第129回 クロスボウ 令和4年3月より所持禁止
クロスボウ
洋弓銃
ボウガン
少し前はボウガンという呼称が一般的、強力なスプリングの力を用いてボルトやクォーラルと呼ばれる専用の矢を勢いよく打ち出す武器です。
タイプによっては矢をつがえて弦を引く時に専用の器具を使わないと、動かす事が出来ないほど弦・スプリングが硬い物もあります。
ボウガンとは、弓矢を意味する「ボウ」と銃を意味する「ガン」を組み合わせた和製英語です。
弦を巻き上げてスプリングに力がかかった状態にして、トリガーを引く事で留め金を外して、弦・スプリングにかかっている力を開放させて、矢を放ちます。
タイトルにもあるように、クロスボウの所持が禁止になり、合法的に所持するためには許可をとることが求められるようになりました。
鑑賞用・競技用・狩猟用として、個人で購入して所持しているケースは結構あったんですが、これを凶器として人に向けて発射してしまう事が複数件発生していた経過があります。
そして、狩猟用と言っても遊び半分で公園に来ている水鳥や小動物などを狙ったりする事も発生していました。「矢鴨」などという用語があるほど、矢が刺さったままになっている鳥達が見つかるというケースも数件程度ではすみません、多数みつかっています。
獲物として喰うため・農産物を荒らす害獣駆除などで狙うというのは分かりますが、遊びで命を奪うというのはいかがなものなんでしょうか。
動物愛護の観点、傷害致死となるような事件の凶器、このような観点から考えると規制されるということも納得です。家の中に強力な武器が置いてあると言う事は威圧にも繋がりますからね。
こうした凶器になりえるものをどこの誰が所持しているか情報としてまとめるだけでも、所持者個人個人に管理責任を実感させることができますし、凶器として使われた際には凶器の特定も用意になります。
結果、悪用を避けるための抑止力になりますね。
所持している方は令和4年9月15日までに、所持許可の申請・廃棄・譲渡とされていました。
現在でも未登録でお持ちの方は近くの警察に相談することをオススメします。
守らないと懲役又は罰金が課せられますからね。
今回は規制されることが決定した危険なアイテム、クロスボウを見て行きましょう。
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~威力~
年代によっても構造や材質、威力などが変化してきています。
全長60~100センチ程度、横幅は50~70センチ程度におさまっています。
一番大きいサイズでも、筒状にしたヨガマット2本分程度の体積があれば収納できます。
重さも最近の近代の軽量タイプではないタイプで、歴史にも登場してくる4~18世紀の間に製造されたものは6~10キログラム程度だったとされています。
背負えば持ち運びも苦にならない重量と言えます。
最近製造されたクロスボウでも、古いタイプのクロスボウでもハンドガンなどの拳銃と同程度の威力を発揮できると実験で証明されています。
警察庁のホームページでも規制の理由の1つとして、実験の写真と状況の詳細を分かりやすく解説をしながら、条文やQ&Aまで詳しく掲載されていますので、見てみると良いでしょう。
5メートルの距離からクロスボウで矢を発射します。攻撃の対象はバイクに乗っている人が使っているようなフルフェイスのヘルメットです。
強度で考えれば一般的に販売されている物の中でも結構な丈夫さを誇るヘルメットです。
クロスボウから発射された矢はなんとこのヘルメットを貫通します。
いいですか?
