#7 ズィーベン=エコール
何年前だろうか……。シェイの祖父が富都枝総合病院に入院し、一時的に学校に通うことになった。祖父に言われたので、断れずに決めたことだ。学校は、富都枝学園附属小学校。日本語は昔から祖父に教えて貰い、当時からある程度は喋れていた。
日本に祖父の友人がおり、医療関係の仕事をしていた。富都枝総合病院は、その友人の勤務先である。少なくとも、ロートン国の医療技術よりも、海外の方が技術が発達している。しかし、何も知らないアメリカやヨーロッパといった国々よりも、知っているところの方が良いと考え、そうなった。
富都枝学園附属小学校で、シェイはクラスメイトと仲良くなり、そのひとりが渦中の星空 螢である。螢は、休み時間に自作の漫画を書いており、そのタイトルは”MOMENT・STARLIGHT”。シェイは、その漫画を読んで、星空とエトワール凱旋門の関係やシャルルドゴールに関して知っていたのだ。
シェイは、詳しくは語らずに掻い摘まんでそう話した。
「この”MOMENT・STARLIGHT”は、螢の創作した世界だ。だけど、魔法の暴走で、螢を飲み込んだ……」
熊沢が右手を少し挙げ「質問、いいですか?」と、前置きをして
「魔法って、一般の人が使えるものなんですか? もしくは、魔法使いの家系だったってことですか?」
魔法使いは、魔法使いの家系しかいない。熊沢はそう認識していた。けれど、日本人の小学生が魔法を使えるとは、これ如何に?
「言えない……。フロールには、言えるはずだけど、魔法を使えない者に言ってはいけない掟がある。そう言えば、おおよそは理解してもらえるとは思うけれど……」
「もはや、答えですけど……、分かりました。それ以上は聞きません」
熊沢はそう言って、別の質問を考える。言えないということは、魔法を使えない者が、何かしらの方法で使えるようになるということだろう。だけど、それは魔法使いの掟として、禁じられている。深読みしすぎかもしれないが、おそらく、一般の人が入手することは困難なものだろう。詰まるところ、シェイが先ほどから都合が悪いような表情をしたり、「俺の責任でもある」と言っていたり……、そこから考えられることは……、シェイが何らかの理由で螢に、その方法を漏らしたということだろうか……
「ところで、その時って、ブレイクしてました?」
熊沢は自分を指差して確認すると、シェイは頷いた。
「祖父が亡くなってからも、ロートン国には戻ってこれなかったから、その間に売れてたな」
熊沢は元々、ブラック・コメットというお笑いコンビで、その当時かなりブレイクしていた。まさか、熊の姿になるとは、当時これっぽっちも思いはしていなかったが……。
*
拠点にしている建物へ向かう途中、シェイ達の前に鐃警と悠夏が現れた。2人は、「こんばんは」と挨拶をして、
「シェイ君に確認したいことがあるんですけど、少しいいですか?」
すると、マックス探偵が周囲を見て
「ここで大丈夫ですか?」
「できれば、移動したいです。ミケロラさんから、夕食代を頂いておりますので。まだ食べてないですよね?」
悠夏が聞くと、フロールが頷いて返事をした。夕食というか、真っ暗ですでに遅い時間だ。結局、シェイの返答を待たずして、近くのお食事処へ。
お食事処は、和食を中心としたお店である。掘りごたつの席に案内され、早速メニューを開く。店員さんがお冷やとおしぼりを持ってきて、
「本日のオススメは、三元豚ロースカツ定食となっております。なお、白身魚のフライ定食などのお魚料理は、本日港が濃霧のため、入荷できず数に限りがあります。なお、すでに特選エビの刺身は品切れとなっております。お決まりになりましたら、ベルでお知らせください」
3分ほどメニューを見て、全員が決まると、一番近いフロールがベルを押して、店員を呼ぶ。店員に注文を伝えたあとは、本題へ。
「さて、早速なんですが」
そう言いつつ、鐃警はテーブルの上のあるメニューを戻し、
「すでに、ケン君には確認して、港に行ったヤイバ君にはまだ確認できていないんですが……。龍淵島に関して、憶えていることがあれば、お話しいただけないかと思いまして」
すぐに悠夏が補足として、
「ご存じかと思われますが、龍淵島にて逮捕された糟谷被疑者……、厳密に言えば、現在は被告人ですが、彼らの証言に何名かの名前が挙がっており、記録が残っています」
「あと、供述調書にあった喋る熊というのは……」
「私ですかね?」
と、熊沢は自分を指差して言った。獣人を見ていなければ、熊沢を見て驚くのだが、この異世界では普通のため、そのようなリアクションは無かった。
「私とくまたんは、憶えてないの」
フロールがそう答えると、鐃警は「そうですか」と、簡単に納得した。その反応に、マックス探偵は不思議に思い、
「簡単にご納得されるんですね」
「すでに、ケン君のときに同じような回答だったので……。それに警視庁でも、龍淵島の事件に関して何故か記憶が抜け落ちている人が多いですし……。供述調書からも、ある日を境に繰り返し発言されていた証言が、一部無くなったんですよ。不思議ですよね」
「それだけ聞くと、確かに不可思議ではありますね」
「自分は、なんとなく察しはついているんですが、誰も憶えていないので、よく分からないんですよね……」
鐃警の言うなんとなく察しがついている理由は、上空に現れた大きな船である。シャットダウンする前と、起動した後で船に関する話がなくなっており、かなりの違和感を抱いた。
「警察は、どこまで知ってるんですか?」
シェイが龍淵島に関して言わずに、質問をした。悠夏は警察手帳にまとめたページを開き、
「供述調書によると、ケン君とヤイバ君、シェイ君。3人の少年の名前と、少女のシノちゃん、そしてケイ……ちゃん? ケイくん? この子だけ、少女とも少年とも言われていないんですよね……。供述調書の話の流れ的には、自分は女の子だと受けとったんですけど、警部は違うんですよね?」
「断定できないだけですよ」
と、鐃警は性別について曖昧なままで受けとっている。シェイは、すでにマックス探偵の前で話しているため、隠しても仕方が無いと考え、正直に
「志乃に関しては、身元について分からないけれど、星空 螢は俺と、富都枝学園附属小学校のクラスメイトだった」
すると、その小学校の名称を聞いた悠夏のペンが止まり、
「富都枝って……、えっ? 私立の?」
「佐倉巡査、知ってるんですか?」
悠夏の反応を見て、鐃警は驚いたみたいだ。
「知ってるもなにも……、つるぎ西商店街の近くにある学校ですよ。私立の学校なんですが、手当が充実していて、条件によっては、市立や公立よりも手厚いって聞いてます。自分が学生の時には無かった学校ですね。まさか、こんなところで地元にある学校の名前を聞くとは……」
To be continued…
今回と今後の展開を考え、富都枝学園の設定が色々と変更になりました。とはいえ、ブログにも載せずに延期してる新作に登場する学校なので、影響はあまりないかと。本校とか分校って設定もどうするか決めてないです。そもそも、その新作はいつ着手できるのか……
さて、本編では『MOMENT・STARLIGHT』のタイトルを回収。あと、お食事処のメニューを考えていたら、お腹が空いてきました。悠夏が言った”つるぎ西商店街”は、『エトワール・メディシン』の第40話あたりに登場した場所ですね。『龍淵島の財宝』が2月上旬(『エトワール・メディシン』第22話に記載)に発生し、つるぎ西商店街が関わる事件は3月10日。本作は、令和発表の日なので、4月1日ごろですかね。