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#15 フュンフツェーン=トゥールビヨン

 気付けば、檻の中にいた。その前のことは、何かに阻まれているのか、抜け落ちているのか分からないが、記憶が思い出せない。自分の名前は、志乃(しの)だと分かる。でも、名字は……?

 ある日、(けい)が檻から出してくれた。腐敗していて偶然壊れたのだとしても、檻の外を出て、頼れるのは螢だけだと思った。

 私はどこで生まれて、どこで育っていたのだろう……。

 星空(ほしぞら) 螢君の故郷である世界を目指したけれど……、螢君はそれを求めてはいるが、同時に拒んでもいた。そう感じた。灯台から脱出したあと……


 目の前には、海峡と大きくて白い吊り橋が見える。海峡には、潮の流れによって出来る渦潮が発生している。3つの本四連絡橋のひとつ、鳴門・神戸ルート”神戸淡路鳴門自動車道”で、トラックや車が走っている。徳島県鳴門市(なるとし)と兵庫県(みなみ)あわじ()を結ぶ”大鳴門橋”。鳴門海峡で発生する渦潮。丁度、大潮なのだろうか。かなり大きい渦潮が発生している。

 螢は、志乃がさみしそうな表情をしているので、シェイやフロール、ケン、ヤイバと別れたことに対して

「大丈夫。またみんなと会えるよ」

「うん。きっと、一度離れても、また会えるよね?」

「そうだな……」

 志乃も頭では理解しているようだ。でも、くぐる前は溢れそうだった涙の雫が、くぐったあとに溢れた。螢と志乃は、フロールやケン達のことを覚えている。志乃をもといたところに、最後まで送り届けるため、螢は一層気持ちを引き締める。

 螢の返事「そうだな」は、志乃の問いかけとは違ったことを思い出していた。龍淵島で会った人物に対してではなく、もとの世界にいたクラスメイト達や家族のことを思い出しつつ……。

 それから、バスに乗って鳴門駅(なるとえき)を目指した。けれど、その世界は何かが違っていた……。

 鳴門駅で切符を買うために、駅名を探す。志乃は分からないけれど、螢は路線図を見てすぐに

「あれ……?」

「どうしたの?」

「駅が……ない……」

 最寄りの西阿波市(にしあわし)駅は存在しない。四国の東側の地図が掲示されていたため、それを見て確認すると、螢のいた西阿波市は存在しない。地図上で徳島県の左上の方を指差し、西の愛媛県方面へ指をスライドさせ

美馬(みま)、つるぎ、東みよし、三好(みよし)……、四国中央……」

 市町村を順番に確認したが、西阿波市はなかった。知っている街ばかりなのに。愛媛県四国中央市から、北へスライドさせると、香川県になり

観音寺(かんおんじ)三豊(みとよ)……」

 念のため、確認するが南は高知県長岡郡(ながおかぐん)香美市(かみし)だ。

 さらに、螢のいた世界では、四国を横断するリニア四国横断新幹線があった。岡山県からは瀬戸大橋を経由して、香川県と高知県に縦断する四国縦断新幹線も。だが、その表記は見当たらない。

 志乃がすぐ近くのベンチに、観光ガイドが落ちているのに気づき手に取る。後ろのページには四国の地図が載っており、アクセスのために記載されていた日本地図には、新幹線の駅と主要な高速道路だけ記載されている。それによると、そもそもリニアが日本の何処にも開通していない。四国の高速道路もほとんどが開通していない。

 つまるところ、この世界は螢のいた世界に近しいが、完全に一致していない。カレンダーを見ると、2020年1月。自分がいなくなったよりも未来の日付だ。だからこそ、まだ開通していない世界は、自分の世界とは違うと言い切れた。


