第117回 ハルバード 槍の新境地
オーダーメイド頂きましたありがとうございます。
本当に強力で、外見も美しい槍です。
ハルバード
ハルベルト
日本語で言うと、斧槍とか槍斧とか言ったりする15世紀にスイスで登場した槍です。
名前だけならだれでも聞いた事があるでしょうし、ファンタジーをベースにした作品なんかには高確率で登場します。
フルプレートアーマーを着込んだ騎士が取り出す槍とかになると、こういった物を持たせたくなるのが、ファンタジー作者の心理というものです。
構えるだけでもカッコいいんだこれ! 自由自在に振り回す姿をみると心が痺れます!
長さ2~2.5メートルが一般的ですが、最大3.5メートルもの長さの物も存在しています。
ここまで長いと巨人用かなって思いますね。
全部鉄製はファンタジー、相当中抜きや肉抜きなどをしないと全てを鉄にすることはできません。
木製の柄を持っているので重量は2.5キログラム~3.5キログラム程度に抑えられていました。
穂先の部分が非常に大きく、60センチ程度にもなります。これだけ先端が大きいので素槍のように穂先の部分だけ切り落とされる事も少なかったでしょう。
中には柄の部分まで、金属で覆うことで柄を切られないよう、工夫した物もあったようです。
穂先は複雑な形状を持ち、斧のような幅広の刃物を持ち、その反対側にはフックやかぎ爪状の突起が備え付けられています。斧部分とかぎ爪の間から30~40センチの穂先が伸びています。
この穂先は刃になっていますが、なかには針のように尖らせた物なども存在しています。
かぎ爪も単なる突起のようなものや、フック状の物、爪のような物などさまざまあります。
私たちが日常でつかっている荷物掛けの「S字」とか「?」とかの形状を持つフックが沢山ありますよね、そんなフックが金属となってくっついているイメージですね。
物によっては肉抜きをして、ステンドグラスのフレームのように仕上げてある物や、細かい切り絵のようにして芸術作品のようになっているものもあります。
こうしたものは実戦に使うには強度が下がるので向きません。
儀礼的な物や、鑑賞用などの実戦用ではなかったはずです。もしかしたら、鑑賞用に見せておいて、咄嗟の時に手に取れるようにしていたのかもしれません。
インターネットでもすごい沢山のハルバードの画像やイラストが見つかりますが、同じものは2つと無いと言えるほど千差万別、多種多様です。
今回はこの槍の歴史を変える程の威力を発揮したハルバードをみていきましょう。
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~使い方~
ハルバードは4種類の扱い方ができるという特性を持った槍です。
切る・突く・引っかける・叩くという4つがメインの攻撃方法です。
引っかける・叩くというポイントはかぎ爪の使い方で、釣り針のような「?」の形のフックをイメージしてもらうと分かりやすいです。
この「?」の上部の丸みのある部分を使えば打撃になりますし、輪の切れ目部分を扱えば相手を引っかけることができます。
物によっては返しの付いた突起のようなものだったりするので、この引っかけ方はハルバードの形状によって扱い方に差が出てきます。
十分に熟達した使い手であれば、中間距離であれば斧部分を利用した斬撃、遠距離であれば穂先を利用した刺突を組み合わせて複雑な攻撃を繰り出す事ができます。
馬上の兵や鎧兵はかぎ爪を利用して引きずり落としたり、転ばせたりと崩し技を使った上で、急所を突き刺したり、かぎ爪で殴打して昏倒させたり、斧部分で鎧ごと叩き壊したり……
無双っすね。
基本的に使われる事が多いのは穂先と斧部分で、戦争になったときにはこの間合いが違う事を活かして、刺突中心で戦う部隊と斧による斬撃を中心に戦う部隊に分かれていたそうです。
相手の槍兵の中に飛び込んで乱戦の中で戦うような扱いもされており、ツヴァイハンダーなどの両手剣と同じように自らの犠牲もいとわず敵兵に飛び込み戦列を叩き壊す役割も担っていました。
