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第141回 ニリ・リ 文明の高さの証明

ニリ・リ


 オーストリア、およびその周辺を生活圏とする民族、アボリジニが使っていた棍棒&短槍とも言える武器がニリ・リです。



 アボリジニは独特で高い文化をもっており、突起をもっているブーメランなど独特の形状の道具を生み出してそれを使いこなしているなど、武器に関してだけでもすごい量の知識と経験を保有しています。



 もちろん、狩猟など生活に必要な武器だけでなく、民族独特の宗教、独特なアートや装飾などの細工の技術

、薬草を初めとした薬や医療など多岐に渡り、遥か海を越えた日本にまで情報が入ってきているほどです。

 


 狩猟が中心の民族だったようで、武器の側面としては製造技術も使用技術も高かったという裏打ちになっているように感じますね。

 独特で高い技術をもっている文明、それがアボリジニという民族です。



 これだけ多数の技術をもっているのに、アートなどの文化があったのに、文字文化を持っていなかったという所が神秘性を高めているように感じますね。



 今回紹介する彼らが使っていた武器のニリ・リは棒状の武器なのですが、その長さは60~80センチと短めで持ち運びがしやすいサイズで作られています。

 単純な形状にも関わらず、そこには多数の技術が集約されており、様々な扱いかたが出来るように工夫されている武器がニリ・リです。



 今日はこのニリ・リを見て「なるほどなぁ~」と技術の高さに触れて行きましょう。



◇◇◇



~形状と扱い方~



 持ちやすい太さの棒で長さが60~80センチ程度。棒の両端には別々の加工が施されています。

 一方には石で作った筒状の輪に文様や刻み目を掘り込んであるものをはめ込んで固定。もう一方は削って、尖らせて完成です。



 程よい太さの木を切って、丸く削り出していたのかもしれません。それか大きな木のまっすぐな枝を加工していたのかもしれませんが、いずれにしろ狩猟の中で真っ直ぐな棒を用意すること自体がすでに結構な技術です。



 石の輪と簡単に言いますが、棒の太さとピッタリ合わせて穴をあけるなんて、凄まじい技としか言いようがありません。それどころか文様を掘り込んでいます。

 筒状に削るだけならまだしも、棒に入れて固定なんてどうやってやったんでしょうか。



 棒をとがらせるというのも、尖端部分が中心にきちんと来ていないと刺突の威力が大幅に減少しますから、シンプルでありながらも油断がならない作業です。

 そもそも、それだけ鋭い刃物を作る技術を民族独自で持っていたってこともすごいですよね!



 それでは使い方に行きましょう。

 長さが絶妙なので、両手でも片手でも扱える長さになっています。棍棒なので振って使う事が基本になっているようなので、この取り扱いの良さは素晴らしいですね。



 石の部分で殴打すれば、一撃必殺ですね。

 石の重さと強度を活かして、遠心力を味方につけた一撃は十分な破壊力を生み出します。それどころか石に刻まれた文様が相手の肌をこするので、その摩擦力で打撃を受けた場所の被害を増加させるというおまけつきです。



 片手で殴打の後、反転させれば鋭い切っ先が使えます。

 接近戦で相手の不意をつけば、喉元や胸などの急所を貫き、一瞬で形勢逆転することもできます。

 棍棒という「振る」という動きだけでなく「突く」という動作もニリ・リであれば繰り出せるという訳です。

 普通の棍棒で突きを放っても、大きなダメージにはなりませんから、鋭い切っ先を持つニリ・リの特徴とも言えるでしょう。



 現代でも狩猟の時には、かかった獲物を殴打により昏倒させ、心臓を刃物で突くという方法が用いられることもあります。これだと、殴打と突き刺しで2つの道具が必要になりますね。

 ニリ・リであれば、殴打と突き刺しを1つの道具で繰り出せますから、狩猟などでも有効な道具になると言えます。



◇◇◇



~失われた歴史~



 アボリジニが住んでいたオーストラリアは、隔絶された土地とも言える場所であり、農産物も貧困であり、家畜のエサとなる雑草ですら十分にない地域でした。

 乾燥を主な気候の状態としながらも不安定な気候を持ち、季節の境目が明確でなく毎年違う季節の巡りをするような土地とも言われているようです。



 そんな中で狩猟を主として、たくましく生きていた彼らは独自の文明と生きて行くための技術を持つようになりました。



 ヨーロッパ人がこの地を訪れるようになると、先住民のアボリジニ達は虐殺され、追いやられ、駆逐されていくことになります。

 さらに、外部から持ち込まれた感染症に抗体をもっていなかったため、アボリジニ達にとって未知の感染症が流行する地獄に落とされるのです。



 文字を持たなかったアボリジニ達の技術は、こうした状況で部族が1つなくなるにつれて、1つまた1つと次々に失われていきます。



 今回紹介したニリ・リも一部のゲームなどには登場し、中には「石と木で作ることができる」という設定も存在したりするようです。

 それだけ、情報として残っていながらも、ニリ・リの実際の使い方や製造方法の詳細までは筆者ピーターでは調べることができませんでした。



 様々な棍棒やブーメランなど、限られた資源を最大限に活用して作られた武器を数多くもっていたアボリジニですが、その大半の技術は虐殺による歴史によって、失われてしまいました。

 ニリ・リはアボリジニの武器の中でも特に攻撃面に優れていた事は形状からも明らかです。



 もしかしたら、ニリ・リには形状からの考察だけでは届かない、独特な扱い方や宗教的な意味があったのかもしれません。

 それが、再度見つかることは2度とないのかもしれませんが、技術の粋を集めて作られ、作り手や使い手の様々な思いが染み込んでいることは間違いありません。

魂!


 技術の結晶は、何世代にもわたって生きて来た人の証。

 1つの技術だけでも何十年もかかって生み出された、人の奇跡。

 それがいくつも見る事ができます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これまた、マイナーな武器を取り上げて頂き、興味深くいつも拝読しております。検索しても、これといった画像が出てこないのが残念(´・ω・`) こういった少数民族の技術や伝統が廃れてしまうのは悲…
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