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#9 ノイン=ユイア

 パンドラの(はこ)を押しつけられたシェイは、両手に持ったまま困惑した表情をしていた。ハガネは壁に凭れて、ユイアの後方から

「パンドラの筺って、この場合、具体的に、どういう意味だ?」

「うーん。螢の記憶が、どうしてパンドラの筺になるのか……」

 ヤイバも考えているような素振りをしているが、本当に考えているのかは分からない。すると、いつから聞いていたのか分からないが、部屋の奥からマックス探偵が現れ

「パンドラの筺とは、ギリシャ神話で、ゼウスがあらゆる災いを封じた箱を、パンドラという女性が開けてしまった。一般的には、災いが起きることや相手に危害が及ぶときなどに用いる言葉です。しかし、捉え方によっては、別の意味も持っています。箱を開けた後、すべての悪が飛び出した後、箱の底にはエルピスが残っていた、と。エルピスは、古代ギリシャ語で希望を意味します」

 やはり、こういった知識に関しては、マックス探偵が一番詳しい。他のメンバーだと、曖昧な説明で終わりそうだ。

「へぇ~。パンドラの筺が希望に結びつくというのは、初めて聞きましたね」

 と、感心する鐃警(どらけい)。マックス探偵はさらに続けて、

「ただし、その希望にしか人々は(すが)ることが出来ず、その希望も災いの1つだという考え方もありますが……」

 誰も喋らなくなり、ハガネが再度、

「それで、この場合の災いは? シェイに対する災いか? 螢に対する災いか? それとも」

 考えられることを順番に喋っていると、少女ユイアが叫ぶように

「どうなるか、私には分かりません。ただ……、このままでは……、この世界が崩落し、異国へと攻め入るでしょう……」

「ちょっと待った。この世界の崩落って、殲滅のことじゃないのか? 異国への進撃なんて聞いてないぞ?」

 ヤイバはケンの方を向くが、ケンは「異国のことは聞いてない」と首を横に振った。

「異国って、どこのことなのかな……?」

 ケンは、異国についてユイアに確認する。この半径数キロの世界に異国はあるのだろうか。もしくは……。その嫌な予感が当たった。

「国王は、もうじき国民を洗脳し、異世界へと進軍します」

 そんな気はしたけれど、実際に言われると理解が追いつかない。シェイは唾を飲み込み、

「螢の魔力の暴走ってことは、螢に関わる場所……」

 すぐに悠夏が反応し

「えっ……、地元?」

 否定して欲しかったけれど、誰も否定しなかった。魔法の暴走による、異世界への進撃。被害は想像できない。

 慌てそうになる中、冷静なマックス探偵がシェイに対して声をかけ

「国王の名前はカイダ。少女の名前はユイア……。他の人名は、フランスの地名などをモチーフにしてますが、2人の名前で思いつく場所がなく……。ストーリーテラーである、星空 螢君の知り合いにいる人や誰かをモチーフにしているとかは……?」

 シェイは少し考えたが、今ある記憶の中で該当する人物が思いつかず、首を横に振った。

「マックスさん。国王の名前は、カイダ・ルクシオンですが、”ルクシオン”は?」

 ケンが国王の名前について聞くと、マックスは自分の考えとして

「ルクシオン。別の言い方でルクソンとも言いますが、ざっくり言うと、高速で動いている素粒子のことですね」

 と言われても、理解できる者はこの場に何人いるだろうか。伝わったと思われるのは、理系の用語で、由来になりそうな単語があるのだな、といったレベルである。しかし、シェイは左手で頭をおさえ

「違う……。確か、誰かの家に、そんな犬がいた気がする……。犬だったかどうかも曖昧だけど……」

「いずれにせよ、近所のペットの名前ですか。そこだけ、命名規則が違っていたので、気になっていたのですが……、そういうことですか」

 マックスは納得しているようだが、他のメンバーはどうだろうか……。シェイは右手で抱えているパンドラの筺を見て、

「開けるしか……ないか……」

 悩みながら呟くが、反応は薄い。フロールや熊沢がいれば、勇気付けてくれただろうか。鐃警と悠夏は、立場上、発言を控える。ハガネは、寧ろ開けろと言うだろうし、ヤイバとケンはシェイの判断を尊重する。マックスは興味深そうに見ている。

