#4 フィーア=ポルト
ミケロラは、全員分の昼食をテーブルに置く。完全に店の人である。不足が無いか置いた料理を確認して、
「デザートは、店主のセーヌさんからのサービス。あと、新人のルーアンがマカロンの試作を作ったから、あとで食べてね」
と言い、ミケロラは厨房へと戻る。
「ミケロラがいたから、今回も金銭には困らなかったな」
ヤイバは、そう言いながら食べ始める。パンの購入時にアキラが支払った紙幣も、ミケロラからもらったものだ。アキラがミケロラから若干の現金を受け取っていたことに関して、ケンは後から知った。当時、ケンが先に宮殿へ向かい、あとから追いかけようとしたアキラに、ミケロラが紙幣を渡したらしい。
「……ひとつ気になるんだけど」
エナはまだご飯に手を付けずに、先ほどの話を聞いて矛盾に気付いたようだ。マックス探偵は、なんとなくそれを察して、
「港に関してですか?」
その通りだったらしく、エナは頷いて
「ルアブールさんは、港の管理をしているって言っていたけれど、3キロの世界に、港なんてあるの……?」
言われて気付いた人、すでに気付いていた人も食べるのが止まった。城下町の外は1.5キロしかない。海などないだろうし、あるとすれば湖だろうか……。
「ルアブールっていう人の話を聞く限りだと、湖は考えられない」
ヤイバが先に港の説を除外した。なぜなら
「かなり大きな船が来るらしい。俺らに話した内容に、港を管理する上で、巨大な貨物船が停泊する日は大忙しだって長々と語ってたし」
「城下町の店先に並ぶ商品や食料の一部は輸入品だって、言ってたね」
エナも証言する以上、嘘ではなさそうだ。ただ、現状だと考察するにしても情報が少ないため、分からない。そこで鐃警が
「それなら、午後か明日にでも外周を調べますか。もしかしたら、殲滅を回避できる抜け道が見つかるかもしれませんし。それに、そのルアブールという人を尾行すれば、港の場所は分かるはずです。お二人のどちらかと一緒に行けば、尾行なんてせずに、直接聞けますが……」
*
教えて貰ったとおり、牧場の門から歩くと5分ほどで城下町についた。フロールと熊沢は、活気ある城下町を歩きながら、
「牧場のお姉さんが言ってた通り、獣人さんがいっぱいだね」
「そうですね。これだけいれば、私も堂々と歩けます。自分で言うのもアレですが、なんせ熊ですから。人語を喋る熊が人里を歩くなんて、場合によっては、捕獲されますからね……」
熊沢がロートン国の街以外で、堂々と歩けるなんてあまりない。相手がパニックになっているときに、「着ぐるみなんです」とか説明しても、疑われるし理解してくれないこともある。
「あれ、あそこにいるのってシェイ君ですかね」
熊沢が指差す先に、シェイらしき姿が見える。どうやら1人のようだ。
「シェイ君!」
フロールが大きく手を振ると、シェイも気付いたみたいだ。フロールと熊沢は、シェイと無事に合流した。シェイは、フロールと熊沢の2人だけだったので、
「あれ、一緒じゃないのか?」
すると、フロールが寂しそうな顔をしたので、熊沢は
「おそらく、ここには来てないんだと思います」
「なるほど……」
シェイは、レドランに関して、それ以上は言わなかった。言うと、フロールがまた寂しそうな顔をするので。
「それで、ここはどこなんですか? 前みたいに、どこかに迷い込んだとか……?」
熊沢は事情を知っていそうなシェイになんとなく聞くと、予想以上の答えが返ってきた。
「俺たちみたいに、この異国に迷い込んだメンバーがいる。彼らからの情報によると、俺たちは異世界転移したんだとさ」
「”てんい”?」
フロールが首を傾げると、熊沢が人差し指を立てて
「転移とは、癌細胞が他の臓器に移動して、さらなる発癌を」
シェイは、熊沢の説明が終わる前に
「熊沢。そうだけど、そうじゃない」
指摘されたので、熊沢は咳払いをして、
「お嬢ちゃんに分かるように説明すると、我々はもとの世界からこの世界にワープしたわけですね」
「どうして?」
「……、いや、あの……、それは、ですね……」
フロールにどうしてと理由を聞かれて、熊沢はしどろもどろ。いや、もはや乱れすぎか。シェイはそんな熊沢を放置して、
「ここに集められた理由は、まだ分からない。けど、タイムリミットがある。あと4日だ」
「4日後に何かあるってこと?」
「……ここじゃ言えない」
流石に、人通りの多いところで、「4日後に殲滅がある」だなんて言えるわけがない。
「あと……、熊沢は日本語と英語以外に分かる言語ってある……かな?」
シェイがいつもと違う調子で聞いてきたので、なんとなく察した熊沢は、ふざけずに、真面目に回答して
「残念ながら、日本語と英語と、ロートン国周辺の……あれ、何語って言うんですかね?」
「ロートン国周辺の言語は、いくつかの言語が混ざってるから、何語だろうな……」
シェイもロートン国周辺の言語名については、知らないみたいだ。基本的には、日本語や英語などが混ざっている。なお、ケン達の国の言語も同じだ。だから、龍淵島でケンやヤイバと話が通じていた。
「熊沢なら、分かるかもしれないって思ったけど……」
シェイが頭を掻くと、後ろから
「どこの国の言語ですか?」
と、フロールでも熊沢でもない声がしたが、シェイは気付かずに
「確か、フランス語かドイツ語なんだけど……」
そう答えて、声の主に気付き、シェイが振り向くと
「それなら、私に任せていただければ」
マックス探偵がそう答えた。シェイは、一瞬ばつが悪そうな表情をしたが、諦めて
「訳して欲しいものがある……」
「訳すのは構わないですが、この世界で訳す必要があるものということですか?」
マックス探偵の言うとおり、この世界だと翻訳不要で、どの言語だろうと通じる。マックス探偵本人が、たまに別の言語で話していたらしいが、全然気が付かなかった。特に支障は無く、全て伝わっていた。
「昼間は見えない。夜にならないと……」
シェイの言う、翻訳が必要というのは夜しか見えないらしいが、果たして……
To be continued…
『紅頭巾』は時間軸として『Ⅲ・Ⅳ』の後であり、現在未完のためここで書かないですが、ひとつだけ。名前が出たレドランの詳細は、『紅頭巾Ⅲ・Ⅳ』にてご確認いただければ。
登場キャラでフランス語やドイツ語ができるのは、マックスぐらいです。ケン達は、自国の言語のみ。悠夏や鐃警は、インターネットさえ使えれば機械翻訳が可能ですが、圏外なのでそれができません。