第142回 縄鏢(じゅうひょう) ロマンの実在
縄鏢
ションビアオ
みんな大好き、憧れや尊敬を集める中国武術の武器の1つ。
縄の先端に槍の先端というか、小刀や苦無を思わせる刃を取り付けた武器です。
中国は明の時代に登場してきたと、ピーターの手持ちの資料にはありますが、少し調べてみると明よりもはるかに前の唐の時代には、この武器の記述が見られているとされている情報もあったりします。
縄と刃があればできる武器なので、実物は残りにくいでしょうから、ハッキリとは言いにくい部分に感じるところです。
現在でも中国武術を披露する大会などでは、この縄鏢を自由自在に扱う演武を見る事ができたりもします。
インターネットで英語検索するなら「shengbiao」と入力して検索してみて下さいね。
素晴らしい演武を見る事ができます。
鏢という投げて使う刃に縄をとりつけた、読んで字のごとくという形状。
言ってみれば、縄付き手裏剣です
飛び道具が何度も手元にもどってくれたらどんなにいいか。
何度も投げつけられるし、無くしてしまう心配もありませんので『紐つければいいんじゃね?』という発想は出てきますね。
ところがこれが、上手く使えない。
縄が絡んでしまって投げられなくなったり、投げても縄の距離までしか飛ばなくて当たらなくなったり、純粋な飛び道具と比べると縄の分の重さがあるので、適切に投擲が出来ない。
縄が付くだけでもはや別の武器とも言えるほどに性質が変わっています。
ところが、ところがさすが中国。
縄鏢という紐付き飛び道具を十分に武器として取り扱うための技術を開発・習得・習熟させ、実戦に耐えうるどころか、活躍させられるほどにまで昇華させました。
今回は技術介入の要素がものすごく大きな、回収できる飛び道具の縄鏢を見て行きましょう。
◇◇◇
~形状と性質の違い~
まず、紐のつていない鏢ですが、ひし形や木の葉状の形をした中国の手裏剣のような刃物です。
サイズは10センチ前後、重さは150グラム~300グラム程度、万能包丁から柄を取ったくらいの大きさと重さがだいたいそれくらいになります。
お尻の部分に紐や布を結び付けて、ダーツの羽のように軌道を安定させるように工夫したりしていました。
使い手は10本程度を持ち歩き、いざという時に敵に向かって次々と投げつけて相手の足を止めて逃げるための時間を稼いだり、腕や足などに傷を負わせて撤退させる事などを目的として使います。
中には一回り大きな鏢を1本忍ばせておいて、致命傷を与える事を目的として、相手の喉など急所へ投げつけて戦う事にも使われます。
この鏢に縄をつけた物が縄鏢です。
一回り大きな止め用の鏢のサイズで短刀のように仕上げた物に紐をとりつければ完成。
刃物部分の大きさは全長15センチ前後、重さ200~400グラム程度。
タイプによっては、刃物が付いている方と反対側の端に分銅のような重りを取り付けていることもあります。
縄の長さは3~10メートル。
縄の重量まで含めると、長ければ総重量1キロを超えてきますが、投擲中は重さを実感できないため、他の武器とは重さの感覚が根本から変わってきます。
ロールホースをリールごと持っている時と、伸ばしたホースまとめて抱えている時とでは感覚が大きく違いますね。
身近にある物だとこんな感じの違いがあると思います。
みんな小学校の頃に縄跳びの縄を鞭のようにしたり、片っぽに重石を縛り付けて投げてみたりと遊んでみた事があると思います。
え? 無い? あー、そのー……
周りに人や物がない所でやってみてください。
重石が付いているとはいえ、縄ごと勢いよく投げないと上手く飛んで行ってくれません。
少しでも縄が絡まってしまうと先端が上手く飛ばず、向きが変わってしまったりして威力が大幅に減少します。
また、紐を使って引き戻すこともしないと次の攻撃が繰り出せません。軽く手元のもう一方を引っ張ればいいんですが、戻ってきた先端を上手くキャッチしないと、自分の体にザックリ来ます。
縄跳び縄を振り回してみたそこの貴方なら、これがどれだけ難しいかという事が良く分かった事でしょう。
ピーターも小学校の頃に縄の持ちてのプラスチックを自分の顔面に直撃させてしまったことがあります。
実験してみてと言っておきながら、適切利用しないと危ないですね。
◇◇◇
~取り扱い~
普段は縄を束ねて、尖端は鞘に入れたり、縄を巻き付けて置く事で持ち運びしやすいようにして、懐にいれたり、荷物に忍ばせて携帯します。
長さのわりには携帯が楽ということは縄鏢の特徴ですね。
この縄の巻き方もただ束ねただけではありません、工事現場のロープやカメラ等のコードなどを束ねる時に使われるような絡まらない工夫がされています。
懐から取り出した瞬間には投げつけられるので、後の先を取る事も不意打ちをする事にも便利に活用できます。
この辺は普通の鏢とも共通する特徴ですね。
取り出したあとは縄鏢の使い方は複雑になります。
縄部分を持って振り回すことで、相手を切りつけたり、一度手元に引き戻してから投げつけたり、尖端を重石として敵に縄を巻き付けて動きを封じたり、武器に絡みつかせて取り上げたり、などなど多種多様です。
投げつける時には縄部分をまとめて、鏢の先端部分と一緒に投げつけます。
ダーツのように投げるだけだと、勢いがついていない縄部分が鏢を引っ張ってしまって、ブレーキをかけてしまい威力が大幅に減衰します。
これだと、鏢部分が空中で失速してしまい、相手に届くことすらなくなってしまいます。
縄の持ち方で投げる強さや間合いが変わりますから、適切な持ち方と力の入れ方などを調整しなければなりません。
ですが、逆に言えば間合いを見切る事が不可能に近い武器とも言えます。
短い距離で振り回していたかと思ったら、急に伸ばして攻撃するなど、相手に武器が見えているのに不意打ちをするという扱いができますね。
引き戻す時も、のんびり引っ張っていたらその間に間合いを詰められてしまったり、紐を切り落とされてしまったりするので、一気に引き戻さないといけません。
受け止めてから投げ返そうとすると1手余分にかかりますから、引き戻した時の勢いを殺さず反転して同じ方へ投げつけたり、横なぎの動きに切り替えて振り抜いてから次の投擲につなげるなど、連続技にするなど特に技術が必要になってきます。
こうした動きのためには足さばきや、上半身の回転などの技術も必要になってきます。
相手に絡みつかせるなどの攻撃の後は手元に残っているのは縄だけですから、他に武器がなければ己の拳や足で攻撃する必要がでてきます。
縄をかけて、引っ張って相手が体制を崩した時に、強烈な蹴り技が決まれば首などの骨が砕けるほどの大ダメージが発生します。
縄と刃というシンプルな材料で、結びつけるというこれまたシンプルな構造です。
それにも関わらず複雑な扱いができますから、縄鏢の奥深さを感じます。
そして、これだけシンプルだと、歴史に名前が出てくるよりもはるか以前から縄鏢が存在していたことも感じさせてくれます。
もしかしたら、歴史の裏側にこの武器を持った人物が暗躍していたのかもしれませんね。
何度でも~何度でも~、投げつける!
貴様に刺さるまで投げつけるのをやめない!
やろうと思えば、木の枝などに引っかけてよじ登るとかできそう。