1-5 助けたいから助ける、唯それだけの事
町へ向け一人リリムを担ぎながら歩いている雄也は、この後の行動について考えていた。
リリムをまず宿へ寝かせた後、あのモンスターを呼んだパーティーの奴らを探し出し、いろいろと聞くことがある。それに、他の国の奴らがこれに乗じて攻めてくるかもしれない。
あれだけの数のモンスターが動けば、流石に気づかないわけがない。ましてや、勇者がいれば確実にその気配は感じ取るだろう。
そうなると、もういよいよこの大陸は完全に支配され、完全武力国家になるだろう。そうなれば必然的に他大陸とも戦争になりかねない。ここが耐えどころだろう。
そんな事を考えながら歩いていると、もう目の前に町が見えてくる。リリムを担ぎながら人だかりを歩いていると注目の的になった。その中にお目当てのパーティーはいなかった。
宿に入り、受付の人に金を渡して部屋を借りる。少し変な目で見られたが、気を失っているのだから仕方がない。リリムを部屋に寝かし、紙に一言『少し外に出る。明日には戻る』と書き、外へ出た。
「さて、どうしたものか……」
顎に手を当て、どこを探そうかと悩んでいると、一人の女性が声をかけてくる。
「あ、ミナセユウヤさ〜ん!」
「ん? あぁ、君は確か酒場の」
「そうです! 覚えててくださったのですね!」
「ああ。それで、何か用かな?」
「あ、いや、その用というのは無いのですが……何か困ってそうな顔をしていたので」
「ふむ。まぁ確かに困ってはいるかな」
「というと?」
「三人組のパーティーを探しているんだよ。だがなかなか見つからなくてね。見ればわかるんだが、何せこの中から見つけるのは大変でね」
「あっ、それなら……」
頭に両手の人差し指をあて、何やら思い出そうと「えーと、えーと」などと声を出している。そして、ついに思い出したのか、両手を合わせて「思い出した!」と叫ぶ。周りの人は一瞬立ち止まってこちらを見るが、直ぐに散っていく。
「確か、さっき酒場で三人組の男冒険者達が、『これであいつは終わりだな』などと言っていました! 多分まだいると思います!」
「そうか、ありがとう。君、名前は?」
「私はメーラです! お役に立てて光栄です!」
「こちらこそ、情報をありがとう」
立ち去ろうとする雄也に、メーラは呼び止める。
「あの、また酒場に来てくださいね!」
「ああ」
そう言い残し、酒場の方へ歩いていった。メーラは小さくガッツポーズし、鼻歌を歌いたがら帰って行った。
酒場に着いた雄也は、少し派手に酒場のドアを開け、自分に注目を集めた。探すのは面倒なため、自分の姿を見せて驚いた奴らがいればそいつらがパーティーだろう、と考えていた。
そして案の定、雄也はの姿を見た途端「な、なんで!?」と声を漏らした男が一人居た。そしてそいつが窓から逃げようとした所を、人混みで溢れかえる中軽快な動きで一瞬で距離を詰め、服の襟を掴む。
「待て、お前には聞きたいことが山ほどある」
「はやっ……! クソ! やれお前ら!」
その男の合図で、後ろに座っていた残りの二人の冒険者が、雄也に向かって短剣を突き刺しに飛び出した。雄也は、一人の冒険者の短剣を蹴りで落とし、逃げようとた冒険者をぶつける。もう一人は、限界まで引き寄せて短剣を突き出した所を、ギリギリで躱し、短剣を持っていた手を掴んで床に叩きつける。
「観念しろ、もう逃げられはせんぞ」
辺りはシーンと静まり、皆は口を開けてその光景を見ていた。三対一の状態ですんなり勝ってしまった雄也を見て、驚愕せずにはいられなかった。
「く、クソが! 離しやがれ!」
「暴れるな。お前もあの二人みたいにのぼせたいか?」
そう言って、重なって気を失っている二人の方を指さし、それを見て観念したのか、抵抗をしなくなり、すんなり言うことを聞いてくれた。
「すまない、少し迷惑かけた。続けてくれ」
そういうと、辺りは賑わいを取り戻した。雄也は、パーティー冒険者達が座っていた机に腰掛け、捕まえた三人のうちの一人を正面の席に座らせ、事情を聞いた。
「何故俺を狙った?」
「……言えねぇ。これは契約だからな」
「ふむ。それは他の者に頼まれたということか……その者は男か?」
「だから言えねぇっつったろ!」
「ふむ。まぁそこはどうでもいい。いつ頼まれた?」
「お前は人の言ってることが分かってんのかぁ!? 言えねぇって!」
「はぁ。まぁ指図目俺を気に食わないヤツが狙ったんだろう。それか、他の国の奴か……」
そう粒やつくと、目の前の冒険者はピクリと肩を動かした。図星だ。
「よく分かった。後はこっちで何とかする。お前らは……好きにしろ。契約者の元へ帰って泣きながら謝るといい」
それだけ言い残し、雄也は酒場を後にした。正直なところ、あれほど口が硬いとは思わなかった。相当な金額を提示されたのか、あるいはその者が脅したのか。どちらかは分からないが、一先ず狙われていることは分かった。
「レデール国も狙われるのもそう遠くはないか……これは、準備を始めといた方が……ん?」
雄也は視線を感じとり、その方向を向くが誰もいなかった。気の所為ではない。確実に殺気の篭った視線を感じた。これは、探しに行くより誘った方が早そうだ。
雄也は、人通りの少ない道へと歩いていった。