1-2 助けたいから助ける、唯それだけの事
料理を食べ終えた雄也は、どこへ向かう訳でも無いが、ここにずっといるのも迷惑な為、代金を払って店を出て、町をぶらつく事にした。
それ程大きくないこの町は、多くの人で賑わっていた。野菜が売られていたり、冒険者が情報交換をしたりしていた。雄也にとっては、その光景が堪らなく好きだった。
「ホントにこの町に来てよかった。今まで見てきた中でもトップファイブには入るかな?」
一つの場所に長く滞在する事はあまり無く、多くの場所を転々と移動する雄也は、これまで数多くの町や村を見てきた。とは言っても、この世界は広いため、行ったことのない場所が大半だが。
この世界には、大きく分けて五つの大陸が存在する。東の大陸イスト、西の大陸エスト、南の大陸サウスト、北の大陸ノスト、そして、それら四つの大陸の交わる中心の場所にあるのがセンストだ。各大陸の大きさは、現実世界で例えると、地球の四分の一くらいの大きさだ。それが五つもあるのだから、この世界はとても広い。
各大陸は、海で分断されているため、船での移動又は魔法での移動でないと渡れないのだ。距離はさほどないため、泳いで行こうと思えば行けるが、海には多くのモンスターがいるため、ある種族を除いては、殆ど誰も入りはしないのだ。
今雄也がいるのは、北の大陸イスト。その北の大陸の七割を支配しているのが、今現在でこの大陸の最大勢力である国、マラクだ。
マラク国は、国民全員が冒険者という極めて戦争好きな国だ。国民は、冒険者になる事を拒否する事が許されず、無理矢理冒険者にさせられているのだ。
イスト大陸には、八つの国があったのだが、その内六つはもうマラク国に制圧されている。それは、雄也が来る前から既にそうなっていた。
今雄也がいるのは、その残された二つのうちの一つ、レデール国だ。いつ攻めてこられるか分からないこの状況でも、この国の人はそんな事には怯えず、寧ろやる気が満ち溢れている。
残っているもう一つの国は、アールという国なのだが、アール国はマラク国に占領されるのだけは嫌だと、レデール国と手を結ぼうと会談を持ち込んだ。確か、今はその会談が行われているはずだが、どうなったのかはまだ発表されてはいない。
レデール国民は、その会談の結果を今か今かと待ち望んでいる。王宮はここからは二日の場所にある。情報が届くのは、遅くても四日後には来るだろう。
それから、一時間が過ぎた頃、少し体を動かしたい気分になった雄也は、ギルドへ向かった。何か手応えのあるモンスターが入ればいいなと、内心ワクワクしながらギルドへ入ると、突然三人組のパーティーを組んだ冒険者達に声をかけられた。
「なぁ、あんたさっき酒場にいた奴だろ?」
「そうだが、君達は?」
「俺らもさっきの店に居てよ、見てたんだよ。あの瞬間を。でさ、その腕を見込んで話があるんだけどよ、俺らとちょっと難易度の高いクエストに行ってくれねぇかな?」
クエスト。そう呼ばれるのは、ギルド又は国民や被害にあった冒険者達が依頼するモンスター退治、又は調査の事だ。ギルドが出すものは重要度と危険度が高く、国民が衣類したものは重要度が危険度が低い。
「それは構わないが、難易度はどれくらいなんだ?」
「最近ここらで縄張り争いしてるって言うモンスターの駆除。難易度はAだ」
「Aか……もう一つ聞くが、君達の【階級】はどれくらいだい?」
「最近Bに上がったばかりだ。俺ら三人でも余裕で行けるんだが、保険を掛けてあんたに頼むって訳よ」
「Bか……悪い事は言わないが、そのクエストは辞めた方がいい。君達の身のために」
「でもなぁ? 俺ら今金に困っててよ、これ報酬金いいからさ、な? 分かるだろ?」
「はぁ……仕方ない。そういう事なら手伝おう。但し、危険だと思ったら直ぐに逃げるんだぞ」
「わかってるって!」
そう言って、名前も名乗らないで現れたその三人組について行く事になった雄也は、ある程度の準備をした後、その目的地まで向かった。
三人の後ろを歩く雄也は、会話には入らず、ただ進むがままに進んで行った。時々、チラチラとこちらを向いては嫌な笑みを浮かべる彼らは、何かを企んでいるのだと直ぐにわかった。
そもそも、彼らの実力で今からいくクエストをクリアしようなんて十年早い。敵が一体ならともかく、複数いる事は明確。それなのにわざわざこんなクエストを頼むなんて、この後何が起こるのかが明白だ。
「おい、着いたぞ。情報によればここら辺でいいはずだが……」
かれこれ三十分歩いたところで止まり、三人は雄也の方を向いた。そして、ニヤリと嫌な笑みを浮かべると共に、腰にぶら下げていた笛を取り出し、そして笛を鳴らし出した。
「あんた、あの英雄さんなんだろ? 分かってんだよ、俺らには。ちょっと強いからって調子に乗りやがって……だから、ちょっとここで痛い目にあってもらう」
「そんなことか……」
実力のある物を認めることが出来ず、ただ自分よりも上の存在が気に食わないだけで、これだけ大掛かりの事が出来るのだから、もっと他のとこに力を割いた方が良いと、雄也は思ったがそれは口にはしなかった。
「ここで痛い目見て、てめぇは恥晒しの間抜けやろうって事を町中に広めてやるよ! じゃあなぁ!」
そう言って、三人はゲハゲハ笑いながら走って帰って行ってしまった。そして、それから数秒後、おびただしい数のモンスターが四方八方から現れ、雄也を囲む。その数お余所千。中には、危険度Bのモンスターまでおり、中々厄介だ。
「さて、丁度体を動かしたいと思ってたし、これくらいならウォーミングアップくらいにはなるかな?」