#16 ゼヒツェーン=スフェール
#16 ゼヒツェーン=スフェール
遠くで空にヒビが入る。牧場の柵が、突然割れて外れる。遠くの景色が段々と暗くなる。この世界の崩落が、始まろうとしていた……。
もともと、螢の暴走した魔力によって作られた世界である。シェイ達が螢の魔力を削っているということは、当然ながらこの世界自体を保てなくなる。
宮殿の窓から外を見て、その異常な光景を目の当たりにした。フロールが足を止めていたため、志乃をおんぶしている熊沢が
「お嬢ちゃん、急ぎますよ」
「空が……」
庭園が一望できる大きな窓である。走りながらでも、そちらを向けば、必然的に外の光景が見える。
「螢君の魔力によって作られた世界。創造主の魔力が無くなれば、崩壊するのも時間の問題って事ですか……」
鐃警は、魔法について知識のある熊沢やフロールに確認したくて言ったが、肝心のフロールと熊沢はこちらの話を聞いていなかった。マックス探偵が自身の推測で
「兵士の数が減ったのも、おそらく魔力によるものではないかと。これは臆測に過ぎませんが、人をひとり動かすために必要なキャパシティが保てなくなり、外の人が減ったのではないかと。宮殿の外にいる人々が減り、今度は世界の外側。半径3キロの”外側の世界”が崩落し始め、次第に宮殿の外の世界にまで崩壊が近づいているという感じに、考えられないですかね……」
「魔法の概念を知らない以上、”かもしれない”としか言えないですが、十分あり得る話だと思いますよ」
「私も、警部に同感です。マックスさんの推理通りなら、ここも安全では無いと思いますね……」
「あくまでも、これも臆測ですが……。宮殿が崩落すれば、”何も無い世界”になり、存在することが出来るか不透明です。シェイ君たちは、暴走した魔力からすると排除すべきものであり、抵抗のために宮殿内の人手を集めるでしょうね……」
「簡単に言うと、魔力を削ることが最優先ってことですかね。流石に、戦闘に不向きな僕らにはできないことですが……」
歯痒いけれど、戦闘はケン達に任せるしかない。自分達が割り込めば、迷惑になるのは分かりきっている。
「今は、できないかもしれないですが、戻ってから調べることは山ほどありますよ」
悠夏がそう言うと、鐃警とマックスが頷いた。鐃警は考えているような仕草をし、
「私立富都枝学園附属小学校の卒業生を調べるとかですかね」
「警部。廃忘薬の場合、憶えている人がいない可能性がありますし、中退なら卒業アルバムにも無いかと」
「当時の担任を調べるにしても……」
「おそらく……」
難航しそうな捜査だ。戻ってからやることは多い。マックス探偵は違う切り口を思いついたらしく
「もっと簡単な方法があると思いますよ」
*
壁と扉のあたりがかなり脆くなり、今にも突破されそうだ。どれぐらい魔力を削っただろうか。
「国王と兵士が突入しても、”魔法の種”への攻撃は続けないといけないって、厄介だな」
ヤイバは、両方の動きを確認しながら、”魔法の種”へ攻撃を続ける。ケンは、なんとか出来ないかと考えるが
「兵士を相手に、1人や2人で抑えられるかどうか……」
「いや、そもそも”魔法の種”に対して3人でやっと……。分散すれば、この均衡が崩壊する」
ヤイバはポケットに入れた宝玉を確認し、兵士との戦いを短期戦にして、1人でなんとか出来ないか模索しているようだ。伝説の剱であるライトニングソードと宝玉を合わせて使えば、体力を限界まで消耗するが、戦闘力は格段に上がる。ただし、短期決戦が条件だ。
ハガネからの連絡で、こちらに向かっていることは分かっている。それが間に合うかどうか。もし間に合わなかったら……
そんな風に考えていたら、突然そのときが来た。壁が崩れ、兵士が扉を押し倒す。すぐにヤイバは宝玉をライトニングソードの柄に填め込み、兵士の方へ向く。
ライトニングソードが、バチバチと音を立てて、小さな雷を纏う。
「雷撃弾」
ヤイバはライトニングソードで、突入しようとした兵士達へ雷の弾丸を撃ち込み、兵士の方へ駆け出す。雷撃弾が命中した兵士達は、痺れて動けない。攻撃をまだしていない後ろの兵士達へ向かって、
「雷撃!」
ヤイバの持つライトニングソードが激しい雷が纏い、鋒から放電して、多くの兵士へ攻撃。扉の付近には、兵士しかおらず国王の姿は見えない。
「気絶させたのが、6人で。痺れてるのが3人……」
しかし、機関室から外へ出ると、30を越える兵士が待ち構えている。いや、視界に入る数がそのぐらいで、もっと居そうだ。
「同じ技だと、避けられるよな……」
そうやすやすとは乱発できない。ハガネの合流は、まだだろうか。考える時間もあまりない。兵士が待ってくれるわけが無い。
突如、格納庫の入り口の方から
「火焰翔翺斬」
炎の翼が現れ、まるで鳥のように高く飛んで滑空しながら、兵士達を薙ぎ倒す。
「フェニックスソードってことは……」
「ヤイバさん! 助太刀に来ました」
入り口にいたのは、
「ニン! それと、ハガネ」
「おい、俺はおまけか?」
ヤイバの言い方に怒ったハガネだが、名前を呼ばれなかったアキラが
「俺もいるんですけど」
ハガネとアキラは、現在まで入手している伝説の剱をいずれも使えない。伝説の剱は持ち主を選び、選ばれなければ扱うことが出来ない。ニンは炎を纏ったフェニックスソードを構えている。宝玉を使用しているようだ。
「出し惜しみをしてる場合じゃ無いからな」
どうやら、指示したのはハガネのようだ。ハガネが格納庫前の兵士達と戦闘を繰り広げ、そこへアキラ達とフロール達が合流した。
「こういうとき、何て言うか知ってますか」
熊沢がフロールに振ると
「”役者は揃った”ってやつだよね」
フロールは右手の人差し指で宙に何かを描く。すると、兵士達の上に拳が現れた。
「なんとかの鉄拳!」
人差し指を下へ勢いよく振ると、大きな拳が兵士へ直撃する。
「ざっと、こんなもんですよ」
「なんで、お前が偉そうなんだ?」
自慢げに言った熊沢に対して、ハガネが突っ込んだ。
「アキラ。ノルマは20。なんなら、勝負するか?」
ハガネが珍しくアキラに勝負を持ちかけ、
「滅多に無い勝負。直接なら難しいけれど、ハガネに勝てるチャンスだな」
「ニンは下がってろ。フェニックスソードは、ここぞというときに使う切り札だからな」
ハガネにそう言われて、ニンは頷いて宝玉を外す。すると、フェニックスソードに纏っていた炎が消える。
兵士の数が多くても、司令塔は暴走した魔力であり、パターンが変わらない限り、多くの兵士と相手したハガネとアキラが優勢だろう。
総力戦が始まる。
To be continued…
伝説の剱は、対応する宝玉と組み合わせることにより、その威力が飛躍的にアップします。同時に、使用者への負担も飛躍的にアップします。伝説の剱は持ち主を選ぶのですが、選ばれなかった場合、持つと激痛が襲います。なお、鞘に収まったままであれば、誰でも持てます。
足手纏いだとよく言っていたハガネが、丸くなりましたね。協力的になってます。
格納庫と船内にいる兵士との戦闘が始まり、カイダ国王はどこへ?
ちなみに、エナと志乃、悠夏、鐃警、マックスは、格納庫の扉付近で待機中です。