「貫通」ですよ。貫いているんです。
後頭部から撃ち込まれた矢は、ヘルメットを貫き、中のマネキンの頭も貫き、反対側から矢の先端が明らかに見えるほどになりました。
ヒット部分から、矢がめり込んだのは25センチと言った所でしょうか。
生身の頭部に当たろう物なら、矢が頭部で止まらずに貫いて飛んで行ってしまうほどの威力という訳ですね。
ちなみにフライパン程度の厚さの金属もクロスボウなら簡単に貫くことができます。
しかもクロスボウは弓のように発射時の細かな操作や、弦を引く所から発射までの力のかけ方、狙い方に至るまでの細かな訓練は比較的少なく済みます。
矢をセットさせてしまえばあとはトリガーを引くだけで、ヘルメットを貫通させる威力を発揮できますから、使い手に必要なのは「狙う」という事だけです。
そのため、弓に比べるとはるかにお手軽になっています。
実際、この使い方のお手軽さから近代まで銃とならんで活用されていた経過があります。
第1次世界大戦の時代ではグレネードランチャーとして、爆発物を投擲するための兵器として活用されていたり、銃と違い音がしないため無音の殺人兵器として使われていたという記録も残っています。
後々、投擲用の筒などグレネードランチャーが専用の兵器として確立されて運用されるようになったりしたことで戦場からはクロスボウは姿を消していきました。
ですが民間には出回り、強力な威力であるということがあまり知れ渡っていないという状況のまま、個人の手に渡っていくようになり、製造もされていました。
危険な武器であるにも関わらず、手軽に入手できる状況が続いていたということです。
◇
~歴史~
紀元前4世紀にはギリシャでクロスボウとも言える武器が登場しており、クロスボウ本体を地面と腹に当てて固定した状態で弦を引いて固定するというメカニズムだったりしました。
弓のように片手で引くと言う事が出来ないほどの強い力がかかっているので、誰でも簡単に強い矢を放てるため、素人同然の新兵でも強力な弓兵として運用させる事ができました。
クロスボウの有用性が認められ、周辺地域へ広まって使われるようになっていきました。
弓は熟達して強い矢を放てるようになるまではかなりの訓練が必要ですからね。
現代日本の弓道でも、初心者はずっとゴム弓の基礎練習ばっかりになってますし、弓と矢を使って的に向かうようなるまでは数カ月かかったりします。
この練習を吹っ飛ばすことができるクロスボウの有用性、もう紀元前に証明されているんですね。
この弦を引くための方法は、最初の腹当て式から、滑車を使ったり、テコの原理でレバーを操作したりする物など様々登場しました。
すごいのになると、本体に自転車のペダルを思わせるようなハンドルが付いていて、これで巻き上げる仕組みになっている物もありました。
当時の戦争は相手を捕らえて捕虜として、身代金を請求して身柄を引き渡す事が一般的だった11~12世紀頃は、殺傷能力が高すぎるため各地の騎士・貴族からクロスボウの仕様に猛反発が起こっていました。
殺されたくはないし、殺して身代金を減らしたくもないという訳です。
中国でも「弩」と呼ばれるようなクロスボウ機構を持つ弓が広まっていました。
足で固定して引いたり、むしろ足を伸ばす動きを利用して弦を引くという機構なども登場していたようです。
ギリシャ・ローマ・ペルシャ・アラビア・中国などクロスボウの機構は広い地域で運用されていました。
当時は木材、鉄や鋼などの金属、動物からとれる毛や腱などの材料で製造されていました。
現代のクロスボウはプラスチック、アルミニウム、樹脂、カーボンなど様々な素材が使われており、強度と軽量という相反する要素を満たすように技術を総動員して作られています。
クロスボウの欠点らしい欠点は連射が出来ないという程度です。大きさこそ、銃と比べるとかさばる物の、持ち運びに致命的となる重量や大きさではありません。
威力、熟達の容易さ、矢の値段、手入れのしやすさなどの得点を考えると、非常に有用な武器である事は疑いようはありませんね。
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クロスボウの所持が禁止になり、許可申請が必要になったという経過も、威力や歴史などを見てみると十分に納得ができます。
それどころか、銃に匹敵する危険性がある物が放置されていたという状況も恐ろしく感じますね。
おそらく「クロスボウ程度で禁止ってやりすぎじゃない?」って思う人もいらっしゃると思います。
そんな人こそ、実験の写真を探してみてください。マネキンの頭部が『閲覧注意』状態になっております。
お宅にクロスボウあるよって言う方、キチンと許可をとるか処分しましょう。
廃棄を希望する方はお近くの警察署に相談すると、無料で回収してくれるそうです。
あ、ちなみにですが許可を取るときに「鑑賞用」という名目では許可は出ません。
標的射撃や産業といった、競技や狩猟などの目的で適切に運用されることの証明が出来ないと許可申請が却下されますから、所持したい方はよくよく調べておきましょう。
警察も110通報じゃなくて、別途、相談窓口があります。
丁寧にお話聞いてもらえることが多いですよ。
禁止!
危険性が認知され、法制度でも対策が整備された案件と言えます。
鑑賞用や競技用として手元にあっても「カッとなって」となった時には凶器と化してしまいますから、所有者の意識付けのためにも必要な措置だったと言えるのではないでしょうか。