第112回 パイク 足払いだけじゃない!
パイク
15世紀頃にスイスで作り出された槍です。
このパイクが登場するまでの間、スイスの兵士達が用いていた武器はハルバードやバトルアックスなどがメインの武器でした。
そのため敵対国がランスなどをメインとした部隊で進軍してきた場合、間合いの面でスイスは非常に劣勢になってしまっていました。
騎兵部隊を何とかしないことには、敗北続きとなってしまう状況でした。
長い槍というのは、扱い方が限られる分比較的習得は容易なのですが、十分な効果を出すための集団戦法の習得には練習が必要になってきます。
動作の連携・タイミングがずれると効果は大幅ダウンしてしまいますからね。そして持ち運びの方法についても長ければ長いほど先端が揺れて持ちにくくなります。
パイクは短い物でも5メートル、長い物では8メートルにもなりました。これだけの長い槍で大量に前線に投入されている槍はパイク以外にはないでしょう。
長さの割りに重さは最大でも5キログラム程度、これだけの長さでは頑丈さや竹のようなしなやかさを持っていないとポッキリ折れてしまう事もあるほどですが、パイクはそうならないように設計されています。
これまでスイスではハルバードを中心として戦術を組み立てていましたが、このハルバードを有効に使う事ができなくなっていました。その理由はリーチの短さでランスの突進を止められなかった事にあります。
敵軍が使っていたランスは長さ3.5~4.2メートルとなり、ハルバード最大級に長い物でも3・5メートル、一般的な長さはせいぜい2・5メートルのため、長さとして大きく劣っていたことが致命的です。
そればかりか、ランスは太いばかりか手元をガードしやすい形状であり、徒歩でも騎乗でも扱うことができる上に、すさまじい突進力をほこっており、ハルバード部隊は簡単に蹴散らされてしまっていました。
長さで考えても相手に1メートル以上の有利があるので、ランスで密集突進されてしまっては手も足もでなくなります。
ハルバードの先端が届くころには、ランスが自分の体を貫いているでしょうからね。
それを何とかするために必死に考えた結果がパイクの活用です。
敵軍の飛び道具やランスを駆使した戦法に対応するため、軍隊全体の運用・戦術を根本から見直す必要に迫られ、パイクを中心とした戦術に転換することが決定されました。
この思い切った方針の変更には、あちこちから非難や困惑の声も上がった事でしょう。相当な訓練時間の確保や、移動中の持ち運び方法に至るまで、大きな負担もあったことでしょう。
ですが、この方針の変更のおかげで、ランスを扱う敵軍とも互角どころか圧倒するほどの強さを得る事が出来ました。
ブッシュ・オブ・パイクなどと呼ばれる肩の高さで敵をけん制し、こちらの弓兵や銃兵を守りやハルバードなどの接近戦部隊が飛び込めるよう、相手の前線をパイクによる刺突で崩壊させる事を狙う戦法が産み出されました。
茂みという意味を持つ「ブッシュ」の名を冠するように、パイクは多数のパイクが雑木林のように群がり、近づくどころか、強引に突破する事も出来ないほどになります。
このブッシュは攻防一体の戦法であり、陣形の中心にパイク兵が配置されていました。
敵兵の直接攻撃を受ける時にはパイク兵を中心に密集し、大砲などの飛び道具を受ける時には逆に散開する動きをしながら、弓や銃を装備した部隊は飛び道具が意味をなさなくなる白兵戦の開始までは弾幕を張る役割を担います。
ランスを装備した多数の騎兵とも互角以上に戦うどころか、押し勝つことすらできる強さをもっています。
当初はパイク兵は戦力の大半を占めるほどでしたが、小銃が発展するにつれて割合は減少していきました。
銃は連射が難しいのですが、段々と銃が改良され性能があがり発射の時間が短縮されるにつれ、パイク兵は減りましたが、パイク兵は必ず置かれていました。銃兵は支援がなければ一発撃った後は次弾を無防備となっていたからですね。
草むらなどに隠れ、敵の騎馬兵の足を引っかけるように使う足払いの技がパイクでは有名でしたが、実際にはそんなせこい戦いかたばかりではありません。
陣形の中心に置かれ、敵軍を止めるばかりか前線を崩すという役割を担い、戦争になると最前線へと飛び出していく事がパイク兵の役割でした。
マスケット銃が開発され銃剣が登場・発展するにつれて、単発飛び道具だった銃兵が接近戦でも単独で活躍できるようになると、パイクは姿を消し、銃剣付きの銃にとって変わられていきました。
無敵とまで称された陣形、スペイン式の攻撃型方陣こと「テルシオ」などパイクが使われていた陣形が有名になっていることからも、それだけパイクは強力な槍だったと分かりますね。
リーチ!
やっぱり長いほど有利って面はありますが、その長さの確保ってすっごい大変。