第1章
鬼は本当に鬼なのだろうか。
これは鬼が起こした事件の記録である。
眩しい日差しが警視庁の窓に明るさを彩る。
その明るさをここにも分けて欲しい。
犯罪捜査係二課警部部長、前下明正は窓から映る明るさにうんざりしながら昨日起こった事件の整理を行なっていた。
昨日起こった事件は毎日事件だらけの警察ではよく
あるものだった。
東京都南中央市六区、某アパートの1室で
中国籍30代の男性が自宅で絞殺されていた。
近所に住む主婦の通報により遺体は発見された。
幸いにも首に巻かれた凶器のネクタイに適応する指紋が出て、犯人はすぐに逮捕された。
婚約者の中国人女性だった。
動機は男性の浮気。単的な理由で殺人を犯してしまう、そんな女の小ささに呆れていた。
そんな中、私を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。
振り向くとそこには捜査一課課長、通称 ボス、黒川慶一郎が立っていた。
「ボス、ご無沙汰しております。」
明正はすぐに椅子から離れ直立した。
ボスは手を振り私に座るよう促した。
渋々席に着くと、ボスはすぐに口を開いた。
「前下。今すぐ南中央公園に迎え。」
「南中央公園ですか?」
南中央公園は、明正が家族と住む南中央市の目玉である広大な公園だ。公園だけでなく、サッカー場、テニスコートが臨場し、南中央市民にとっては欠かせない場所だ。
そして五歳になる一人娘、楓とよく遊びに行くことから我が家にも欠かせない場所だった。
「何かあったんですか?」
思わず聞いてみるとボスは顔をしかめ呟いた。
「五歳の男児が亡くなった。殺しだ。」
五歳。
それは楓と同じ歳じゃないか。まさか楓の友達なんてことはないだろうな。
明正は急いで支度し始めた。
明正には命より大切な人が三人いる。
一人は女手一つで俺を育て上げてくれた母親だ。
幼い頃病気で亡くなった父親の代わりにと二人ぶんの愛情を俺に注いでくれた。今は遠く離れた故郷に一人で暮らす母。そろそろ同居したい、そうかんがえている。
二人目は妻の晴美だ。
友人の紹介で出会った晴美。
とても美人な晴美に一目惚れしたあの時を七年経った今でも覚えてる。
もしも晴美がいなくなったら俺は耐え難い苦痛を味わうだろう。
そして最も大切な人は、娘の楓だ。
楓は晴美と結婚した二年後にこの世に生まれてきた。
小さな手で必死に俺の人差し指をつかんだ楓。
本当に小さかった。五歳になった今でも絶対に俺が守らないといけない。
その大切な娘の近くで殺人が起きた。
しかも被害者は娘と同じ歳。ただ事ではない。
スーツを整え警視庁を後にしようと二課の入口を抜けた。
すると背後からお馴染みのあの声が聞こえてきた。
「前下さん。俺もついて行きます。」
明正が振り向くとそこには爽やかな青年が警察手帳を片手に立っていた。
この青年は明正の部下で二課の次期エース、川上圭人だ。川上は普段から明正の担当する事件、事故には必ずついてくる。そして優秀な推理を発揮し事件を解決に導く、いわば探偵のような役割を果たす。
そんな探偵刑事は明正の隣に足を並べた。
「分かった。じゃあ車を運転してくれないか?俺はあまりスピードを出せない。」
「分かりました。では前下さんは警視庁の入口近くで待っていてください。」
川上はパトカーを止めてある駐車場の方へ走っていった。明正は川上がいなくなり息を吐いた。
川上と居るとなぜか気が詰まる。
自分より下の後輩のはずなのに。いやもしかすると俺は年下の人間が苦手なのかもしれない。