第144回 十手 「御用だ! 御用だ」
十手
(じって)
(じゅって)
(じってい)
「じって」でも「じゅって」でも『十手』と変換できる。読み方どっちでもよかったんだと知ってちょっとびっくり。
江戸時代の呼び方では「じってい」になるとのこと。情報くれた方、ありがとうございます。
時代劇に登場する現代における警察官とも言える、岡っ引き、同心の方々が持っている刃の無い武器です。
形状は言わずとも誰でも分かるようなほど特徴的です。
1本の棒の手元近くから、鉤と言うL字状の横棒が伸びており、握りのお尻側には紐を取り付けるなどしている姿が一般的な印象になっていると思います。
実はとんでもないくらい形状に細かい違いがあります。
まず基本の1本の棒は円柱状が一般的な印象ですが、これだけでもすごい種類があります。
先っぽが細くなっているタイプ、逆に先っぽだけ太くなっているタイプ、日本刀のような反りを持つタイプ。もうこれ十手と思うほど尖端が太くなっている鞭のような物。
確かに沢山ありますね。
でも、まだまだ。
1本の棒が円柱とは限りません。断面が四角、五画、六角、八角、円に楕円にひし形、根元五画の先端八八角などなど。
さらに材料も金属だけではなく、木製の物もありました。
鉤部分も刃の無い刀のような物から、棒状の物、基本の棒部分に対してより強い反りを持たせている物、本当に様々ですし、横棒の長さも色々です。
握りも日本刀同様の物、鉄の棒に直接革を巻いた物などなど、本当に様々です。
握りも日本刀のような形状をさせて、鞘も日本刀と同じように作り、本体も日本刀のような厚みと反りを持たせた十手状の武器は「針割」や「鉄刀」もしくは「鉄塔」と言ったりします。
十手の形状と材質の説明だけで、1冊の本になるほどの情報量になりそうですね。
それでは、使い方を見て行きましょう。
◇◇◇
~使い方~
名前の由来の説もいくつかありますが、その中に「十の扱い方があり、十の手がある」と言う物があります。
十の取り扱い方ができるから「十手」という訳です。
その十手は「①打ちつける・殴る」「②突く」「③払う」「④投げる(投げ技)」「⑤鉤で絡めとる・引っかける「⑥刀を折る、抑える」「⑦差し込む(工具や道具として)」「⑧こじる(バールみたいな使い方)」「⑨押さえつける」「⑩関節を極める」となります。
やろうと思えば投げつけるなどの方法もあるかもしれませんが、十手を失ってしまったり相手に持ち去られてしまうことを考えると投擲はありえません。
十手自体が、捕り物をする権限と技術をもっているという身分証明でもあったため、無くすことはあってはならないことだったからです。
使い方の解説ですが①、②、③、⑦、⑧、⑨あたりは大体分かると思います。
十手その物の振り方や、扱い方の発想で本当に沢山の用途として使えました。そもそも、同心という身分の証明だったので、十手を抜いて「大人しくしやがれ」とでも言えば、大体の人は降参していたので、見せる武器という側面もあったはず。
①、②、③、は単純に振り方や突き方の違いです。刃としての性能ではなく、棒としての性能ですね。
④の「投げる」は棒の先端や鉤を相手に当てて、そこを起点として投げ技をかける方法になります。衣服や帯などに引っかけてから引き寄せて、足をかけて転ばせるなど、応用の範囲は広い技です。
⑤⑥の「絡めとる」「刀を折る・抑えるは一見すると相手の武器を受け止めたりするソードブレイカーな使い方のように見えますが、刃が無い十手は鍔迫り合いには向きません。
空振りさせたり、振り下ろした剣に合わせるように受け流して、剣を上げられないように抑えるつけるように使います。
絡めとるに至っては鎖武器をわざと十手に絡みつかせて封じるなどの使い方もできます。
⑦⑧は工具としての使い方です。
戸に閂をかけられても、隙間があれば強引にこじ開けることができますね。
金属で太く作られているタイプの十手や、尖端が細い物であれば隙間に無理やり押し込んで、ねじった・こじったすることで、破壊するようなこともできます。
⑨は首根っこを十手で押さえつければ、それだけで相手の抵抗心をへし折る事ができますね。
例え刃が付いていなくても、武器を押し付けられているということは強い恐怖心、威圧感を与える効果があります。
首筋に十手、反対の手で腕を捻りあげながら引っ張れば、相手は何もできずに引きずられてくることが多いでしょう。
⑩はトンファーや棍などの扱い方の応用にも通じますが、相手の脇や腕、首などに十手を当ててひねるようにして関節を固めたり、本来動かない方に力を加えて激痛を与える技になります。
ですが、これは特級の上級編。基本体術の関節を極めるのも練習や人体の理解が欠かせません。そこに道具を使ってとなると難易度は上昇します。失敗のリスクがあるくらいなら、相手を打ち据えるように使う方が無難なくらいです。
実際ここまでの技術を習得して、実戦に用いた人は限られていたことでしょう。
十手を持つ人達の中でも、管理職や組織の上層に入っていけば十手を持っていても実戦の現場に出るということはほとんどなかったでしょうから、組織に属している象徴という側面も強くあったようです。
確かに、現在の警察の方々でも警棒や拳銃を実際の現場で構えるということはあまりありませんから、象徴する武器ということにも納得できます。
時代劇で見慣れた十手ですが、実際にはこんなに複雑な要素を持っていたんですね。
観念しやがれ!
提灯と十手を持って「御用だ! 御用だ!」「火付盗賊改方である!」とか言ってみたい。
感想と一緒に情報も頂きました!
いつも読んで頂きありがとうございます。