第116回 ハンガー 洋服はかかりません
こんな刀剣もあります。民間から軍用まで幅広く使われました。
ハンガー
アラビア語のナイフという意味をもつ「クファンジャル」にルーツを持つ、西ヨーロッパで16世紀~19世紀にかけて使われた刀剣です。
民間用と軍用があり、元々は狩猟用などの日常で使う刃物として民間で使われていました。
狩りに行ったときの獲物を解体したり、枝葉を払ったりするなど、山仕事のお供だったという訳ですね。
細かい作りの違いは様々ですが、全長で50~70センチ、重さ1.2~1.5キログラム。長さのわりに重く作られています。
鉈みたいに荒っぽい扱いをしても耐えられるように考えられているかもしれません。
切っ先が鋭いので、剣鉈に近いかもですね。
持ち手部分が10センチ、そこから40~60センチくらいのまっすぐな刀身が伸びています。
軍用になると、反りを持たせたりしている物も出てきます。
柄にはナックルガードが付き、金属の棒を取り付けたような鍔を持ってますが、ここの形状は本当に様々。
鍔に王冠のミニチュアや蓮の花がくっついているのかと思うような豪勢な鍔になっていたり、ナックルガードも針金1本程度の物から、手もとを覆うようなカバーのような物もあります。
むしろ、金属の棒程度の鍔が申し訳ない程度について、ナックルガードも豪華な鍔も何にもついてないシンプルな物まであります。
中には、鋸のようなギザギザの加工がされていたり、フックのような斬り込みが刀身に付けられている物もあるようです。
山に持っていく刃物を見てみると、こうした工夫がされている物も多くありますから、ますます山仕事用という感じが強くなってきますね。
今回はこのハンガーを見て行きましょう。
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~民間用~
ハンティング・ソードとか言う場合もありますが、ハンティング・ソードは別の刀剣を指す用語になったりもします。
う~ん、名前って難しい。
とりあえず、ハンガーの初期型は民間で使われることが多くありました。
断ち切る事を前提に使うので、物によっては前述した特徴に加えて、最近の鋸のように握り部分がカーブして手にしっくり馴染みやすいようになっている物もあったようです。
ハンガーは片刃の剣ですが、その先端は背中の方まで刃がくるように先端から刀身全体の3割前後程度まで両刃にされています。
獲物にとどめを刺したり、皮を剥いだり、肉をパーツごとに切り出して運びやすくしたり、狩りの仕事は色々あります。
当然、細かい作業はナイフも用いたでしょうけれども、時にとどめを刺したりするときには大きな刃物が必要になる場合もありました。
以前に鉈の項目で少しだけ触れた、剣と鉈の性質を併せ持つ剣鉈ですが、これに通じる物を感じますね。
鉈は肉厚な刃物で、枝葉を払ったり、薪に火をつけやすいように薄く削って毛羽立たせるような細工をしたりする時に便利です。
ハンガーも長さと重さを見るに丈夫な剣だったはずですから、尖端の両刃剣部分と、肉厚な片刃部分をうまく使い分けて山仕事を片付けていける相棒だったと思います。
~軍用~
軍用のハンガーは歩兵用の刀剣となりました。
その長さから見て当然だと思いますね、この程度の長さでは馬上で使うには向きません。
切っ先は背面まで覆う刃、つまり疑似刃の仕様となっているため、強力な刺突を繰り出すことができます。
これは歩兵の強い攻撃方法ですし、突き技は早いため防がれにくい特徴もあります。相手がアーマーでも重装でなければ隙間を突き刺す事もできますね。
また、軍用のハンガーは刀身に反りを持たせており、サーベルのように仕上げられています。刀身の重さは民間用とも同等のため、その重量も加わって断ち切る力も強く発揮する事ができました。
突き刺しても使える、振り下ろしても強力、刀身が短い事で乱戦の中でも扱う事ができました。
敵味方が入り混じって混乱を極める乱戦の中では槍などを持っていても振り回せず、突き刺す事も難しく、引っかかったりぶつかったりしない短めの刃はとても使いやすい武器になります。
ハンガーは強度も高いため、例えフルプレートの兵士の下敷きにされてしまったとしても壊れる可能性は低く、継続して使うこともできたでしょう。
民間で狩猟用として使われていたハンガーは鍔の部分が簡略化されてしまっているものも多かったですが、軍用の物はナックルガードと鍔がしっかりつけられている物が多くなります。
接近戦では手元を狙ってくる事もありますからね、手を切られてしまえば武器を持てなくなってしまいますね。
それをガードするためにはナックルガードや鍔は必要になります。
掴みあいレベルの超接近戦に持ち込まれたとしても。ナックルガードで殴りつけるなどの方法で攻撃する事もできますね。
殴りつけてから、蹴り技で距離をとれば相手は体勢を崩しますから、ハンガーの必殺とも言える重さを活かした振り下ろしの大チャンス到来です。
民間用でも軍用でも、強度が高く便利なハンガー、用途が多かったため、様々な形状が開発されたというのも納得です。
軍に採用されたときでも「あ、使った事ありまーす」という兵士も多かったんじゃないかな。
汎用!
使い方の幅が結構広いんですよね、1本で何役もこなせる刃物。