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#3 ドライ=クライス

 カレンダーが見当たらない。時計も存在しない。スマホは圏外で、日付や時間は横棒で”--月--日 --:--”と表示されている。試しに自動同期から手動設定で、日時を設定しようとしたが、それも駄目だった。

 佐倉(さくら) 悠夏(ゆうか)は、城下町のゲート付近を右往左往。特課で買ったタブレットも、自分の私物のスマホもバッテリーは100%で、データ通信や電話ができない。連続して使っているが、バッテリーは100から99%に減らない。

 ゲート付近の掲示板らしきところには、城下町の小さなイベントについて張り出されており、北暦1996年開催と書かれている。他にも、お店のチラシやお知らせのような紙が掲示されているが、いずれも使用されている日付らしきものは、北暦1996年と記載されている。西暦や和暦、皇紀のように、年を数える紀年法のひとつと思われるが、北暦は聞いたことがない。ネットに繋がれば、何か調べられるのだが、生憎、ここは圏外だ。

 不可解なことだらけ。城下町の門をくぐらず、反対側へ歩いたけれど、15分ほどで同じ城下町の別の門に辿り着いた。文字は、日本語のように見える。人々の会話も日本語だろう。

 城下町の人々を見るに、服装からしてヨーロッパや西洋だろうか。しかし、日本でも洋服だし、変わらないだろう。喋っているのは日本語だし……。いや、本当に日本語か……? お金もなく、どうすべきか悩んでいると、

「どうしました? お困りのご様子ですが?」

 おしゃれなスーツ(?)姿のイケメン男性に声をかけられた。貴族の人だろうか。勘だけど。

「いえ……その……」

 なんて説明すればいいだろうか。まるで外国と言うよりも、異世界だ。まさか、流行りの異世界転生でもしたのだろうか。それだと、死んだことになるのだが……。つい最近の記憶だと、令和の発表を聞きながら、事件資料の整理をしていたような……

 男性は、静かに悠夏の返事を待っている。笑顔を絶えさず。悠夏は、考えた結果

「実は、ちょっと出かけたつもりが、ここがどこだか分からなくなってしまって……」

 とは言いつつも、自分でも”ちょっと出かけたつもり”で、異世界など来ないだろうなと思った。そもそも、異世界と決まったわけではないが、高確率で現実ではないだろう。

「それは困ったことだ。じゃあ、僕が街の案内をしよう。もしかしたら、知ってる人や見覚えのある場所があるかもしれない」

 この男性の瞳を信じ、もしものときは警察官だし、自分でなんとかするつもりで、快くお願いした。……疑っている時点で、どこが”快く”だろうか。

 城下町は、レンガや石造りの建物が多く、カフェやレストラン、商店、雑貨店など、お店や民家もおしゃれだ。自動車や自転車は1台も無く、手押しの台車や馬車は存在した。悠夏が入ってきた門から中央広場まで歩くと、途中に3つほど橋があった。中央広場は大きく、シンボルの噴水は時間帯によって、形を変えるらしい。どうやら、いくつもの噴水で構成されており、そのパターンを変えているみたいだ。

 中央広場の正面には、宮殿がある。つまり、歩いてきた道はメインストリートだったみたいだ。宮殿に向かって右方向の通りには、小さな花壇と並木道で、自然を感じられる。宮殿に向かって左方向の通りは、緩やかな上り坂があり、その奥は下り坂で高低差があるようだ。門から中央広場までは、会話しながらだったが30分ほどだった。普通に歩けば、20分ぐらいだろうか。ということは、2キロもないだろう。まだ確認段階だが、仮定として、城下町は半径2キロ、その外も考慮すると、この世界はざっくり半径3キロ弱。思った以上に国としては狭い。