 止める人もいなければ、焦らせるような発言をする人もいない。シェイの覚悟を決める静かな時間がゆっくりと流れている。

 1分ほど経過しただろうか。鐃警が沈黙に耐えられず、

「受けとって気になってすぐ開けるって、まるで玉手箱ですね」

「警部、怖いこと言わないでください……」

 悠夏がすぐに鐃警を注意したが、パンドラの筺の正体は未知だ。何が起こるか分からない。でも、それに頼るしかない……。記憶が戻れば、この状況を打開できる策が思いつくかもしれない。

 現状を整理するとすれば、螢の創作した世界は、今シェイが持っている記憶と異なる部分がある。志乃の居場所は不明で、螢がどこにいるかも分からない。ケンとアキラが調査した城内のマップを見ても、分からない。頼りになるのは、突如現れたユイアという少女と、パンドラの筺。フロールは、たまに魔法を使っているが、シェイはここに来てから魔法を使っていない。理由は、魔法を使う局面が無かったことと、無駄に魔力を消費したくはないから。特段、制限しているわけではない。どうせ使うなら、今だろう。箱の中身を調べるような魔法はあるし、効果を遅延させる魔法で災いを遅らせることもできるだろう。一番は、災いの発生抑止だが、それが出来れば、こんなに悩む必要はない。

 覚悟は決めたが、念のために確認として

「これ、今から開けるけど……、周囲の人間に危害が及ぶ可能性は……?」

「分からない」

 元気よくユイアが答えると、流石に黙っていたみんなが互いの顔を見る。シェイはすぐに

「熊沢とフロールを起こしてくれ」

 何をするか理解したケンとヤイバが返事して動く。魔法に関して知っているのは、龍淵島で直接見た2人だけだ。言われなくても、シェイの考えを察した。

 ケンは起こしに向かい、ヤイバはユイアとシェイ以外の外野を部屋の奥へと追いやる。

「さぁさぁ、部外者は一時退場」

 部屋の外へと追いやると、ケンがフロールと熊沢を連れてきた。シェイは説明を省き、

「結界魔法を、この部屋を覆う範囲で出来るか?」

「うん。でも、どうして?」

 フロールが聞くけれど、シェイは答えない。その最中、ケンは熊沢に事情を掻い摘まんで説明して、それを理解した熊沢はフロールに

「お嬢ちゃん。説明はあとで。結界魔法はできますか?」

 結界魔法は、すでに見たことがあるし、破ったこともある。ちなみに、シェイは結界魔法は苦手であり、パンドラの筺に対する魔法と同時に行うような器用さは持っていない。

 フロールは結界魔法を部屋一杯に発動する。すると、シェイは

「念のため、何もかも遮った方が良い……。何が起こるか……」

 そう言われ、音や光も遮る。すなわち、中の様子が見えなくなった。

「これでいいの……?」

「お嬢ちゃんは、そのまま頑張ってください」

 中がどうなっているか、全く分からない。シェイとフロールを信じるだけだ。結界の中には、シェイとユイアが残っている。シェイは、ユイアに「開けるぞ」と言って、直前に筺の中身を魔法で探り、すぐに開けると、筺がバラバラになる。眩しいほどの光を放つと、3秒ほどで、その光を失った……

 光が落ち着いた後、シェイは目をゆっくりと開くと、その頬には涙が流れていた……


To be continued…


パンドラの筺とユイアは、ブログ版の『MOMENT・STARLIGHT』でも登場しました。『龍淵島の財宝』と違い、大まかなストーリーはそのまま使用しています(半分、偶然ですけど)。キャラと設定は、大幅に変わってますが。さて、パンドラの筺の中身は次回明らかに……

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