15
以前、私は付喪神を活性化させて、エミリと戦わせていた。
実際にモノには魂が宿る。その魂を私は弄んだことになる。
私は物言わぬアリムレイを見上げる。
付喪神たちに今までのことを水に流してほしいとは思わない。
だが、せめてこれからはモノを大切にしようと思う。
無言でアリムレイに触れる。
冷たい。
だけど、その奥に感じる付喪神の温かみ。
「よろしくお願いしますね」
私は、付喪神に挨拶を交わすことから始めようと思う。
Side:メタトロン
とある喫茶店。
そこに5人の少女が集まっていた。
5人とも目を引く優れた容姿を持ち、店内の客も店員もその5人に目を奪われた。
「私、コーヒー。ブラックで」
「あたしもね、コーヒーブラック!」
「うちは、紅茶でええわ」
「そうだな、私はカフェオレで。砂糖多めで頼むよ」
「わたし、オレンジジュースー!」
は、はい!と惚けてた店員が慌ててオーダーを通す。
今日はいい天気ねー、と適当に会話を交わしながらオーダーした飲み物を待つ5人。
「お、おまたせしましたぁ」
テーブルに並ぶ飲み物を前に、一斉に5人は声のトーンを落とした。
そのうちの一人が、20センチほどの女の子の人形をテーブルに置く。
「急に5人に集まってもらってごめんね」
驚くことに、凛とした声は人形から発せられた。
人形に集められた5人。柊野美夢、城山みなみ、湊楓、諏訪結華、ティターニアという名を持っていた。
「で、どうしたの、メタちゃん」
この場をセッティングした美夢が身を乗り出す。
美夢は、ウェーブした髪を肩のところで切りそろえ、大きな瞳がくりくりと動く。曰く、猫のような印象を与える。
集めるだけ集めさせられ、用件を聞かされてないからだろう。しびれを切らしたように言葉を口にした。
「あれから9日経ったね」
メタちゃんと呼ばれた人形は、しみじみと言葉を紡ぐ。
人形のいう「あれ」とは、妖精王オベロンとの戦いを指す事を5人は容易に理解できた。
あの戦いで、彼女たちの中核である楠木エミリと、オベロンが依り代とした小鳥遊雪の二人が姿を消した。
「オベロンに幽閉されていた、わたしがこの場にいて、助けてくれた人がいない…変な感じ」
5人の中で一番幼く見える長いストレートの金髪の少女、ティターニアがオレンジジュースに刺さったストローを弄びながら言葉を口にする。
幼く見えるが、彼女はオベロンの妻である。オベロンはすでに消滅したので未亡人というべきだろうか。
「一応、二人が他所の場所に転移したんじゃないかって調べたけど…」
明確に口にはしないが、結華は『手掛かりなし』という言葉を拒否した。
切れ長の瞳、長い脚、モデルのような容姿を持つ結華は、この5人の中で唯一の雪の知人の立場にある。甘いカフェオレを口にする姿に店内の女性たちが息を飲むのがわかる。
「……反応があったの。マジカル・ミカエルの反応」
人形の言葉に5人は大きく反応する。
「どこにいるの!?」と楓が大きな声を上げるが「人の目があるやろ、落ち着きぃ」とみなみに窘められる。羞恥で顔が真っ赤に染まる楓を責める者はいない。楓が声を上げなければ、誰かが声を上げていただろうから。
「私の力ではわからない。けど、きっと彼女は生きている」
5人の口元が安堵で緩む。
「だけど、会える確証がない。もし会えたとしても、日本に帰って来れないかもしれない」
人形は言っているのだ。これ以上彼女を求めれば、日本の土を踏めなくなると。
「わたしは、平気。元々この世界の住人じゃないし。わたしを救ってくれた恩人に、ちゃんとお礼をいいたいもん」とティターニア。
「私も行く」と即座に決断を下す結華。そして、言葉を続ける。
「あなたたちは、ゆっくり考えなさい。まだ中学生なのだから」
二人のように即答できない三人。帰って来れない……それは親兄弟と二度と会えないということなのだから。
三人の中で一番最初に意志を告げたのは気弱そうな楓だった。
「あたしは、エミリちゃんが隣にいない自分が想像できない。ここで会わなきゃ、きっとあたしはあたしでなくなる」楓の言葉が二人の決断を促した。
「私も行くよ」
「うちもや。うちだけ残るなんて死んだ方がマシやわ」
5人の決断は、人形には予想通りだったのだろう。
満足げに頷き、にっこりと笑顔を見せた。