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1-8 助けたいから助ける、唯それだけの事

 町へ戻った雄也は、一度雷神を解き町で混乱が起こってないかを確認するために町中を駆け巡った。


 先程の雄也とフィセルとの戦いの音が町に響いていたらしく、壊れた噴水の所に人だかりが出来ていた。そしてまだ、マラク国が攻めてくることを知らないようだ。


「あっ! ユウヤさんじゃないですか! どうしたんですか? そんな顔をして?」


「君は……メーラ君だったかな」


「覚えていてくれたんです……ね? ユウヤさん、その血は……」


「ん? ああ、少しいざこざがあってね。気にしなくてもいい」


 少し冷たい態度だがこれでいい。この雰囲気のままマラ国が攻めてきていることを伝えようと雄也は口を開く。が、予想にもしていない言葉が雄也の耳に届く。


「まさか、もうマラク国の勇者が来たのですか?」


 その言葉に雄也は冷や汗をかき、眉間に皺を寄せる。そして一つの疑問が生まれる。


 彼女はいま、"もう"マラク国が来たか、と言った。ということはつまり、来る事を知っているのではないか。それを聞かずにはいられなかった。


「君は……いや、君たちはマラク国が来ることを知っているのか?」


「はい、先程使者が戻ったとか……それで、アール国はもう占領されたからここも時間の問題だとか……」


「それは皆知っているのか?」


「知っていると思いますよ。掲示板に張り紙があってそれを読んでいたので」


「ならなぜ逃げようとしない!?」


「だって、逃げ場などないでしょう?」


 その答えに雄也は幻滅した。逃げる? どうして逃げる事しか考えない。何故守ろうとしない? 弱いから? 違う、戦う意思がないからだ。


 弱者がただされるがままにされ、この大陸全てをマラク国に呑まれ、やがて大陸間の戦争が始まる。そんな事は断じて許されない。


 マラク国は何をそんなに望む? わからない。レデール国の者は何故こんなにも受け入れている? わからない。


「わからない……」


「はい?」


「なぜ戦おうとはしない?」


「何故って……マラクに勝てるはずないですから」


「嫌なのではないのか……占領されるのが」


「誰だってそれは嫌ですよ。でも仕方ないんです」


「おかしい。嫌なのなら戦えばいい。真っ向から反論すればいい」


「そうしたら殺されてしまいますし……」


「死ぬのが嫌なのか?」


「嫌ですよ、それは皆同じ」


「では聞こう。無理な戦争を押し付けられ無慈悲に死ぬのと、今ここで少しでも反抗して希望に満ちながら死ぬととどちらがいい?」


「それは……」


 こんな質問答えられるはずもない。だって両方死ぬ選択肢しかないのだから。初めから死に向かって進む答えに、人は即答など出来るはずもない。


 ならばどうするか。答えは簡単。


「私がこの国を救おう」


「え?」


 雄也は、高さ五メートルはある家の屋根に軽く飛び乗る。それをメーラが見上げ、他の者もそれに気づき顔を上げる。


「聞け皆の衆!」


 突然の大声にその場にいた全員が雄也の方を向き、町が静まりかえる。


「貴様らに戦う意思はないのか!? 貴様らに生きたいという意思はないのか!? 貴様らに平和に過ごしたいという気持ちはないのか!?」


「雄也さん……」


 メーラは、両手を胸の前で合わせ、その演説を黙って聞く。


「逃げ場がないから逃げないなどただの言い訳だ! この中に少しでも戦ってやると思うものはいないのか!?」


 その問いかけに、一部の者は雄也に嫌悪の視線を向け、一部の者は自分の心にといかけ、そしてもう一部の者は下を向き拳を握り涙を流す者がいた。


「力ある者に怯えて生きる事など息苦しくて仕方がない! 貴様らはこの安寧の日々を過ごす為に動いていたのではないのか! 嫌だからアール国と協力しようとしたのではないのか!」


 これは勝手な自分の価値観の押し付けだ。それは重々承知している。だが、挑みもせずただなすがままに嫌 な生活をさせられるより、死にものぐるいで希望を見出した方がいいのではないか。


 聞こえはいい。下手をすれば死ぬからだ。でもだからなんだ? 苦しんで死ぬのと挑んで死ぬの、どちらがいい? 答えは簡単だ。


「貴様らは逃げている! マラク国からではなく、自分の意思からだ! 周りがそうだから自分もそうしよう? 甘ったれるな! 周りに合わせて地獄を望むなど死んでるのと同じだ!」


 その言葉に、下を向いていた者、考えていた者、怒りを向けていた者全てが雄也の方を向き、そして唾を飲み込んで言葉を聞いた。


「守れるものがあり、守りたいものがあるのなら、私に続け! 私が責任を持ってこの町を救ってやる! この国を救ってやる!」


 皆の顔に闘志が宿る。無理だと思う者もいた。だが周りを見てその考えを改める。


「戦え! 死ぬのなら戦って死ねぇ! それで守れるものがあるのなら本望だろ! マラク国なんぞに占領されてたまるか!」


「そうだ……それだけはいやだ!」


「そうよ!」


 町中に声が飛び交い、皆が武器を掲げてやる気を示す。守り抜ける確率はかなり低い。それでも、やるんだ。このレデール国の勢力を駆使して。


「マラク国を潰す覚悟は出来たか!」


「「おぉぉ!!」」


「死ぬ覚悟は出来てるか!」


「「おぉぉ!!」」


「やるぞぉぉお!!」


「「おぉぉぉおお!!」」


 マラク国が来るまで残り時間はもう無い。レデール国にある小さな町や村、レデール国の全てを持ってマラク国に反乱する。


 雄也は、ニヤリと口角を上げ自分体が熱くなることを感じ、拳をぎゅっと握った。

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