 その後も、街を親切に案内してくれた男性。最後に名前を聞いたら、名前はないという。さらに、名前がないよりも、名前がある方が珍しいそうだ。

 男性にお礼を言って、別れたあとはレストランへ。食事では無く、知っている顔を見たからだ。店員に聞くと、奥のテーブルにいると言われた。悠夏は店の奥へ進むと、

「いた……」

 鐃警の姿を確認し、鐃警もこちらに気付いた。同じテーブルには、ケン、ヤイバ、エナ、シェイ、マックス探偵も同席している。アキラとニンは、別行動中である。知らない顔が大勢いたので、悠夏は一先ず鐃警に

「警部もこっちの世界に来ていたんですね……」

「まさか、佐倉巡査もこちらに来ていたとは」

 鐃警は悠夏巡査のことを、警視庁特課のメンバーであると簡単に説明し、ケンたちのことは

「こちら、異世界転生者のみなさんです」

「警部。厳密には、我々は異世界転()者かと……」

 いつもの調子で、鐃警にツッコミを入れる。警部と会ったことで、かなりの安心感。しかし、会話は物騒だった。あと4日で殲滅が始まるらしい。

 悠夏は信じられない話を聞いて、

「この半径3キロの国で、殲滅なんて……、逃げ場とかないですよ……」

「半径3キロ?」

 事情を知らないヤイバが反応した。城下町の情報収集ばかりで、城下町の外には行っていないからだ。

「この国は、箱庭のようなものです。方角が仮にあるとすれば、東西南北の何処へ行っても、この城下町に辿り着きます。西門から真っ直ぐ1.5キロぐらい歩けば、東門に辿り着いたので。何度も歩きましたが……」

 悠夏の説明を聞いたマックス探偵は、書店で買った地図を取り出し、

「製図家とよばれる人が書いた地図です。城下町のみ記載され、この国しかないのは知っていましたが、そんな絡繰りがあったとは……」

 地図は手書きで、円形だ。城下町の外の記載、つまりこの世界端っこは、綺麗な円の縁ではないが、手書きだからなのか、本当にそうなのかは分からない。

 推測が多くなってきたので、ヤイバが現段階で確定している事実だけを整理し、

「現状で確定していることを簡単に整理すると、この異世界には自分達のような異世界人が紛れている。時間という概念はないが、北暦1996年という(こよみ)がある。この異世界は、ルーイン・エンパイアという1国のみ。さらに、ルーイン・エンパイアは、カイダ・ルクシオン国王の独裁政権下で、4日後に殲滅が実行される。話している言語は違うが、異世界人の俺ら同士でも言葉が分かる。国民は、名前のない”イーメーム”が常識で、ある日突然、教会で名前を授かる。この国独自の”ヘル”という通貨がある。それ以外の通貨は知られていない。それぐらい?」

 不足については、マックス探偵が追加で

「それ以外に、人間と獣人が共に暮らしているが、食糧として動物の肉が売られている。この世界は、球体のように一直線に歩いて一周できる。しかし、球体ではない。もし、この地図がメルカトル図法であれば、実際は外周へ行くほどズレるはず。当然ながら、モルワイデ図法など、ほかの図法も考えたが、これほど短い直径で、半球を越えた、3分の2を平面の地図に置き換えた場合、現実とどこかが矛盾するはずだ。その矛盾が出ないということは、この世界は平面の可能性がある。ただ、大きな球体のごく僅かな表面の一部分で、我々が幽閉されている場合は、また話は変わってきますが……」

 マックス探偵の考えに、メルカトル図法などの用語を知らないケン達は置いてきぼりだが、悠夏は信じられずに

「平面の世界って、そんなことがありえるんですか……?」

「すでに、僕らの現状がありえないんですが……」

「あっ……。警部、ごもっともです」

 悠夏は、鐃警の一言で全てを受け入れた。


To be continued…


メルカトル図法とかモルワイデ図法とか、久しぶりに使った気がする。あとは、正距方位図法だったかな。そもそも、日常生活では使う機会はないと思われ。こういった用語などに関して、『黒雲の剱』メンバーは、教養は自主的であり、知らないかと。あとは、この場にいないフロールも知らないかも。

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