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血肉滴る新しい世界  作者: 断頭台
スタートの準備
1/3

0日目 病院にてごきげんよう

本作はグロ注意ですのでそういうの苦手な方はすみません。頑張ってみてください。

 


 ミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンうるせぇ



 1秒たりとも休みはしない働き者の蝉たちの声を聞きながら顔をしかめる。こうも毎日毎日外で騒がれるとストレスも溜まる。防音室、、は流石にないが、あるいは窓から離れたところに行けばいいのだがそれができたら苦労はしない。

 俺ことトオルの足はこの世に生を受けてから一度たりとも動いたことがない。産まれてすぐに原因不明の病にかかり、物心ついた時には足は動かないものなのだと誤解するぐらいには俺の中で当たり前になっていた。現在17歳、本当なら高校に通って友達と馬鹿みたいに騒いで青春を謳歌しているであろう年齢。だが残念なことに俺が寝て、起きて、飯を食べて、運動して、寝て、生活している場所は




 病院である。



 0日目

 ーー◯◯市総合病院


 俺の人生はこの病院の敷地内で完結していると言ってもいい。産まれてからこの歳になるまでずっとこの病院にいるのだ、家と呼んでいいだろう。

 俺の生活は実に素晴らしい朝から始まる。毎朝決まった時間に起こしにくるナース、そういうのがグッとくる人間にとっては天国と呼べるだろう。俺も中学生の頃は色々と考えた。何を考えたかって?言わせないでほしい。まあ今となっては親の顔より見たナース。え?もっと親の顔見ろって?残念、そのノリは俺には通用しない。親は2人とも死んだ。3歳ぐらいの頃だろうか、毎日顔を見せていた両親が来なくなったのは。

 死因は交通事故。酒を飲んで暴走した男が一般道でかっ飛ばし、信号無視で両親の車に突っ込んだ。よくある話といえばよくある話だ。当時は毎日のように泣いていたが今となっては泣くことも少なくなった。



「起きた?今日も今日とて千春さんが血を吸いに来ましたよー!!」

「そういうのいいんで…」

「またまたー」



 朝から爆発的なハイテンションで病室に突撃してくるこのナース、名前は藤田千春。年齢35歳独身彼氏なし料理できず仕事一筋。俺が5歳の時に来た担当ナースである。



「はーい腕まくってー」

「おー白いねーもやしみたいだねー」

「針刺しちゃうねー」



  マシンガンである。どこで呼吸しているのかわからないレベルで。

 毎朝決まった時間に突撃して血液を採取する千春に男としての夢を見なくなってから随分とたった。しかしこの血液採取をしているからこそ親が死んだにもかかわらず病院に居続けることができる理由でもある。冒頭、原因不明の病にかかっているといったが、つまりは研究されているのだ。医学というものは過去の記録を頼りに病名、原因となったウイルス、対処法を確立していく。第1号というのはそれだけで重要度が跳ね上がる。もし自分と同じ症状の患者が現れた時、詳しいことは調べてませんでしたでは駄目なのだ。



「はい採血おわりー」

「熱も測っちゃいますねー」



 手慣れた手つきで日課を進める千春。



  「そういえば今日が何の日か…わかるよね?」



 ニヤニヤとした顔で俺の顔を覗き込んでくる。かなりイラっとする表情で、つい俺の声も硬いものになる。



「あーあー わかってますよ 8月4日。俺の誕生日ですよ」

「せいかーいー 今回もとっておきのプレゼントを用意してあるから楽しみにしてろよーハハハハハ」



 そう今日は俺の誕生日。この病院で迎える18回目の誕生日だ。去年、一昨年と千春の誕生日サプライズは失敗した。馬鹿なことに誕生日の朝、部屋に入るやいなやニヤニヤと笑みが止まらなくなっているのだ。そんな顔でいれば今日は何がしますよーといってるようなものだ。別に嬉しくないというわけではない。ない。