    *


 先ほどまで冷たい床だったのに、今はじんわりと温もりを感じる。目を覚ますと、

「毛布……?」

 寝ぼけていて、まだ理解できていないが

「お目覚めですか?」

 と、聞いたことのある声が毛布からする。それに、よく揺れる。そこで、自分はおんぶされているのだと気付いた。

「志乃ちゃん、おはよう」

 フロールが元気よく挨拶。志乃は久しぶりに見た友達に感激し、涙が頬を伝う。「おはよう」と返し、嬉しくて仕方ない。

 志乃を救出したのは、数分前のこと。救出後は急いで来た道を引き返す。トラップは、行きしなに解除してあるため、走るだけだ。フロールの補助魔法により、息切れせずに走れる。

「この補助魔法、マラソンとかスポーツに使うと反則ですね」

 熊沢がそういうけれど、あくまでも補助魔法である。ポテンシャルは本人次第だ。あとは、スポーツマンシップのお話だろう。

「それで、マックス探偵。どこへ向かいますか?」

 鐃警(どらけい)は先頭を走るマックスに確認すると

「予定通り、アキラ君と合流して、螢君のところへ向かうかたちになるかと」

「お嬢ちゃん。シェイ君たちの状況って、確認できないんですか?」

 熊沢が魔法を使えないかフロールに聞いたが、特に思いつかず

「そういう魔法、やったことないから、分かんない」

「そうですか……」

 情報は得られそうに無い。けれども、悠夏が思いつきで

「ハガネ君経由で情報を入手するのは? 携帯電話が繋がるみたいですし」

「隠れているときに、音が鳴ったら危ないと思うんですが……」

「それもそうですが……」

 鐃警にリスクを指摘され、反論できず。ハガネの通信手段は、一方向しかなく、ケンの持つ携帯電話にかけることはできても、向こうの都合の良いときに、かけ直すことができない。

 そんな話をしていると、マックス探偵の携帯電話が鳴る。

「噂をすれば、なんとやらですね」

 鐃警がそう呟いた。正しく言えば、噂をすれば影がさす。マックス探偵は走りながら電話に出ると、ハガネも走っているようで

「状況が変わった。さっきケンに連絡したんだが、総力戦になりそうだ。俺たちも急いで合流する」

「陽動は? 大丈夫なんですか」

「陽動するほどの兵士がいなくなった。エナとニンには伝えたから、2人はアキラと合流してから向かう。俺は先行して、格納庫へ行く。場所は、ケンから聞いた」

「分かりました。では、こちらも格納庫へ向かいます」

「格納庫前の兵士は、俺が気絶させるけれど、念のため格納庫到着前に、アキラたちと合流してくれ。あと、シェイからの伝言で魔力を総力戦でかなり使うらしく、節約してくれとのことだ。こっちは以上だ」

「魔力節約に関しては、彼女と熊沢さんに伝えます。それと、こちらからひとつ。志乃ちゃんは、無事に保護しました。見たところ、怪我はなく、体調は良好ですが」

「医療関係なら、エナが詳しい。アキラと一緒に合流したときに、直接言ってくれ。なんせ、今はアキラ達との連絡手段がないから……」

 アキラとエナ、ニンは携帯電話を持っていない。そもそも、ケンが持っているのは、国王からの依頼で各地をまわっていた際に、いただいたものだ。

 マックスは電話を切り、フロールたちに今の話を伝え、補助魔法を継続するかどうかも含めて、判断を委ねた。


To be continued…


今回、いつもより時間が迫っていて焦ってけれど、今週もなんとか。相変わらず、前日ですが。

志乃の過去については、まだ分からないことが多々ありますね。というか、分かっていることが無い?

今回の第15話で、螢が住んでいた世界は、『エトワール・メディシン』の世界と同一であり、龍淵島のあった世界だと言うことが判明しました。そもそもシェイがいた時点で、同一世界でしょうね。龍淵島でしか行動できていなかったことで、自分のいた世界だと気づけなかったのかと。なにより、逃げる必要がありましたからね。あと、本人が戻りたいけど戻りたくないと、拒んでいるのも理由かと……

そして、戦いは総力戦になりそうです。『龍淵島の財宝』と同じぐらいの長さになりそうだなぁ。多分

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