〇 寅・虎・トラ・タイガー・バグ(虎の意)
これを書いてるのは虎年の正月です。
今年の干支は「寅」つまり「虎」ですね。
沢山ある武器には強さや縁起などの意味を込めて、動物や伝説の存在の名前を付けたりする事が多くあります。
今回は干支にあやかって「虎」と名が付いた物などを寄せ集めてみた番外編です。
虎というのは大型で危険な動物という認識が強く、実際その通りとも言える能力を持っている動物です。
嗅覚は鋭く、瞬発力も高く、猫科特有の柔軟性も兼ね備えています。
武器も鋭い牙と両手・両足の爪と十分すぎるものが標準装備で揃っています。
さらに、肉球と柔らかい足運びのため足音がでにくく、体の独特な模様は森や茂みの中に入ると意外な程姿が見えなくなる保護色となります。
森・茂みの中で音もなく姿も見えず、重症を簡単に与えてくる武器を携えて飛びかかってくるわけですから、その強さは誰でも十分に実感できることでしょう。
これまでに紹介した武器なども含めて出していきますので『もう読んだよ』って物もあります、というかそっちのが多いかもしれません。
振り返りも兼ねて『虎』を見て行きましょう!
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『虎徹』
贋作という説が濃厚な近藤勇の刀、虎徹がもっとも有名ですね。
虎徹というのは作った刀匠の銘からきております。
初代虎徹こと、長曾根興里は一族で甲冑を作る事を生業としておりましたが、50歳頃に江戸に出て刀匠として活動を始めました。
後に仏門に入るときに名前を虎徹と改め、刀の銘にも虎徹と読める物が刻まれるようになり、文字の種類や形が変わりながらも『虎徹』という名と技術が受け継がれていったという訳です。
虎徹が作った日本刀は非常に切れ味が良く、刀としての出来栄えも匠の技が光に光りまくり、日本刀の位の中でも最上の最上の位にある最上大業物にもその名が乗るほどでした。
しかも甲冑師の経験や技術を持っていた訳ですから、彫り物や外観の整え方などは他の刀匠より頭1つ2つ抜き出ていたとされています。
上質である事が間違いない虎徹は贋作も多数作られており『虎徹とみたら贋作と思え』と言われるほど大量の贋作や模倣品が存在しています。
真似されるということは、それだけ大元がすぐれていた事の証明とされています。
武器を全く知らないし、時代劇にも興味が無いような人でも虎徹の名前くらい知っています。これほど有名な刀剣もそう無い物ですね。
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『虎落』
元々は中国で虎が侵入してこないように竹を編んで壁にしたものです。
日本では庭園を造るときなどに活用されていました。
戦の現場では鋭く尖らせた竹を大量に地面に刺して、侵入して来ようとする敵兵をズタズタに引き裂くようにして通れなくするトラップです。
現代では有刺鉄線や電気柵みたいな侵入防止トラップですね。
坂の上などから尖った枝を突き出させたりして、登らせないようにする生きた壁である逆虎落というものもあったりします。
枝が丈夫で鋭く、上にむかって枝分かれしているような木をそのまま地面に刺して作る事もあったようです。
攻撃する武器としての設備というよりも、近づくんじゃねぇ、入るんじゃねぇと威圧する事がメインの効果です。
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『バグ・ナク』
インドで使われていた握り込んで、指の間から虎の爪のようなかぎ爪です。
最近のインターネットは便利ですね「虎」と入力して翻訳、インド語に設定して発音確認とすると、なんとネイティブな音声を聞く事ができます。
しかもゆっくり喋ってもらうってことも出来る、素晴らしい!
バグという部分が虎という意味をもっています。
資料によってはハウとかバウとか書いてあったりしますが、インドの発音のためか日本語の音にするとどれにも聞こえるんだよなぁ……
握り込んで使うので特殊な武器とも言えますが、握り方そのものは剣の柄などを握るときと同じような通常の握り方です。
バグ・ナクの型違いにはビチャ・ハウ・バグ・ナクという、短剣が取り付けられたバグ・ナクがあります。
ナイフの握り部分がバグ・ナクとなっており、殴りつける、斬りつける、刺すなどの動きが拳としても短剣としても繰り出す事ができる危険な武器になっています。
ビチャ・ハウという用語はサソリを指しており……
今日は虎なので、ここからは割愛します。
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『デグ』
インドで青銅を材料にして作られた虎の形の臼砲です。
マイソールの虎の異名を持つ、君主ティプー・スルターンが作らせたとされています。
後ろ足を踏ん張り、前足を立ち上がらせ、虎が頭をあげて座っている彫像のようになっていますが、大きく開かれた口には臼砲の筒が顔をのぞかせています。
重い弾を撃ち出して至近距離を山なり軌道の曲射で攻撃することが臼砲の役割ですが、このデグも全く同じ性能を持っています。
ただの発射装置を工芸品や美術品と言えるほどのクオリティで作るということは、それだけの財力や権力がないと実現することが難しい物です。
デグのように精工に作られた物が何体も並んでいると威圧感も増すばかりか、これを持っている軍隊、ひいてはそれを率いている国の威厳を見せることができます。
ただの大砲がこっちを向いているというだけでも恐ろしいですが、それが全て虎の彫像となっているともっと恐ろしいですね。
「あ、あれは何だ!」
「大砲なのか!? あんな彫像みたいな大砲なんぞ知らないぞ!」
「気を付けろ! 特別な弾が飛んでくるかもしれんぞ!」
「なんて、恐ろしい」
みたいな感じですね。
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『飛爪・虎吒』
以前にも取り上げた事がありますが、かぎ爪を紐や鎖につないで振り回すなどの扱いができるようにした中国の武器が飛爪です。
金属むき出しで明らかに武器という物から、丁寧に細工をされて美術品のようにしてあるものまであります。
美術品レベルの物は堂々と飾っておいて、美術品・展示品に見せておきながら、有事の際には武器として手に取れる暗器としての性質や、堂々と見せる事による威圧の効果も発揮する事が出来ます。
竜の爪の形の物や、先が広がるような細工がされている物などは竜吒と呼ばれています。同じように梅の花をモチーフにしたものは梅吒となり、虎の爪の形の物が虎吒となります。
振り回して敵の武器や体に絡みつかせたり、引っかけて引き倒したりして戦います。
武器の性質的に鎖武器になりますから、適切に扱う事が出来るようになるまではかなりの鍛錬を要求されます。
なんか、中国の武器って特に熟達が必要な物が多いような気がしますね。
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いかがでしたでしょうか?
実際『虎』の名や意味を持つ武器というのはもっと沢山あるんですが、通称だったり言語が違ったりなどでスムーズに出してくる事が難しかったりします。
虎や獅子、竜などの逸話が残る言葉は武器の名前に取り入れられる事も多くあります。
その強さにあやかろうとしたり、威圧するためだったり、様々な理由で武器の名前って大事になりますからね。
特に今年の干支は「寅」ですから、今回の武器の名前が皆さまの厄を払い、幸せをつかむ事を祈っております。
皆さま、今年もよろしくお願いいたします。
新年!
本年もよろしくお願いいたします。