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「へっへぇ~ん、あたしと雪くんの間には、何人も入れぬのじゃよ」
「はいはい、わかりましたよ」
肩を落としながら、リィレはひとつの扉の前で止まる。
「始業まで時間あるけど、教室に入る?」
「先生にあわなくていいの?」
「大丈夫、中にいるよ」
リィレが手を伸ばす扉は幅が5メートル、高さが3メートルほどある巨大なものだった。
扉に触れると、空気が抜けるような音と共に、扉は床に飲み込まれていく。
「おぉ…」
扉の内部を覗くと思わず感嘆の声が漏れた。
イタリアのコロッセオのような印象を受けた。
円形の巨大なフロアは中央部10メートルほど円形に低くなっており、席が円に沿うように階段状に並んでいる。
「これが教室?」
「そうだよ」
世界が違うとこうも違うんだ…。
「私たちの学年の?」
「え?ううん、違うよ」
リィレがこの世界の学校のシステムを教えてくれた。
4歳から12歳までを下級学舎、13歳から20歳までを上級学舎と呼ぶそうな。それは、どの学校でも共通らしい。
今、あたしがいるところは上級学舎というところで、上から見るとピザのように低い壁の区切りがあり、その一区切りが一学年に割り当てられている。
授業は、中央の円形のフロアに先生が立ち、空中に映し出される画面を見ながら行うらしい。
「普通、異世界ってさ、文明レベルが低くって、転生した人が進んだ文明レベルを見せつけて『俺TUEEEEE』するんじゃない?」
「私に言われても困るわ」
教室に入った人は前に詰めて座るのが暗黙のルールらしく、早めに来たあたしは、一番前に鎮座した。
隣には先客がおり、「はじめまして」と挨拶してから腰を下ろす。
「は、は、はじめましてっ!わたくし、フォルミア・アシャルノといいます!」
立ち上がると深く頭を下げる。
そう、挨拶の仕草は日本と変わらなかったりする。
先客は身長が150足りないくらいで、艶やかな長い髪が美しい。
凛としたお嬢様がリィレなら、嫋やかなお嬢様というイメージを与える。
「はじめまして、あたしはデズィア村から来ました、楠木エミリです」
「もしかして、あなたも今日から?」
「うん、そうなんだよぉ」
「よかったぁ!わたくし、心細くって!」
二人で手を取り、ぴょんぴょんと跳ねる。
「ねぇ、私も混ざてもらってもいい?疎外感を感じるよ」
リィレも「私、リィレ・ユリノトスと申します。よろしくね!」と会話に参加する。
「あの、教室広いですよね。何人ぐらいいらっしゃるんですか?」
フォルミアの質問はリィレに向かう。
「この学園ができた頃には一学年50人近くいたらしいけど、今はあなたたちを入れても18人。人口減少の影響ね」
養父アイゼルがよく言う『終わる世界』っていうのが、これなのかぁ。
次はフォルミアの大きな瞳がこちらを向く。
「あの、デズィア村って、どんなところなんです?」
「ごめんねぇ、これは極秘事項なんだぁ」
散々、雪くん、アイゼル、エレリアに刷り込まれた言葉で返す。
「そっかぁ」
残念そうな表情を浮かべて、素直に引き下がってくれた。
それぐらいデズィア村って隠匿された村なのかもしれない。
「あら、もうお友達ができたのね?」
私たちの後ろから聞きなれた声がした。少し甘味を感じる香水にも記憶にあった。
振り返れば、予想違わぬサイドポニーのお姉さんが立っていた。
「エレリア姉!?出来が悪くて学生にぃ!?」
「私、首席で卒業しました!!!屋敷ではぐぅたらしててごめんなさい!!」
そう思わせる行動している自覚があるのか、謝られた。
「私、ここの教師なの。フォルミアさんも、エリカも仲良くしてね」
エレリアは、一番低いところまで降りると下から教卓が出てくる。
その上に肘を置きながら半透明の画面を出して操作を始める。
ピン、と画面を指で弾くと、あたしとフォルミアの前に半透明の画面が現れる。
「うん、ナノマシンも魔素も正常ね。登録完了っと」
あたしの前の画面には、名前を顔が18個並んで表示されていた。
「それがあなたたちのクラスメイトよ。保管しておいてね」
「保管?」
エレリアの言葉を理解できず、口に出してしまうと画面に『保管しますか?』と表示された。『はい』を押すと『保管されました』と表示…異世界って、文明レベルは低くあるべきだと思うの、あたし。近未来だよぉ。