第9回 マインゴーシュ その名の意味は「左手」
マインゴーシュ、マンゴーシュ、マン・ゴーシュ
※今回はマインゴーシュに統一します。
微妙な言い方の違いはあるが、フランス語で「左手用の短剣」という意味になりますね。
英語にした場合は「パリィ・イング・ダガー」となるが、これは受け流しや弾きに使う専門の短剣を指す用語であり、マインゴーシュを指すよりも広い概念です。
マインゴーシュはこのカテゴリーに加えられる物となっています。
持ち手を含めた長さは30㎝~40㎝程度と短い作りになっている。刀身の部分だけで20㎝~30㎝なのでまさに短剣と言えるサイズ。
基本的な刀身の形状は刺突剣を短くした形になります。
基本的な形状は持ち手と刀身の間の鍔の部分が、20㎝~30㎝程度の棒になっており、単純な物はここまでの作りというシンプルなものです。
でも、こだわったマインゴーシュは持ち手を細工の入った金属がハンカチをかけるようにしてカバーしています。
これだけで豪華さがはねあがってますね。
さらに、刀身の根元付近にはソードブレイカーのような櫛状の切り込みがあるものや、刀身に沿って反しが付いた溝があるものもあります。
握りの近くでも鍔の横棒が湾曲して両端が相手へ向いているものなど、様々な工夫が凝らされているものまであるんです。
極端な物では、スプリングの仕掛けが組み込まれており、刀身が三叉に分かれる物、刀身の根元だけではなく鍔の横棒の部分にまでソードブレイク狙いのフックがついている物もあった。
けれども、ここまでいくと別物な印象になってきますね。
あちこちの資料の中では手元を覆う金属の細工が、小さな盾のようにして刀身の根元まで覆っている物までも存在していほどです。
ゲーム内では「守備力も上がる短剣」という位置づけだが、これまでに上げた特徴によっては「攻撃力が上がる盾」とも言える形状まであります。
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武器マニアの筆者ピーターとしては強度に不安ありです。
スプリングなどの関節を生じさせる機構があるものは、総じて壊れやすく、値段が高いため、課題が増えるアイテムだと思われます。
ちなみに重さは0.2㎏~0.4㎏、細工や使われている鍔などのサイズとして考えると軽量です。
そもそもパリィに使うアイテムですから、軽すぎても弾けないし、重すぎたら素早く使えないので、その間の絶妙な重さが求められます。
個人的な感想としては意外と軽いな、と思いながらも納得できる重さです。
限られた重量の中で、手元を切られないための鍔と金属の細工まで作るという技術が光る一品ですね。
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マインゴーシュという形状の複雑さと種類の多さもありますが、防御という側面が強い以上、どんな攻撃に対しての防御が考えられているかなども確認しておきましょう。
基本的にはソードブレイク狙いよりも、対刺突用の防御、パリィ狙いの武器です。
刺突剣について、パッ思いつく物は、レイピア・エストック・フルーレあたりでしょうか。マインゴーシュはヨーロッパ発祥の防御武器なので、一応その辺も確認します。
『マインゴーシュ』
ヨーロッパ
15世紀~18世紀
形状などは上記
『レイピア』
ヨーロッパ
16世紀~17世紀
長さ(持ち手含む)70~80㎝
重さ1.5~2㎏
『エストック』
ヨーロッパ
13~17世紀
長さ(持ち手含む)80~130㎝
重さ0.7~1.1㎏
『フルーレ』
西ヨーロッパ
17世紀~現代(フェンシング競技用含む)
長さ(持ち手含む)100~110㎝
重さ0.3~0.5㎏
サイズと年代を見るに、主にエストックやフルーレの対策として使われていたのかもしれません。
もう少し古い時代であれば、プレートアーマーの存在があり、機動性を犠牲にする代わりに刃物に関する絶大な防御力を誇っていました。
しかし、銃器の登場により機動性の犠牲が致命的となり、プレートアーマーのような鎧は一気に廃れていきました。
その後台頭してきたのは、剣によって攻撃と防御をこなす、技術の登場であり、17世紀にはこの技術が全盛期を迎えます。
武器の年表も確かに17世紀に集中していることがわかりますね。
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続いて攻撃についても考えてみましょう。
マインゴーシュは防御が主ですが、攻撃手段は刺突となります。
斬ることには向いていません、切っ先が鋭くその部分で突く、つまり刺す事に特化した作りになっています。
刺すという点の攻撃ですから、横から剣などを当てて逸らせれば自分に当たる事はありません。
一本の剣によって攻撃と防御を使い分けて相手を追い詰めていく、この技術は現代のフェンシング競技に集約されています。
これらの刺突剣は全て片手剣になるので、もう一方の手が空きます。
マインゴーシュはこの空いた手に持つ事で戦法の幅を広げるアイテムです。
重量の差が大きく、ソードブレイカーの中でも防御の側面が強い性能のため、正直、剣を折る事は難しかったのではないでしょうか。
相手の剣を払い、もしくは絡めとり、一瞬、それも瞬きをする間もないほどの一瞬のスキを作り、こちらの刺突を通すために使われていたのだと思います。
トリッキーなスタイルを考えると、マインゴーシュがあることを利用したスイッチがあります。
これは右手のスタイルと左手のスタイルを交戦中に入れ換えながら戦っていくスタイルです。
プロボクサーの中にも、右利き・左利きどちらのスタイルでも戦えるタイプの人がいます。これを刀剣で実行できるということですので、相手にしてみれば翻弄されます。
攻撃優先の右の刺突剣、防御優先のマインゴーシュ、どちらがどのように来るのかを考えると手数は倍になるので、高度な読み合いになるでしょう。
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個人的な考察をすると、手元にある資料の中でマインゴーシュが具体的にどの剣をどう弾くために使われたか、そしてどのように帯剣していたか等が書かれていませんでした。
手元や刀身の細かい作りなどを考えると、実践に配備するというよりも護身具や防犯といった目的もあったかもしれません。
特徴的な作りなので、これが置いてある事が、コンビニのカラーボールのように、相手に警戒させて攻撃の実行を取りやめさせる効果などを狙ったのかも。
それに、細かい細工や細かい作りがあるので、下手するとレイピアやエストックよりも値段が高かった可能性すら見えてきます。
バリバリに使われていれば、マインゴーシュで2刀流、相手の突きを1度かわせば勝利確定の流派も存在してるかもしれません。
ここまで実践で使われていた記録や情報が出てこないということは、もしかして……
『2本使うの難しかったんじゃない? だって、練習量と実践経験2倍必要になるから』
ってことで積極的な使用がなかったんじゃないかなぁ。
刺突剣の2刀流!
最近のデザインを見ると、鍔が大きくて刀身を太めに描いているナイフみたいのが多い印象。
現在は骨董品として人気です。鍔部分の作りや手元のガードの細工などが美しい。
傷がついたのとかがあると、どうやって使ったか詳細も考えられるんだけどなぁ