非常に長い間合いを持つパイクが登場してきたあともハルバードの担う役割は大きくありました。
銃・弓を扱う部隊の周辺を守るために加えて、方向転換を苦手とするパイク兵の両脇や後方をガードする時にもハルバードは重宝されました。
こうした警護を行う兵は密集ではなく、パラパラと配置されている散兵となります。集団では振り回して戦うような大立回りができませんが、散兵状態であれば問題ありません。周囲を気にせず思いっきり振り回して敵兵に叩きこむ事ができます。
パイク兵を切り崩すために突っ込んできた両手剣の部隊には突き刺しから、横に振り抜く斬撃なども組み合わせて使えるハルバードは有効です。
間合いの面でも槍の間合いを持つハルバードは有利ですし、多少の接近なら斧の間合いになるため有利に戦う事ができました。
最もハルバードの攻撃が有効になる扱い方は、どの形状で、どのような運営をし、どのように攻撃することなのか、最高の扱い方はいまだに結論が出ていません。
長さや形状の違いが本当に大きく、集団での使用、散兵での使用、個人での使用と用途の幅も非常に広い上、熟達にも時間がかかるため、最高のハルバードの使い方は永遠の疑問になることでしょう。
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~歴史~
これだけ複雑な先端を持ち、複雑な使い方ができるハルバードが世界に産声を上げたのは1477年のナンシーの戦いという説があります。
ブルゴーニュ公、シャルル突進公を戦死させたのが紛れもないハルバードであり、ハルバードを用いた部隊を止められなかったため、ブルゴーニュ公国が敗戦し滅亡の道を歩む事になりました。
槍や剣を用いた白兵戦が戦争のメインであった15世紀にはハルバードが大きな戦力となりました。
他の槍よりも複雑な使い方、両手剣のような扱いもできるのに間合いで優位に立つ事ができるハルバードはヨーロッパ全域で一気に採用され、ハルバードタイプの槍を持たない軍は無いほどまでに広まりました。
間合いの面でハルバードよりはるかな優位を確保できるパイクが登場したあとも、ハルバードは戦場に投入され、パイク兵の護衛隊や切り込み隊、突進を受けた時の抵抗力などで欠かせない役割を担っていました。
16世紀に銃が登場してくると、戦場が大きく変化し白兵戦という戦い方自体がすさまじい勢いで衰退しました。
それにともなってハルバードを含む白兵戦用の武器やフルプレートアーマーなどの防具も一気に駆逐されていきました。
パイクの登場で最前線の武器の地位を追われ、銃の登場で役割にとどめを刺されてしまったわけです。
16世紀後半には隊列を整えたり、兵士達の後退を防ぐためにハルバードを振り、指揮をとることにも使われていました。
勇ましいハルバードは士気を高める効果もあったわけです。
この頃には前線で敵兵とぶつかるハルバードの姿はありませんでした。
ですが、ハルバードが使用された年代については15世紀~19世紀とあります。
武器として前線で活躍したのは100年程度の役割だったハルバードは、その強さと形状の美しさ、誰もが知る戦場での強力な働きなど、様々な魅力を持っていました。
そうしたことから儀礼用なども含め、16世紀以降も様々なハルバードが登場してきました。
今日でもハルバードを儀礼用の装備として採用している国もあるほどです。
前線から外れても数百年に渡り、名誉の象徴ともなっている武器がハルバードです。
戦場の威力だけに目を向けず、ハルバードに込められている人々の思いがどれほどのものかと考えると、その奥深さに心を打たれますね。
美しく! 勇ましい!
本当に絵になる武器であり、美しさと恐怖を同時に与えるという外見的にも素晴らしい武器です。
全てが重い金属で作られているという設定のとんでもないハルバードが創作の世界でも登場しています。
石突から穂先の先端に至る全てが白銀に輝くハルバードを見たら、神々しさからひれ伏したい気分にすらさせられてしまいそうです。