#13 ドライツェーン=ヴィオレ
中庭。ハガネは剱を大袈裟に振るう。回廊の方を気にしながらも、兵士がこちらに来るので、ある意味援護になっている。
「うーん。手応えが無いな。もっと、緊迫した戦闘になると思ったんだが……」
ハガネの近くには、気絶した兵士達の山が。ハガネは、剱を扱うメンバーでヤイバと一二を争う強さであり、体の鈍った兵士を相手にするのは朝飯前のようだ。あと、ハガネの個人的な見解だが、外と重要な所以外を守る兵士は、戦闘力が低い。
「この調子なら、あいつらも余裕だろうな」
と、ハガネが独り言を言うと
「それはどうかな……」
と、先ほど倒された兵士が喋った。起き上がれないが、顔を上げてハガネの方を見る。ハガネは一瞬考え、
「どういう意味だ?」
と、兵士の話に耳を傾けることにした。こういうヤツに限って、重要な情報を漏らしたりする。それを期待して。
「宮殿内には、暗証番号が必要な扉や赤外線レーザーがある」
「ホー、ナルホド。つまり、暗証番号を入力しないと先に進めなかったり、赤外線レーザーに引っ掛かると罠があるわけだな」
ハガネがわざとらしく言うと、愚鈍な兵士は、
「なぜ、罠があると分かった!?」
あまりにも典型的な流れに、「お前、馬鹿か」と言いそうになったが、折角なので心の中で(こいつ、いい鴨だな)と思いつつ、兵士に付き合うことにした。それに、中庭と回廊近辺で新たな兵士も見当たらないので、暇つぶしもかねて……
*
志乃救出チームは、暗証番号が分からず、立ち往生していた。熊沢は、魔法の本を捲っており、
「これとかどうですか? 物質透過魔法」
フロールは、熊沢が開いたページを見るが、首を傾げた。
「これ、よく分かんない……」
そう言われて、熊沢もよくよく読むと
「透過したい物質の分子構造を想像し、分子の結合を……?」
確かにこんな説明だと、分からない。
「えっ……。魔法なのに、化学の知識がいるんですか、これ……」
熊沢は、魔法とそういった理論は、完全に別だと考えていた。ただ、この本の考え方は、化学の知識を必要としている。
「魔法って、便利なようで不便ですね……」
そう言って、パタンと本を閉じた。フロールは
「くまたん、探さないの?」
「今のAnswerが、ここにある気がしないんですよね……」
熊沢が諦めムードの中、テンキーを調べながら特定しようとしてたマックスの携帯が震え、
「ここ圏外ですよね?」
と、悠夏に確認し携帯の画面を見せる。
「着信ですか?」
「一応、出てみます」
マックスは電話番号どころか非通知の表示さえもない、着信電話に出る。
「もしもし」
「お、繋がった」
「その声は、ハガネ君ですかね?」
「兵士の通信装置を奪取して、試しにかけてみたが繋がったな……」
ハガネが例の愚鈍な兵士から奪った通信機で、マックスの携帯電話に連絡したようだ。マックスは
「我々の携帯電話からは発信できなかったのに、兵士の通信機からは連絡できるんですね」
「そうみたいだな」
事前に、ケンが持つ携帯電話と悠夏、鐃警、マックス探偵の携帯電話で連絡が取れないか試してみた。しかし、圏外で発信さえ出来なかった。現在、ハガネと通話が出来ているが、携帯電話の電波を見ると圏外のままだ。兵士の通信機からであれば、一方的になるが、連絡できるということだろうか?
「繋がったついでに、兵士から聞いた話を」
そう言って、ハガネは兵士が漏洩した機密情報をマックスに伝える。暗証番号や赤外線センサーのこと、兵士の階級など、ハガネは兵士からかなりのことを聞き出していたようだ。
ハガネが「また何か分かれば連絡する」と言い、通話を終えた。どんな連絡か分からない鐃警が「何の電話でした?」と聞くと
「今のこの状況で、一番有益な情報を入手しました。ただ、罠の可能性もあるから警戒した方がいいでしょうね」
マックスはそう言って、フロール達を扉から少し距離を取らせて、ハガネから聞いた番号を入力する。すると、閉ざされていた扉が開いた。熊沢とフロールが「開いたー」と喜ぶのもつかの間、マックスは
「この先、赤外線センサーによるトラップが仕掛けられている可能性があります」
「えっ? それって、先に進めないってこと……?」
と、フロールが残念そうにする。目の前に通路があるのに、先に進めない。
「赤外線であれば、確かカメラで見えた気が」
悠夏はカメラ機能の付いたタブレットを取り出す。自分のスマホでも良かったが、こっちのほうが大きいという理由で。
「残念ながら、カメラで赤外線の光源を直接見る分には、赤外線を認識できますが、スパイ映画のように、複数の赤外線センサーが見えるわけでないですよ」
「あれ? そうなんですか……」
「回避方法は聞いているので、問題ないかと」
どうやら、マックスはハガネから回避方法も聞いていたらしい。
「壁にスイッチがあるので、それで回避可能です」
*
船内の機関室。ケンとヤイバは目を疑うような光景で、言葉を失った。シェイはこうなることを想定していたかのように、トーンを落として2人に説明し始めた。
「魔法の種は、使い方を誤れば……こうなる。本来、魔力がコントロールできる者が、緊急時に使う代物だ……。当時、持っていた俺が言うのもアレだけど……」
シェイは俯いて、歯を食いしばる。自分の過失が招いた結果だと、自身を責め、瞑った瞼から雫が垂れた。すぐに首を振って、右手の指で雫を拭い、
「螢を救う」
覚悟を決める。目の前には、龍淵島で会った螢とは思えない異形の姿。機関室に根付く5mを越える紫色の木は、細い枝がいくつもに伸び、幹や枝に螢の姿は確認できない。
「シェイ、僕らはどうすればいい?」
ケンがシェイに方法を問うと、
「魔法の種の対処方法は、書物の知識でしかないけれど、貯蓄した魔力をゼロにすればいい。幹や枝を攻撃しても、本人へのダメージはない。紫の木の目的は、強い魔力をため込み、種を作ること。依り代は一番に守る。だから、螢は幹の中にある別空間にいる」
「つまり、魔力を消費させるための持久戦か」
ヤイバは、伝説の剱を温存し、自身の剱を鞘から取り出す。
「あと、種を作れば、依り代は解き放たれるが、生物が無事だった記録は少ない。確実に救う方法は、種の魔力をゼロにして、無効化する。種の特徴は、ある程度魔力を削ってから」
「了解。ケン。兵士に気付かれる前に、魔力を削るぞ」
「持久戦かつ、全力で……」
To be continued…
やっぱり前日の予約投稿。
さて、螢との戦闘開始。果たして、螢と志乃を救うことは出来るのか。異世界侵攻を阻止できるのか。もとの世界に帰還できるのか。そして、来週も投稿までに間に合うのか。