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1-4 助けたいから助ける、唯それだけの事

 町へ戻る途中、先程であったばかりとは思えないほどに喋りながら歩いていた。といっても、話しかけるのはいつも雄也からだった。三十になれば何かと話したくなるのだ。


「出会ってばかりであれだが、リリムと呼び捨てさせて貰ってもいいかい? さん付けするのは嫌いでね。リリムも雄也と呼べばいい」


「いいわよ。だけれど、私は年上の人を呼び捨てにはしたくないから雄也さんと呼ばせてもらうわ」


「そうか? それならそれでいい。ただ、敬語だけは辞めてくれ。話しにくい」


「元から敬語で話す気なんてないわよ。堅苦しい喋り方は嫌いだからね」


「そうか。それは、ティッセオ家でそうだったから、か?」


「……そう。家の掟みたいなものよ。みっちり教えこまれたわ」


「その戦い方もか?」


「そう。ただ、この戦い方はティッセオ家のものでは無いの」


「それはどういう事だ?」


「ティッセオ家には何十人ものがランカーがいるんだけど、その人達は将来有望な子供にしか付かない。見込みのない子供は、国を襲って支配したランカーを適当に宛てられただけなの」


「それで宛てられたのが、リリムの師匠って事か」


「そう。師匠はいい人だった。優しくて、時には厳しくて。憧れの人でもあった」


 だった。この言葉で雄也は全てとはいかないが、ある程度を理解した。優しくて時には厳しい。そんな誠実な人が、突然現れた奴らに支配され、いやいや雇われていたとしたら……。


「……何があったのかは聞かん。その言い方から察するに、そういう事だとは理解しておく」


「ありがとう。……ちょっと同情しちゃった?」


 リリムは可愛い顔してそう聞いてくるが、無理をしているのだとすぐに分かった。笑ってはいなかったからだ。


「……さあな」


「冷たいなー。師匠とは大違い。師匠は、どんな時も嫌がりはしなかった。ニコニコして『頑張れリリム。お前ならできる』ってずっと言ってた」


「お前は嫌われてはいなかったのか?」


「私は……私は、家族の中では落ちこぼれって呼ばれてたから。そんな私を見て可哀想とでも思ったんじゃない? でなきゃ、私に優しくする筈なんてないし……」


 そう言ったリリムの顔は、どこか寂しそうで、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。ただ、聞き捨てならない言葉を聞き、雄也はそこに反論をせずにはいられなかった。


「"可哀想とでも思った"って、本気でそう言っているのか?」


「だってそうでしょ? 半ば強制的に雇われて、嫌いなティッセオ家の娘を育てたのよ? そういう事を思わなければ、育てようとも思わなかったはずよ」


 リリムは苛立っているのか、少し口調が荒くなる。早口にもなっている所を見ると、多分苛立っている。だが、だからといって優しくするほど、雄也も甘くはない。


「そんな事で慈悲を掛けてもらったとでも思っているのか? 勘違いも甚だしいな。それだから落ちこぼれ止まりなんだ」


「なんですって?」


 顔つきが変わる。殺気が溢れ出るが、それに怯えて言うことを引っ込める程、雄也は弱くはない。


「お前の師匠が何故育てたのか。それはお前に見込みがあったからじゃないのか? ただ単純に、リリムという素質のある子供を教えたくて、この子なら何とかしてくれると思ってそだてたんじゃないのか?」


「分かったような口を聞かないで。そんなのは唯の思い込みよ。貴方は何も知らないくせにそんなことをよく言えるわね」


「なら、お前の事を本気で嫌っていたのなら『頑張れ』なんて言葉を口にするのか? 笑顔でいるのか? そこまで強くすると思うのか?」


「サボってたら殺されるとでも脅されたんじゃないの? そうなれば本気でやらざるを得ないでしょ?」


「よくそんなことで憧れの人だなんて言えたな。その程度でしか思われてない者に、憧れられたら師匠も悲しいだろうな」


 そう言われた途端、リリムの頭の中でプツンという音が鳴った。完全に頭にきたリリムは、杖を掲げ、魔法陣を無数に出現させる。


「お前に……お前に私の何が分かるって言うんだぁぁああ!!」


 そして、その幾つもの魔法陣から炎や氷、風、その他行く種類もの属性魔法を発動する。


 この量には、さすがの雄也でも息を呑み、戦闘態勢に入った。


 だが、突然リリムは急激な疲労感に襲われ、その全ての魔法は霧散し、リリムはその場に力なく倒れた。


「魔力切れか……今のは正直焦った。よく育てたもんだよ、お前の師匠は」


 雄也は、倒れて気を失ってしまったリリムを担ぎ、一人町へ向かって歩き始める。

 なぜ、雄也がここまで言うのか。それは、ある時に出会ったある人が、こんな事を言っていたのを思い出したからだ。


 それは、マラク国が制圧をし始めた頃の事。既に占領され、少しギクシャクしてる町の中、雄也が立ち寄った酒場に入った時のこと。酔った一人の男性が、声掛けて来たのだ。


『なぁ、聞いてくれよ、俺の話』


「ああ。酒のつまみにでも聞いてやろう」


『俺さ、今"ティッセオ"って名門の所の落ちこぼれ呼ばわりされてる子を教えてるんだ』


「ほう。それで?」


『それでさ、その子にはかなりの素質があるんだよ。まだ能力に目覚めていないだけで、素質はある子なんだ』


「それは育てがいがあるな」


『ああ! 俺はあの子を育て上げて、いつかティッセオ家を見下してやるんだ!』


「それは、ティッセオ家に聞かれたら問題だな」


『構うものか! 俺の教え子がきっと変えてくれる。それまで、俺は彼女を育て続けるんだ!』


「将来が楽しみだ」


 ――そんなことがあった。


 それがもし、この子だとしたら、と雄也は思った。だから強く言った。そして、この彼女の思い込みを、どうにかしたい。


 心から、尊敬できるいい人だと。

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