採血、体温測定心電図モニターの確認と日課を終えれば後は自由時間だ。国から支給された高校教材をやるもよし、リハビリをするもよし、遊ぶのもよし。かなり自由にさせてもらっている。

適当に勉強をしながらテレビを見ていたがあっという間に昼ごはんの時間だ。ベッドに固定されたテーブルの上を片付け千春が食事の準備を始める。


  味の薄い昼ごはんを食べ終え千春が食器を持っていく。いつもと変わらない日々、否いつも変わらない日々。正直飽き飽きしている。病院の敷地が広いこともあり、生活していくには困らない。しかし10年以上をこの病院で暮らしてきた俺にとって新鮮味が失われている。殆どの部屋に入ったし春夏秋冬全ての季節に染まったこの病院を楽しんだ。今ではなんの感情も生まれてこないが。

 そんなことを考えながらぼーっと千春を見ていた俺はふと、千春の顔が悲しげにゆがんでいることに気がつく。



「千春さんなんかあったんですか?」

「いやさ…よくそうやってぼーっとしながら見てくるじゃん?あの日、ご両親が亡くなった日もさ、そうやってみてきたじゃん?なんか思い出しちゃってさ。ごめんね」


 あーそんな顔しちゃってたか。


「やっぱ辛いよね。ずっと病院の中だけで生きていくのって、やっぱり外出許可貰えるように頼もうか?」

「別にいいですよ、下手に外のこと知っても余計落ち込むみたいな」

「そうかな…でもあと半年しかないんだよ?もっとみたいもの見た方が良くない?」



 またこの話か。機嫌を悪くしたと言わんばかりに俺は大きくため息をつく。何度目だろうか、別に半年で死ぬという話には何も感じない。そりゃ医者に言われた時は泣いたさ。でもあと半年で死ぬっていう感覚がわからない。身体も怠さはあるが死にそうなほどではない。周りから見たら本当に死ぬの?って言われるぐらいには変化がない。同時に生きている実感もないわけだが。



「その話すると千春さんめんどくさくなるからストップ」

「もー」



 呆れたと言わんばかりに手を振って見せると、千春も俺がそんなに落ち込んでないと見たのか頬を膨らませて抗議する。このやり取りも何回目だろうか。ふと千春は目を細め俺の顔を見てくる。



「やっぱりどっか行こう。私さやっぱりトオル君にはもっと世界を見てもらいたいよ。こんな狭い世界だけしか見ないで死んじゃうなんて辛いよ…」



 千春の目から涙が溢れ出す。言っていることはわかる。そりゃこんな病院の中だけで人生を終えるのは勿体ない。わかってはいるのだ、その勇気が湧いてこないだけで。余命半年を伝えられる前までは単純に興味が湧かなかった。自分の世界はこの病院の敷地内で完結していると思っていたし、特別見たいものも行きたい場所もなかった。ついでに友達もいなかった。人見知りでもあった。別にそっちが原因ではない。ない。

 だが、ここ最近、厳密には余命半年と伝えられる3日前、幸か不幸かはじめての友達と再会してしまった。てか向こうから来た。


 

「まあ言いたいことは分かるんですけど、ほら?あと半年もないですし、足も動かないから車椅子で行かなきゃいけないですし……これ以上言い訳が思いつきません。人怖いんで出たくないです」

「素直でよろしい」



  泣きながら笑うとは器用なことをするものだ。千春は制服の袖で鼻を拭き微笑みかけてくる。いいのかそれ。



「でも私が無理に連れ出さなくてもあの子が引っ張って行っちゃいそうだよね!なんだっけ、あの声のでかい元気な子?」


 バァァァァァァアァァァァァァァァァァァン



「イノリよ!!!!!!」



 爆撃されたのかと間違うほど大きな音を出してドアをぶち開けた彼女こそがこの世界にただ1人の友人にして病院のマナー違反ブラックリストトップの冠をかぶる冰螺菊(ひらぎく)イノリその人である。



数少ない日常回を楽しんで!強く生きて!

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