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プロローグ

「やばいやばいやばいやばい! もっとスピードは上がらねぇのか!?」


「無理だ! これがこの馬車の最大速度だ!」


「まだ出るだろ!? 早くしねぇとあのバケモノに食われちまうよ!!」


「分かってるよんなこと! ク、クソォ! こんな事なら魔法使いもパーティーに加えておけば良かった!!」


「お前がいらないっつったんだろがぁ! もうすぐそこにいるんだ、何とかして振り切れよ!!」


「ならお前が戦って時間でも稼げよ!」


「無理に決まってんだろ!? 俺らみたいなC級冒険者がA級危険モンスターに勝てる訳がねぇ!」


「なら黙って頭引っ込めてろ!!」


 半月が空に浮かび、無数の星が空を支配する中、真っ暗な平原の夜道を、二人の冒険者を一匹の十メートルはあろう『バケモノ』が追い掛け回している。


 四速歩行をして冒険者を追いかけ回すそのバケモノは、狂ったような雄叫びし、砂煙を巻き上げ、無尽蔵の体力で走り続ける。


 それに対し冒険者達は、冒険で得たアイテムの殆どを捨て去り、必要最低限の物が馬車の荷台にあるだけで、後は何も無い。


 荷台に載せているものは食料と水、一人の冒険者だ。馬は二頭、それを一人の冒険者が操作をし、全速力で逃げている。


 ここから最寄りの町までは最低でも二日かかる。そんな中、食料を捨てるなど自殺行為に等しい。モンスターも蔓延るこの草原では、食料無しに逃げて帰るのは奇跡に等しい。


 そんな緊迫した状況の中、二人の冒険者は後先のことなど考える余地などこれっぽっちも無く、ただ逃げることだけを優先した。


「おい! この食料捨てるぞ! そうすればもう少しだけスピードが上がるだろ!?」


「ほんの少しだけとっておけば問題ない! ここで食われるよりマシだ!」


「ああ!」


 荷台にいた冒険者は、一食分の食料と水だけを残し、後の全ての食料と水を投げ捨てた。それで軽くなったのか、馬車のスピードが少しだけ早くなり、バケモノとの距離が段々と離れていく。


「よ、よし! 距離が開いてくぞ! このまま逃げ切れ!」


「わ、わかった!」


 馬に必死でムチを打ち続けること十分、もうバケモノが人のサイズくらいに見えるまでに距離を開いた二人組冒険者は、安堵した。


「はぁ、これで逃げ切れるな」


「ああ! もう当分はここには来られねぇな」


「そうだな。ギルドに報告して、退治願い出しとかないとな」


「それはお前に任せるよ。俺はもうクタクタだからな」


「わかったよ。まだ道程は長いけど、よろしく頼むよ相棒」


「任しとけって!」


 と、その時だった。聞き覚えのある雄叫びが聞こえ、後ろを振り向くと、そこにいたはずのバケモノの姿が無くなっていた。諦めて帰ったのなら、先程のような雄叫びなど聞こえるはずもない。なら何処に? 答えは簡単だ。


「うわぁぁぁぁあ!」


「何だ……うわっ!?」


 そのバケモノは前に現れたのだ。


 並外れた跳躍力を持つそのバケモノは、一キロは離れていたその距離を、ひとっ飛びで前へと回り込んだのだ。


 バケモノが物凄い勢いで腕を振り下ろし、馬二頭は潰され、荷台も大破し、二人はお互い違う方向へと投げ出された。


 そして、標的にされたのは馬車を操作していた冒険者の方だった。もう一人の冒険者は、「やめろ!」と必死に叫び、瀕死な攻撃を何度も繰り返す。


 が、それで止まるわけも無く、バケモノはゆっくりと一人の冒険者に向けて大口を開き、丸呑みしようとする。


「やだ、死にたくない! やだやだやだやだやだ!」


 そして、バケモノの顔との距離が数十センチまで来た時だった。そのバケモノに異変が起こる。突然動かしていた顔が目の前で止まり、目が白目を向いたのだ。


「へぇ……?」


 そして、その首が段々と下へと落ちてゆき、綺麗な噴水のように血を吹き出しながら、胴体と首が分断されたのだった。


「平気か?」


 そう声を掛けたのは、目の前に立っていた一人の男だった。暗くて顔はよく見えなかったが、一つだけ分かることがあった。それは、その男は、なんの防具も付けず、一本の剣だけを持っていたということだけだ。


「災難だったな」


「え、えぇ、ありがとうございます……」


「危険は去った。が、まだ町までは距離がある。だから、これを使いなさい」


「これは?」


「転移石だ。一番近くの町を登録してあるから、それを使って帰るといい」


「転移石!? そ、そんな高価なもの貰えません!」


「なぁに、俺からしたら安いもんだよ。さ、仲間を連れて早く帰るといい」


「でも……!」


「いいから! これはここまで逃げてこれた君達の努力への、俺からのプレゼントだ」


「そ、それじゃ……遠慮なく使わせてもらいます!」


「ああ、そうしなさい」


 そして、その男は身を翻し、その場から音もなく一瞬で姿を消す。


「かっこいい……」


「おい、大丈夫だったか!? 今話してた男の人は誰だ?」


「ああ、俺は大丈夫だ。それより……」


「それよりなんだ?」


「助けて貰った上に転移石まで貰っちまった」


「転移石ぃぃぃい!? そんな高価なもんどうやってお返しすればいいんだよ!」


「わからない。名前も聞けなかったし、まず顔すら見えなかった」


「まじかよぉ!」


「ま、助けられたことに永遠の感謝をし続ければ、またいつか会えるんじゃないかな?」


「そんな事で会えるのなら俺も一生感謝し続けるわ!」


 そうして、彼らは転移石を使い、町へと帰還した。そして、念の為にバケモノの事を報告した二人の冒険者は、ある噂を広めた。『英雄が現れた』と。


「あーあー。またこんな大袈裟な噂広めやがって……俺はただ人を助けただけだっつのにさ」


 その男の名は水無瀬雄也。人を助ける事を心情にこの世界で暮らしている異世界転生者だ。彼はこう嘯く。『人を助ける事に、感情なんて必要ない』と。

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