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#6 ゼクス=シャルルドゴール

 エナとヤイバは、ルアブールに会い、港へ向かっていた。特課の佐倉巡査の言うことが本当ならば、この半径3キロの国に港など存在するのだろうか……?

 夕立のあと、港へ近づくにつれ、周囲は霧が濃くなる。異常な光景に、エナは

「港に霧が出ることは多いんですか?」

「いや……。ここまで霧が濃いのは見たことがない」

 ルアブールは非番であり、今日の担当は別の人物である。この状態だと、港は視界不良を理由に、船舶の移動を禁止しているだろう。

 この日、港の存在を確認することはできなかった。


    *


 ケンとアキラは、この国の地図を見て宮殿への侵入ルートを話していた。すでに、1度潜入に成功しており、次の潜入で新しい情報を得られないか、話し合っているようだ。そこへ、悠夏と鐃警が現れ、ケンとアキラの会話が中断した。

「少しだけ、ケン君に聞きたいことがあるんですが……」

 鐃警は、ケンとアキラに了承を得て、

龍淵島(りゅうえんとう)って、ご存じですか?」

 鐃警の質問に、ケンは頷いて答えた。

「そうですか。ちなみに、他の方は?」

「僕とヤイバ、あとはシェイ達も行ったことはあるけれど」

 ケンは、どうやって行ったかについて、説明しても通じないだろうと思い、言うのを躊躇(ためら)った。

 鐃警は悠夏の方を見て

「ということは、当時の供述調書の通りというわけですね」

「そうなりますね。あとは、警部の読み通りであれば……」

 ルーイン・エンパイアと龍淵島の事件に関連性があるかどうか。

「我々の見立てでは、龍淵島の事件と、このルーイン・エンパイアは、何らか関連性があるのではと考えており、関係者に話を伺おうと思いまして」

「関連性……。僕らは龍淵島のことについて、ほとんど憶えてないので……」

「今言った”僕ら”って、ケン君とヤイバ君のことって認識で合ってますか?」

 念のため確認すると、ケンは頷いて答えた。鐃警は悠夏の方を見て

「龍淵島の事件、色々と憶えてない人が多いんですけど……。例の未確認飛行物体がキーになっていたりしますかね?」

「だから、警部。私もそれについては憶えていないんですよね……」

 当時、龍淵島の上空に現れた未確認飛行物体。まだ明けぬ夜、曇り空に翡翠(ひすい)の色をした光の線が走り、巨大な船が現れた。タブレットやスマホなど機械のレンズでは、その巨大な船は見えなかった。鐃警は悠夏達から聞いただけで、自分の目では確認できていない。それに、磁場の乱れが発生して、悪影響が出ると判断し、鐃警は自身をシャットダウンして、電源が再度入るまでの間に起こったことを知らない。

「シェイ君にも聞いてみますか。可能性は低そうですが……」

 鐃警と悠夏は、ケンとアキラにお礼を言い、同じ内容をシェイからも聞くことにした。


    *


 シャルルドゴールというバー。客は少なく、マスターにカルメという人物について聞くと、「あちらのテーブル席にいる方です」と教えてくれた。

 カルメは女性で、おそらく30歳ぐらいだろうか。テーブル席だが、ひとりでカクテルを飲んでいる。シェイは、マックスに小声で

「ドイツ語で、”この国について教えてくれ”と言うと、おそらくドイツ語で答えが返ってくる」

「なるほど。では、その返答を翻訳すれば良いと?」

 マックスは咳払いをして、カルメのテーブル席に近づき、ドイツ語で

「すみません。少しよろしいですか。この国について教えていただきたいんですが?」

 マックスはドイツ語で喋っているが、シェイやフロール達には自分達が理解できる言語で聞こえる。熊沢が小声で

「勝手に翻訳されてますけど、ちゃんと伝わるんですかね?」

 フロールも不安そうに見ていると、カルメがドイツ語で喋る。何と言っているか、理解できない。

「これがドイツ語?」

 フロールが熊沢に聞くが、

「お嬢ちゃん、申し訳ないのですが、自分はドイツ語を知らないので、なんとも言えないですね……」

「じゃあ、シェイ君は?」

「俺もドイツ語は分からないから……」

 シェイはそういて、カルメが喋り終わるのを待つ。かなり長く話している。最後まで待つと、マックスはフロール達に話す前に、カルメに

「その少女について、教えていただけますか?」

 すると、またカルメがドイツ語で喋る。話が分からないフロール達は、しばらく黙って待っていることにした。


 思ったりよ長かったため、フロール達はノンアルコールを注文して、待機していた。すると、話が終わったのか、マックスが戻ってきた。

「飲み物をオーダーしたんですね」

「あまりにも、長かったので」

 と、熊沢が正直に言った。カルメが会話した内容について、マックスは、フロール達に説明し始める。

「聞いた話を簡単に説明しますね。この国にやってきた2人の異世界人。ひとりは、カイダ国王の手に落ち、もうひとりはどこか遠くへとSOSを送る。自らの種と世界に飲み込まれた”彼”は、自身を責め、国王の力となる。助けをどこか遠くへ願う”彼女”は、今も地下の牢獄から願い続けている」

 理解しようとするフロールと熊沢を余所に、シェイはマックスにもうひとつ追加で

「勇者の所在について、もし聞ければ……」

「勇者ですか……。聞いてみましょう」

 マックスは再びドイツ語で、勇者に関してカルメに聞き、その内容をシェイ達に話す。

「勇者は、巨大な力を得たカイダ国王に敗れたそうです。強大な力は、異世界から来た”彼”より得た。カイダ国王は、この強大な力をもって、悪魔や魔王にでもなる気なのだろうか。勇者の最期の一言は、”お前のような悪魔を(たお)す者が、時期に現れるだろう。決して、悪魔の思い通りにはならない”」

「まるで小説の世界ですね……」

 熊沢が思ったとおりに、そう表現した。悪魔だの魔王だの、そもそも異世界人とか。

「おおよそ分かった……」

 シェイはそう言って、なぜか頭を抱え込んで座り込む。フロールが心配して、「頭が痛いの?」と聞くと、

「俺が知ってる話と違う……」

「どういうことですか?」

 熊沢が心配しながら聞くと、シェイは頭を抱えたまま

「これは、螢の世界なんだ。おそらく、螢の魔法が暴走してるんだと思う……。自分の創造した世界に、自分が閉じ込められている。それに、志乃も巻き込まれ……。この世界だと、まだ螢は”彼”呼びなんだな……」

「あのぉ。シェイ君ひとりで納得されても、我々はどうすれば……?」

 熊沢がシェイにさらなる説明を求めるが、シェイは

「俺の責任でもあるんだよな……」

 理由は分からないが、シェイが自分を責め始めたので、熊沢はなんて声をかけるべきか考えていると、フロールがしゃがんだシェイの顔を覗き込み、

「シェイ君、ひとりで抱えこまないで。みんながいるでしょ?」

 シェイはそう言われて、フロールを見ると、その真っ直ぐな瞳に

「そうだな……。ひとりじゃないよな……」

 シェイは、フロールの差し伸べた手を掴み、立ち上がる。

「殲滅までに、俺達のやるべきことが分かった。手伝ってくれ」


To be continued…


明けましておめでとうございます。2020年もよろしくお願いします。

と、作品ごとに新年の挨拶を書いています。

さて、この世界は螢の創造した世界だと判明した訳ですが、シェイが何故知っているのかについては、次回明らかに。

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