12
『いや、そんなわ……戯言に付き合うつもりはない!』
今までの戦い。重要なのは間合い。
薙刀の間合いに見えない線が浮かび上がる。
仮面もその線が見えるのか、線のギリギリまで足を進めるが、それ以上は踏み込もうとしない。
『どういうことだ?貴様から歴戦の雰囲気を感じる』
「あたし、こう見えて50回は戦ってるからぁ。負けも経験してるもん」
足が動いた。
容赦なく境界の侵略者へ薙刀が振られる。
『……これは…戯言ではないということか』
「そうなるねぇ」
『だが、こちらの方が早い。負けることはない』
カラン、と足元にナイフが落ちた。
いつの間に投げたの…?
『勝てることも無さそうだけど。心臓を狙ったのにね』
「勝利宣言?あたしにはまだ変身を2回残し……あれ?」
仮面は、脱兎のごとくあたしに背を向けて走り出した。
『戯言に付き合うつもりはない、と言った。さらばだ』
その言葉を合図にナイフが再び人の形を作り出した。
「もぉ!もぉぉ!!アスタロトだって、もう少し戦ってくれたのにぃ!」
かつての敵役と比較した相手はすでに姿はない。
その代わり、3メートルほどのナイフが化けた黒い怪物が残された。
「セラフィムブレイド!」
黒い怪物を横に凪ぐ。
一歩下がった怪物は、薙刀を回避。すぐさま黒い両手をあたしに伸ばしてくる。
その拳は空気を割く。
薙刀の柄で弾き、一歩後退。
強い!?
薙刀を握りなおすと、怪物の足を狙う。
意図を察したか、上へ飛躍。
「アスタロトは言ってたよ、上への回避は無策だって!方向転換ができないんだから!」
怪物の落下位置から上へと薙刀を振り上げる。
刹那、怪物はナイフに戻り、その隣を薙刀が軌道を描く。
「しまっ!?」
ナイフが再び怪物に変身。がら空きになった脇腹を衝撃が襲う。
効かない。効かないけど。
「重力って…動くと重みがわかるねぇ」
全然戦える魔力はある…けど、体力がもたない。
怪物の拳を薙刀で受け止める。
動きがいちいち早い!
確かにもう一段階変身すればどうってことないけど、変身するほど体力がもたない。
あぁ、体力づくりしないと。
怪物の拳が、薙刀をすり抜けてくる。
体力を奪っていくように思えてくる。
「…使いたくないけどっ!」
あたしは、言葉と共に後ろへ飛翔。
薙刀をステッキに戻し、ステッキに魔力を込める。
「レインボーセラフィックレーザー!」
ステッキから放たれる七色の光が怪物を貫く。
「あなたにも、美しい輝きを」
怪物は光を帯びると。
ピンク色の花びらとなって風と共に溶けていった。
「はぁ……」
変身を解くと大きくため息。
「おなか…すいた……」
あたしは、そのまま校庭に倒れ込んだ。
「あれだ……あたし、なんかお好み焼き食べたい。この際…関西でも…広島……」
あたしの意識はそこで途切れた。
side:雪
私は、ロゼウスと共に『アレン』の隣に立っていた。
30分ほど意識を失っていた私は、そのまま仮眠室で休み、漆黒のアストレイの元を訪れた。
「なにをする気だい?まさかまた女の子になる?」
「はい、すこしだけ」
再び魔法少女になった私は、アレンの胸に手を当てる。
アレンの体が光を帯び、その光が収縮したのを確認すると、私もすぐさま変身を解除した。
「生き返らせることもできるのか?」
「無理です。私がしたのは、千切れた上半身と下半身を繋げ外傷を閉じただけです」
「そうか。すまないね」
それだけを言って、私たちはしばし、沈黙の中に佇んだ。
不思議と居心地の良い静寂に感じた。