1-3 助けたいから助ける、唯それだけの事
四方八方にいるモンスターは、狂ったような叫び声をあげながら雄也へと突進して行く。これを交わすのも容易いだが、そうなってはこの先にあるお気に入りの町が潰されかねない。それだけは避けたい。
雄也は、背中に背負っていた大剣を片手で持ち、自分の身長程のその剣をモンスターの方に向け、戦闘態勢をとる。
「ほんじゃま、ウォーミングアップがてらにお前らからだ!」
まずは先頭にいたモンスター。そのモンスターは、四足歩行の為移動速度が早い。B級危険モンスターぐらいの強さはある。
その四足歩行のモンスターが何十匹も走ってくる中、雄也はそれに向かって歩いていく。段々と速度を上げ、モンスターと雄也との距離は数秒で詰まる。
雄也は、自分の攻撃圏内に入った五匹のモンスターを、目にも止まらぬ速さで切り捨てる。大剣を振ったとは思えないほどの速度は、音速を超える。
次に、左右から来た数十ものモンスターを、回転斬りをして上下真っ二つに切り裂く。
返り血が雄也に飛び散るが、そんなもの気にもせず雄也は次のモンスターへと視線を向ける。
次のモンスターはゴブリン達だった。ゴブリン単体ならC級程度の雑魚モンスターだが、数が揃っていれば危険度はB級にあがる。今回の場合は、B級扱い出来るほどの数は余裕で揃っていた。
「チッ、ゴブリンは面倒だ」
そう言い捨てた雄也は、大剣を両手で持ち、ゴブリン達目がけて斬撃を飛ばす。カマイタチよりも遥かに切れるその斬撃は、ゴブリン達の首を葬り去った。
技名はない。これはオリジナルの技だからだ。
それから数分、近寄ってくる敵をバッサバッサと切り捨てて行くが、時々違う方向へ向かうモンスターもおり、そのモンスターは町の方向へ向いていたため、優先的に殺していった。だが、数は千。それに対して、雄也は一人。いくら雄也でもその数が一気に押し寄せてきたら、対応は遅れる。
「クソ……おい! そこで隠れて見てるやつ! いい加減手伝え!」
「あら、バレた?」
「こっそり着いてくるならもっとうまくやれ!」
「今それ注意するところ?」
そこに現れたのは、一人の魔法使いの女性だった。
若く見えるその顔は、大人っぽい雰囲気の顔たちであり、身長は雄也と同じくらいある。全身真っ黒なローブで身を包み、邪魔そうな大きなハットを被って、如何にも魔法使いと呼ばれそうな格好をしていた。ちょっぴり開けた胸元からは、大きな膨らみがはみ出さんばかりに見えている。右手には、その女性の肩ほどまである大きな杖を持っている。
雄也は、一度謎の魔法使いのいる所まで下がり、全体を把握する為に辺りを見回す。
「いつから気づいてたの?」
「ずっとだ。俺が彼らと話している時も視線を向けていたろ?」
「あら、さすがは英雄と呼ばれるだけはあるわね。ただ、この数相手に余所見してるのは感心しないなー」
「誰のせいだと思ってる……」
「まぁいいわ。私の名前はリリム。リリム=ティッセオよ。よろしくねミナセユウヤ」
「ほぉ、あのティッセオ家か……マラク国が誇る有名な魔法使い一家の名前じゃないか。こんな所で道草を食っていていいのか?」
「やめて。私はアイツらのやってる事が気に食わないから抜け出してきたの。この名前だって、本当は嫌なのよ……」
「そんな事は俺には関係ない。取り敢えず、このモンスターの排除が優先だ」
「はいはい……やりますわよー」
そう言い、リリムは杖を構え、詠唱を始める。その瞬間、巨大な魔法陣が空に出現する。
「ウィッチか。王道と言えば王道だな」
そして、雄也が感心して独り言をぼやいていると、リリムの詠唱は終わる。
その瞬間、その魔法陣から無数の氷の槍が生成され、その氷の刃は高速で下にいるモンスター目がけて落ちていく。
頭を貫くその氷の槍は、地面に触れると同時に砕け散る。白く綺麗な氷の槍は、モンスターを貫き赤く染まる。その魔法のおかげで、数はかなり激減し、モンスター達もその攻撃に怯え、足が遅くなる。
「今よ! 暫くはあの魔法は使えないから、時間を稼いで! もう一発食らわせるから!」
「わかった!」
その魔法を見せられて、いや、魅せられて奮起した雄也は、大剣を両手で持ち前に向け、一直線にモンスター達の中を走り抜けた。
「まだまだぁぁあ!」
モンスターの群れを抜けた瞬間、剣を地面に刺し、勢いを殺して再びターンして群れの中に全力で突っ込んで行く。次は、剣を振り回しながらその群れを駆け巡り、次々に血の道が出来ていく。
「これ、私要らなかったんじゃない?」
そう思いつつも、もう一度放てるだけの準備を整えたリリムは、先程よりも大きな魔法陣を空に出現させた。
「ほら、早くしないとあんたまで穴だらけになるわよ!」
「さっきよりデカいな!」
「そりゃ全力出すからねぇー! 行くよー!」
先程よりも長い魔法詠唱を始めたリリムの元に、危険を察知した賢いモンスターが、リリム目がけて一目散に走って行く。
「それはさせんよ、モンスター」
だが、それを難なく阻止して、魔法詠唱を終えたのを確認し、すぐ様その場から離脱する。
「食らえぇ!」
残り五百はいたであろうモンスター達は、リリムの超特大魔法によって瞬殺され、そこには死体の山と血の海が作り出されていた。
「流石だな」
「貴方もね」
二人は、フッと一息ついた後、歩いて町へと帰還した。