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#5 フンフ=ロヴィーナ

 今日は夕立があり、石畳に雨水が残っている。空を見上げると星空が輝いていた。先ほどから、シェイは星空を眺めている。熊沢も空を見上げるが、変だと思うようなことはない。明るさが変わる星は、現実なら飛行機かなと思うだろうが、この世界に飛行機はあるのであろうか。それに、それらの星は明るさが変わっても、微動だにしていない。もし、星座や星に関する知識があれば、違和感とかがもう少し分かったかもしれない。マックス探偵も黙ったまま、星を観察している。フロールは、人差し指で星を紡ぎ、オリジナルの星座を見つけていた。

「流れ星でも待ってるんですか?」

 熊沢が黙ったままの状態では待ちきれず、シェイに聞くと

「大方、そんな感じだな。この星の中に、動いている星があるはずなんだけど……」

Movement(ムーブメント)?」

 熊沢が聞き返したが、シェイは集中している。マックス探偵もそれを聞いて、本腰を入れて探し始めた。探しながら、シェイに

「星がヒントになるわけですね。どのくらい動くか分かりますか?」

「かなり動いていると思う……」

 2人が集中しているので、熊沢も首元を摩りながら、上を見る。ずっと見上げていると、首が痛い。

「まるで、アハ体験みたいですね」

「アハ体験?」

 フロールが普段聞かない単語なので、熊沢に聞き返した。てっきり、熊沢が説明するのかと思ったが、マックス探偵が先に

「確かドイツの心理学者が提唱した、心理上の概念ですね。簡単に言えば、「あっ!」というような閃きを感じる体験のことです。少し前だと、テレビ番組で、静止画の一部分が時間経過と共に変化して、その変化を見つけるクイズがあり、そのときの閃きに関して、アハ体験と言うことがありますね」

「じゃあ、今のひらめきもそうなのかな? アレでしょ?」

 フロールが1つの星を指差した。シェイたちは、フロールが指差す辺りを見て、移動している星を見つけた。

「あれだ。ってことは……」

 シェイが深く考え込み、唸る。熊沢が急かすように

「次は何ですか?」

「待て。今、思い出してるから……。えっと……、確か……」

 どうやら、シェイは何かを思い出しているらしい。必死に記憶を辿り、頭をフル回転させている。

「左上ってことは……、流石に全部は憶えてないぞ……」

「なんだかわからないけど、シェイ君、頑張って」

 フロールが純粋に応援する。熊沢もその隣で、フロールと一緒に応援。シェイは頭を掻き、

「昨日は、右下だったから……、”シャンゼリゼ”だって分かったんだけどな……」

 それを聞いて、マックス探偵はすぐに

「左上なら、”グランドアルメ”もしくは、”カルメ”ですか?」

 熊沢とフロールは分からず、一緒に首を傾げる。シェイは、

「月の位置からして、どっちが近いかだけど……」

「なるほど。月を中心に、佐倉さんが言った北の定義をもとに考えると、”カルノ”ですね」

 シェイから聞くと、昨日も今日も、星が月を中心に放射線状に動いているらしい。ただ、移動距離は短く、かつゆっくりで注視しないと分からない。

「はい! 質問!」

 熊沢が元気よく右手を挙げて、

「詳しく説明してください!」

 フロールも右手を挙げて、復唱した。マックス探偵は、月を指差して

「あれを”エトワール凱旋門”として、噴水広場から宮殿方向を北としたとき、フランスの地図に置き換えると、動いた星の位置が、通りの名前になっていて、という推理で合ってますか?」

