程度ではその力は衰えず、光の神ルー達と共にこの戦いを勝利へと導き、マグ・トゥレドの戦いを終わらせます。
ここで不思議な事に気が付きます。ダグザの体に打ち込まれたケスリンの槍の傷が癒えておりません。
死者をよみがえらせる大釜の力でも、生と死を司るダグザの棍棒の力を使っても、傷は癒える事はありませんでした。
戦いから数年が経過しても、ダグザの体には傷が残ったまま。
数十年が経過してもダグザの体には傷が残ったままです。何年経っても傷が癒えません。
ケスリンの神としての力なのか、何かの呪いがかけられていたのかは分かりません。ともかく、ケスリンが付けた投げたりの傷は癒えることなく少しづつ、ほんの少しづつ、ダグザの体を蝕んでいきました。
やがて、傷によって体を蝕まれ続けたダグザはついに命を落とします。
それは、マグ・トゥレドの戦いからなんと120年も経過してからのことでした。
偉大なる神、ダグザだったからこそこれほどの年月を傷を負いながらも生きることができていたのでしょう。
生と死!
相反するものでありながら、生と死って概念ってコインの裏表のようなものですよね。
生きているのが正常としていても、死んでしまった存在が生き返るのって医学が現在のレベルまで発展するまでは神話の話でした。
ゾンビ状態になって、土に帰ったとしても。それは死んだ者が本来の死んだ状態に戻っただけのこと。