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第89回 スコーピオン 進化を遂げた槍

スコーピオン


 イギリスで16世紀頃に登場した槍、長さ2.5メートル程度、重量2.5~3キログラム程度。

 長さと重量を見る限りでは、よくある槍と大差ないように見えますが、この槍の特徴は穂先の複雑な形状にあります。


 イギリスを含むヨーロッパ周辺では様々な槍が登場しました。

 斧の要素を含んだり、包丁のような穂先を持っていたり、穂先の左右に沿うような刃がついたり、鈎爪付きだったり、本当に様々です。


 斧のような刃は振り下ろした時の威力が跳ね上がり、穂先そのものが丈夫で重くなりますから相手が重装備でも撃破する事ができます。

 包丁のような刃は作りやすく、日用品から武器に加工するときにも登場しますから、革命などの時代が変わるときにも手にされていました。

 穂先に左右に沿う刃がついているのは敵の武器を受け止める事もできますし、相手に深く突き込みすぎて、刃が抜けなくなる事の防止になります。

 鈎爪は相手を引き倒したり、馬上の騎士を叩き落し、打ち据える事ができました。


 このスコーピオンは極端な話、これが全部一緒になっている穂先を持っています。

 先端を広くする鉈のような刃の先端に短剣のような刃が伸び、鉈の背の部分には鈎爪状の突起がついている。この時点でも十分に複雑な穂先なのですが……

 刃の根元に沿え刃や鈎状刃が付いていたり、針のような突起を備えていたり、いくつかのタイプが存在しているようです。


 スイスで登場した、斧、槍、鈎状刃のついた、複合タイプの槍で最も有名な物の1つハルベルトに含まれるという見方があります。

 ですが、武器の進化としては農耕器具を武器化したビルという、鎌鉈の背に太いトゲのような刃をつけた武器から来ているという説があったりします。


 今回はこの複雑な穂先を持つ槍、スコーピオンをみていきましょう。





~独創的な穂先~

 先ほども触れましたが、あらゆる槍の特徴を全てもっているとも言えるほど複雑な穂先をもっています。

 もう一つ先端の特徴を述べるとすれば、この複雑な形状の穂先はハルベルトと同じように1つの金属から作られています。

 強いて言うなら、狼筅ろうせんの進化した筅槍せんそうが近いかもしれません。


 先端の先端に伸びる刃、いくつもの突起、斧や鉈を思わせる刃。

 名前となっているスコーピオンも長い尾と針、両手のハサミ、トゲトゲしい足、全身を覆う強固な外骨格。この槍のフォルムから名前がついているのも分かる気がしていきますね。


 これだけ複雑な穂先を持っている訳ですから、使い方もまた複雑になります。

 突き刺す、振り下ろす、薙ぎ払う、引っかける、引き倒す、相手の足を払う、馬上から引きずり落とす、などなど。いくらでも用途が出てきます。


 これだけ複雑だと、何かやろうとすると少し支障も出てくるものです。

 スプーンとフォークの機能が両方ついている先割れスプーン。普段は特に問題がないように感じられても時々使いにくい事があります。

 スプーンですくおうとしても、フォークに刺さって上手く乗せられなかったり、逆にフォークで刺そうにも先端の丸みで上手く刺さらなかったりとかですね。


 スコーピオンもこの複雑な先端の形状故、止めを刺そうとばかりに深く差し込もうとしても、突起の部分で止まってしまったり、斧のように振り下ろそうとしても先端部分が先に辺り幅広の刃部分が当たらなかったりとすることもあったと思います。


 また複雑な形状を持つ穂先は重心の位置も安定しにくいため、製造する職人に高い技術が求められます。複雑な形なのに、重さの中心を槍として使いやすい位置に持ってくる。これをいくつも作るというのは神の技とも言える難易度です。


 ハルベルトはヨーロッパで15世紀の後期に登場し16世紀には複雑な使い方ができる強力な槍ということで、槍兵の能力を一気に強化し戦場の姿を変えるほどの効果を生み出しました。

 例えハルベルトが無い地域だったとしても、これに近い武器を配備していなかった国は無いと言えるほどの成果を誇っており19世紀というつい最近まで活躍していました。


 スコーピオンは16世紀に登場し、すぐに表舞台から消えて行きました。

 ハルベルトに対抗するためになんとかそれを模倣して作った槍だったのかもしれません。スコーピオンに関する資料はそれほど沢山ありませんが、描かれている形状がどれも異なっており、試行錯誤されている背景が感じ取れます。

 細身の物もあれば、根元の部分が鉄板そのままとも言える幅広さを持っていたり、などなどです。

 複雑な形状でありながらも洗練された機能を持つハルベルトはどの資料を見ても、形状の大小はあれど、ほとんど同じです。


 使われた年代と地域を細かく見ると、ハルベルトは15世紀~19世紀、ヨーロッパ。スコーピオンは16世紀、西ヨーロッパとなります。

 ハルベルトに対抗しようとして作られたが、ハルベルトを越える性能に至る前に駆逐されてしまった槍がスコーピオンなのかもしれません。

貫け! 引き裂け! 叩き潰せ!


 安定した形状と、使い方の確立が進めば強かったんだろうなぁ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーん…画像検索してもあまり出てきませんでした。 先端がもっと長ければ用途が広くなったかもしれません。
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