「なんで、シェイ君はそんなことが分かったんですか?」

 熊沢が右手を挙げたまま、下ろさずに質問を続ける。フロールも下ろさずに、復唱。

「……まぁ、そうなるよな」

 シェイは、今度は頬を掻き、視線は余所を向いていた。「うーん」と唸り、言うか言わぬべきか悩んでいるようだ。結局、

「2人は憶えてないと思うんだけど……。”(けい)”って、知らないよな……?」

「けい……?」

 フロールと熊沢は、右手をゆっくりと下ろし、互いに顔を見合わせたが、反応が悪いので、おそらく憶えていないのだろう。

龍淵島(りゅうえんとう)は憶えてるか……?」

「それは、館から迷い込んだところですよね」

 と、熊沢ははっきりと回答した。フロールも頷いて、憶えている。

「そのときの出来事……、どこまで憶えてる?」

「……正直、あんまり……」

 フロールが申し訳なさそうに言い、熊沢も首を横に振った。熊沢は、質問として

「シェイ君は憶えてるんですか?」

「なんとか……」

 てっきり、シェイが「ばっちり憶えてる」と答えると思ったので、熊沢は首を何度も傾げる。

「……あとで、説明する。ひとまず、シャルルドゴールっていうバーに行って、カルメって名前の人を探して、多分、ドイツ語で喋るから、それを訳して欲しい……」

「フランス語じゃないんですね」

 マックス探偵がそう言うと、シェイは「ノーコメント」と返した。


    *


 鐃警は、悠夏(ゆうか)からタブレットを借りて、端末内に保存されている事件資料をひとつひとつ開いては、閉じてと、何かを探していた。

 悠夏が「警部。何を探してるんですか?」と聞くと、丁度目当てのものが見つかったのか

「おっと、ありました。供述調書以外にも、資料があればいいんですが……」

 鐃警が答えないので、悠夏が横からタブレットの画面を覗くと、龍淵島の盗難事件に関する供述調書だった。暴行事件では無く、盗難事件の聴取である。

「これが何か関係するんですか?」

 と、悠夏は首を傾げた。悠夏は、同席していた少年達の名前を知らない。けれど、鐃警は知っている。

「ケンとヤイバ、シェイという少年。この3人は、この供述調書に登場しています。偶然だとは思えません」

「つまり、彼らがあの日、龍淵島にいたってことですか?」

「そうなるかと。それ以外に”シノ”という少女についても、気になります。あとは、”熊”と……、少女”シノ”が”ケイ”という人物の名前を言っていたそうです。結局、龍淵島の捜査で、そんな名前の人物はいなかったため、被疑者の証言は信憑性が低いと判断されたみたいですね。信憑性というか、事件とは関係ないと判断されたって事ですかね。一度出てきたあとは、それ以降の証言に記載されていませんので……」

「つまり、警部の考えでは、このルーイン・エンパイアと龍淵島の事件に関連性があるということですか?」

「漠然とした推測ですけど、本人に聞けば一発だと思いますよ」

 確かに、あれこれ考えるよりも、直接聞いた方が早いし、正確だ。

「ところで、佐倉巡査」

「警部、何でしょう?」

「こんなにタブレットにデータを溜めて込んで……。紛失したら一大事ですよ。まぁ、それで今回は確認が取れたわけではあるものの……」

 昨今、データの取り扱いには十分注意が必要だ。供述調書や事件資料が入ったタブレットなんかを紛失したら、それ相当な処罰がありそうだ……。信頼も失われるだろう。

「以後、気をつけます……」


To be continued…


なお、サブタイトルの左はドイツ語です。ブログ掲載時と同じタイトルにするため、ドイツ語の数字を片仮名で使用しています。マックスが”シャンゼリゼ”という言葉に反応して、すぐに答えを導き出した理由は、登場する人名がフランスの地名や川などから由来しており、それらから推理したようです。シェイが”エトワール凱旋門”を知っているのは、おそらく教養によるものかと。実際に現地に行ったことはなく、本か何かで見聞きして知っているだけで、必死に思い出そうとしていたのかと。

螢に関して、シェイは憶えているもののフロールと熊沢は憶えていないようですが、それは一体何故なのか。そして、シェイはなぜ動く星の秘密やバーのことを知っているのでしょうか。

そして、龍淵島の事件資料から、志乃や螢、ケン達がいたことを知った鐃警と悠夏。

物語が大きく進みそうです。来年もよろしくお願いします。

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