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#2 ツヴァイ=ルアブール

 ヤイバとエナは情報収集のため、居酒屋で働いていた。なお、異国で働けた理由としては、まずミケロラが、もはやいつものごとく、飲食店でパティシエの腕を披露して、厨房入りが決まった。疑似未来のときといい、次第に凄くなっている気がするが……。そのシェフからの(つて)を頼り、働くことが出来た。

 居酒屋の常連客が、「見ない顔だな」と言い、一緒に飲むかと誘われ、同席した。居酒屋といいつつ、ここはクラブかとツッコミを入れたいが、黙った。常連客は、大柄な体格で、宝石の指輪をいくつも付けて、裏で悪いことをしていそうな雰囲気だが、風貌だけで決めつけるのはよくないだろう。

 居酒屋の個室VIPルームにて、常連客が「好きな物を注文しなさい」と、大振る舞い。エナとヤイバのほか、3人の従業員も同席だ。従業員が5人も抜けて大丈夫かと思ったが、この常連客が来る日は、リーダーが従業員を多めにセッティングしているらしい。寧ろ、いつもより手が余るらしい。他の3人の従業員は、ヤイバやエナと同じぐらいで、15~17歳ぐらいの少年少女だ。このおっさんの趣味かと思ったが、

「なに、遠慮はいらんよ。そんな若い頃から働くなんて、非常に偉い子ども達だ。沢山食べて、元気に頑張ってくれ。おじさんは、こんなことしかできないけれど、悩み相談にも乗るぞ」

 普通に、善良な人っぽい。先に、この人に関して従業員からヒアリングしておくべきだったと後悔したが、上手く情報をもらうしかない。そう思った矢先、常連客が

「さて、新しい子もいるから、自己紹介しようか」

 すると、15歳の少年が

「名前を貰ってから、上機嫌ですね」

 と、常連客にお酒を注ぐ。ちなみに、この国の法律で、飲酒が何歳からなのかは不明だが、少年少女はもちろん、エナもヤイバもノンアルコールである。このご時世なので、明確に記載しておく。

「そりゃ、今までの”イーメーム”からの脱却よ。君たちにも、神から名前が与えられることを願うばかり。それじゃあ、乾杯」

 注がれたお酒を飲み、常連客がジョッキを置くと

「名は、ルアブール。港の管理を任されて、この方20年。名を授かったのは、3週間前だが」

 どうやら、この国は、名付けのルールが異なるようだ。聞きたいことは山ほどある。ルアブールから「まずはキミから」と、ヤイバを指した。端っこに座っていたためだ。

「名前はまだないです……。路頭に彷徨っていたところ、訳あって親切な方に助けられ、今日からここで働いているのですが、あまりにも知らないことだらけで……」

 名前は無いと、嘘をついた。ヤイバは、他の3人に紛れるつもりだ。逆に、エナは名前を言い、

「名前はエナです。ただ、記憶が混乱していて、どこで何をしていたか分からなくて……。あの人と同じ、親切な人に紹介されて、(あたい)も今日から働くことになって」

「そうか……。しかし、その年で、名前を与えられたとは珍しい。名前は大事にしなさい」

 ルアブールは、お酒を飲む度に、いろいろと話してくれた。港で揚がる魚の種類やここに来るのは、週に1回であること。聞きたかった”イーメーム”からの脱却と題して、名前を授かったときの話もあった。簡単にまとめると、ある日突然、国に唯一存在する教会から声がかかる。そして、教会の司祭からありがたい言葉を頂き、名前の書かれたネームプレートを渡される。そのありがたい言葉というのは、よく分からないが、教会ということは、宗教が存在するのだろうか。流石に、初対面で宗教の話なんて出来るわけも無く、収穫は命名のことぐらいだった。


    *


 城下町から少し離れたところにある、長閑な牧場。羊が放牧されており、牛舎には牛がたくさんいる。

 熊沢は、窓越しで誰もいない牛舎を眺めながら、

「本当に、誰もいませんね……」

「誰もいないの?」

 フロールは牛舎の中の捜索を熊沢に任せ、”魔法の呪文”という本を開いている。魔法に関して書かれており、使えそうな魔法を探している。ただ、莫大な量の魔法が載っており、目的の魔法を調べるのに骨が折れる。

「あった。狭域(きょういき)人気(ひとけ)探索魔法」

「ネーミング、そのままなんですね……。広域は無いんですか?」

「出力を上げればって書いてあるけど、魔法を使うと相手が寒気を感じるらしくて……」

chills(チルズ)ですか……。あの嫌な感じの?」

 相手に影響があるのであれば、あまり使いたくはない。だけど、誰かいれば現状が分かる。幸いにも、ここの牧場の文字は読めた。

 フロールは、範囲を牧場の建物近辺に絞り、狭域(きょういき)人気(ひとけ)探索魔法を発動する。5秒ほどして、フロールは

「あっちの小屋に人気がするみたい」

「え……、あっちに行くんですか? なんか悪寒がして、嫌な感じが……」

「だって、さっき魔法を使ったから」

 フロールが答えると、熊沢さんは3秒ほど黙って、目が泳いだあと、

「……なるほど」

 と、本当に分かっているのか、よく分からない反応をした。先ほど、魔法の範囲内にいる人は、寒気を及ぼすと説明したばかりですが……

 小屋に移動すると、丁度、10歳くらいの男の子が出てきた。そのあと、17歳くらいのお姉さんも。

「おや、まるで赤ずきんみたいなコンビだね。うちの牧場に、何か用かい?」

 と、お姉さんは見た目が熊の熊沢さんを見ても、驚かないようだ。元気なお姉さんとは、対照的に、男の子は内気で喋ろうとしない。

「あれ? 私の姿を見ても、驚かないんですか……?」

 熊沢が、自分自身を指差しながら聞くと、お姉さんは笑って

「獣人なんて、珍しくもないよ。ただ、野生と勘違いされると、処分されるから気をつけなよ」

 お姉さんはそう言って、ピッチフォークで山のようになった干し草から、運びやすい箱に入れている。男の子も干し草を箱に入れようとするが、かなりこぼれていた。傍から見ると、それだけでも牧場っぽい。どうやら、小屋の中に保管している干し草を、牛舎に運んで、牛の足下に補充するらしい。エサとして使うわけではなさそうだ。そもそも、エサとして使うとしても、あまり栄養がないらしい。

「獣人?」

 フロールがそう言って熊沢の顔を見るが、熊沢を見ても答えはない。お姉さんは、作業を止めて

「何だい? そんなことも知らないのか? 獣人ってのは、その名の通り、ケモノのヒトで人間と同じさ。野生とは成り立ちが違う」

 牧場はあるのに、人権のある獣人もいる。それだけで不思議な状態だが、それが成り立っている国のようだ。

 フロールと熊沢は、2人に名前を聞いたが、自分達は”イーメーム”で名前は無いと言われた。不思議なことが続き、フロールと熊沢は、顔を見合わせた。


To be continued…


イーメーム。逆から読むと無名(ムメイ)。登場人物の名前を考える必要がないと、楽ではあるけど識別が難しい。

牛の餌は野草や牧草、穀物やぬかなどで、干し草は栄養がなくおいしくもないみたいです。あと、”獣人は野生と成り立ちが違う”ということですが、進化の過程かなにかでしょうか。それとも『紅頭巾』の呪詛石のように、元々はヒトであるとか? ちなみに、熊沢さんはもともと人間で、お笑い芸人でした。(紅頭巾シリーズにて)

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