#12 ツヴェルフ=バトー
広い宮殿内は、兵士がある程度固まって配備されており、時間をかけて先へと進む。午前11時を過ぎ、人気探索魔法を発動し、3カ所で騒動を起こし、ここまでは想定通り。
螢と志乃は、それぞれ別の場所におり、シェイたちは階段を駆け上がって、二手に分かれる。
螢救出チームは、兵士2人が守る大きな扉の前に到達した。
「どうする? ここまで来て強行突破するわけにもいかないが」
ヤイバは兵士の動きを物陰から見て、2人に聞いた。ケンは後方を確認しつつ、
「ここにいても、見つかる可能性はある……。シェイ、あの扉の奥で間違いないんだね?」
シェイは頷いて答え、扉の先について
「あの先は、かなり広い空間になっている。それに、兵士の数も多い」
「ということは、強行突破はマズいな。見つかって戦闘になる」
戦闘になれば、螢のところまで辿り着くのは難しくなるだろう。3人で大勢の兵士を捌ききるのは困難だ。そこで、シェイは巾着を取り出る。その中身は細い線状の葉っぱがいくつか入っている。
物陰から見つからないように兵士の位置を確認し、魔法で葉っぱの塊をそれぞれ兵士の頭上へ転送させる。宙に浮いた葉っぱの塊。兵士達には、まだ気付かれていない。シェイは魔法を継続しつつ、葉っぱを粉々にしてパウダー状にすると、浮遊魔法を解除して粉雪のようにパウダーを兵士へ降らせる。すると、兵士が異変に気付くかどうかギリギリのタイミングで、その場に倒れ込んだ。
「すげぇ……。一瞬かよ」
と、ヤイバが感心する。葉っぱの正体は、”眠り草”というこの世界のアイテムである。通常の葉っぱの状態では効果はないが、葉の繊維を潰し、粉状にすることで、吸い込んだ相手を眠らせるという。いかにもゲームやファンタジーの世界だと思う品物である。
ヤイバはすぐに切り替えて、
「薬草屋で購入したハガネによると、デバフ効果は15秒だからさっさと行くぞ」
15秒は短いが、ここを突破する時間には十分だ。シェイの魔法によって素早く、しかも相手に対して使用できるのは強い。通常は、事前に擂り潰す準備をし、その際に当然ながら自分が吸わないようにしないといけない。さらに、粉々にした後の長期保管はできず、唯でさえ短い効果時間がみるみる減っていく。つまり、魔法が無ければ相手へ使用するのは無理だ。ハガネから聞いたとき、ファンタジーな世界なのに、その辺りは現実的なのだなと思った。効果時間が15秒なんて、擂り潰している時間の方が長いだろう。
兵士が守っていた扉を突破し、中に入ると大きな船が停泊していた。いや、通常の船と違って水はない。かといって、整備している訳でもない。おそらく、船着き場なのだろう。船は水上を航行するようには見えず、飛行機に付くようなエンジンや両翼、さらに尾翼があることから、飛行するのだろうか。早い話が、翼のある宇宙船だ。かなりSFチックで、先ほどまでのファンタジーを忘れるほどだ。そもそも、宮殿の中とは思えない広さだ。
ケンたちは、木箱が大量に置いてあるところまで移動し、身を潜める。ちゃんと天井があり、船の先は200mくらいの空間がある。しかし、扉はない。壁には大量の機械とLEDの光がチカチカしている。想像するようなゲートみたいなものは見受けられない。どうやって移動するのだろうか。
巨大な船を見て、ケンは
「異世界への進撃って、これのことか……。砲台やカメラもありそうだな……」
「あからさまな砲台は見当たらないし、戦艦とは違うみたいだな。鋼鉄製だろうか? 龍淵島で見た船とはまた違うな……」
龍淵島の空に現れた大きな船は、木製だった。螢もそう言っていたし。
「螢はおそらく機関室だ。そこに行くには、荷物と一緒に紛れて船内に侵入するか、船楼を伝って甲板経由か……」
「おそらく木箱に入って、運搬を待つのが安全だな……」
壁際の通路や階段を使う場合、隔たりがないので丸わかりだ。下からだと、甲板にどのくらい兵士がいるかも分からない。カメラがあれば、尚のこと。
早めに運搬されそうな木箱を探し、3人はそれぞれ身を潜めることに。
*
志乃救出チームは、シェイから聞いた情報をもとに志乃のいる部屋を目指す。牢屋かどうかは分からない。
戦闘員はいないので、慎重に進む。しかし、見通しの良い廊下になり、覚悟を決めて足早に進んでいると、廊下の曲がり角の先に解錠番号を必要とする扉が現れた。
「なんか、急に現実的になりましたね」
鐃警がそんなことを呟く。扉の先は、番号がないと進めないということだろうか。
「え? これ戻らないと行けないってことですか? 折角、ここまで来たのに……」
熊沢が後ろを振り向くと、兵士はいない。戻れそうだ。ただ、解錠番号をどうやって入手する? すると、マックスが番号キーを見て
「アナログのテンキー入力の場合、指紋や変色摩耗の対策をしているのが基本ですが……」
そう言って、数字キーをひとつひとつ観察し、
「一部の番号キーは、傷が目立ちますね。両手が塞がっているときなど、手で押さずにモノで押している人がいるのかもしれませんね」
「モノを持ったままキーを押すのは、かなり難しくないですか?」
悠夏の想像で、両手に箱を抱えた兵士がボタンを押すのをイメージするが、明らかに箱を置いた方が良い。押し間違えるし、無駄な努力だ。
「ちなみに、解錠魔法は……?」
熊沢も無理だとは思っているが、少し期待してフロールに聞くと、フロールは首を横に振った。いつもより早く。
「手っ取り早いのは、盗み見ることだが……。生憎、兵士が通りそうもない」
「魔法でなんとかならないですかね……?」
熊沢は”魔法の呪文”という本を出して、打開策を探る。すると、適当に開いたページで
「あれ? これとかどうですか? ”物に心を宿す魔法”。……ん? なんか条件がいっぱい……」
熊沢が条件について読んでいると、マックスが少し考えて、
「……テンキーから暗証番号を聞き出すつもりで、もしくは直接解除して貰うために使うのは賛成ですが、間違えれば通報されておしまいですよ。私達の言うことに素直に応じる保証はどこにもありませんので」
「門番が喋ったとして、自ら言いますかね……?」
「確かに……」
To be continued…
前日になんとか書き上がったけれど、ギリギリだな……
ファンタジーなのかSFなのか、たまに現実的でよく分からない異世界物語になってきました。
志乃救出チームの突破方法を来週までに考えねば……




