第128回 セミ 切っ先が太いし大きい
セミ
マサイ族が扱っている短剣と刀剣の中間程度の長さの刃物。
彼らが自らを指す言葉は「イルマサーイ」と言うそうですね。
ジャンプやダッシュなどの下半身の筋力が高いばかりか、持久力にも優れており、視力・聴力も優れているという身体能力のスペシャリストが揃っていることがマサイ族の特徴です。
ちなみに夜でもある程度の視力を確保できるようで、いわゆる夜目が効くという体質らしいです。
近代の訓練をした軍人が暗視ゴーグル&スコープを装備しているようなスキルを持っている部族がマサイ族です。
槍を持ってライオンなどの猛獣と1対1で戦ったりするという文化もあるそうです。
すごいっすね、真似できません。
マサイ族の武器として有名な物は槍ですが、今回紹介するセミという刃物の他にオル・アラムという刀剣も存在しています。
今回はこの身体能力がぶち抜いて高いマサイ族の刃物「セミ」を見て行きましょう。
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セミは全長50~65センチ程度、重さも600~800グラム程度で作られています。
鍔は無く、握りとなる部分は刀身の根元部分に皮紐を強く巻き付けただけと言うシンプルな作りです。
片手で扱う事が前提なので、握り部分は10センチ程度、刀身が40~50センチ程度になります。
日本刀やロングソード・ショートソードなど、刀剣類の基本的な作りは世界の国や地域を問わず、根元が太く切っ先になるにつれて細くなる作り、もしくは根元から切っ先近くまで太さが同じ作りになる事がほとんどです。
中には呉鈎だとか、フォルシオンだとか、ククリナイフなどのように切っ先近くの方が太いタイプも存在しています。
こうした武器は曲刀が多く、刃と攻撃対象が接する部分が曲面の刃の一点に集中するので、切り捨てやすいような性質を帯びるようになります。
セミは曲刀ではなく、直刀のような形状になります。握り部分が一番細く、尖端に進むにつれて少しずつ幅広になり、切っ先部分が緩めなカーブのようにすぼまっています。
ダイヤモンドの形状を極端に上下に引き延ばしたようなシルエットですね。
こうした形状ゆえに重心の位置が手元ではなく先端によりますし、引っかかった際には手が刃のほうに滑ってしまう可能性がありますから、突いて使うには向きません。
先端に重心がありながらも斧のように極端に先端重視ではありませんが、重さを活かした斬撃が出来ますね。
この斬撃はバランスが良く、風になびく細く丈夫な草の密集地でも、雑木林になるような細めの木や枝に蔦などが混在している所でも。スパスパ切りながら進んでいく事ができます。
柔らかい物を切る・固い物を切る、この二つを同時に行うというのは以外と難しいんです。
斧は木は切れますが、風になびく草を切るには向きません。
鎌は草は斬れますが、少し太めの枝になると引っかかってしまいます。
今回紹介しているセミはどちらも斬ることができますね。
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セミは普段は生活に使うための刃物ですが、いざという時は人や猛獣を相手にすることも出来る刀剣です。
猛獣が生息している地域で生活している訳ですし、部族としての生業である遊牧民としての生活(現在は定職についている人も多いんです)があり、戦いのための道具と生活のための道具を同時に持ち歩くのは非効率的です。
日常生活に便利な道具でありながら、いざという時には身を守るための武器になる。
重量と大きさもどちらに使うにしても扱いやすい重さとサイズになっています。
セミはとてもバランスがとれた性能をもっていますが、これも部族の生活と歴史の中で研鑽に次ぐ、研鑽で磨かれてきた物と言えるでしょう。
便利!
実際、鉈のように使う物かと思いましたけど、鉈でも草を払うには向かないんですよね。
適度な重さがありながらも刃を使うことに重点を置いているので、草も木も切れるという性能になります。