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(仮)少年ヴァンパイアと魔少女。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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03 千年の鬼。(ルレウス視点)


少年ヴァンパイア、

ルレウス視点。



 千年の間、生きてきた。

 千年の間、この姿のまま。


 百年、ヴァンパイアとして生きた。五百年、棺の中で眠った。そして四百年前に、目覚めた。

 世界は変わっていた。オレは一ミリも変わっていない。

 ヴァンパイアの下僕であるグールが蔓延り、オレはその後始末に追われた。全く持って秩序がなっていない。秩序を保つために牽制をして、グールは狩り尽くした。この上なく、手間だ。

 それから四百年、オレは目を光らせながら、ヴァンパイアの長として生きた。

 そうして過ごして、ある日、夢を見た。

 ヴァンパイアになって、初めて見たのだ。

 黒髪のウルフヘアーの少女。瞳は大きなダークブラウン。健康的な肌色。歳は十六前後。天真爛漫な笑顔をして、オレを見つめる。

 そんな夢を眠るたびに、繰り返し彼女の夢を見た。

 いや、見せられたという方が正しいだろう。

 ヴァンパイアは夢を見ない。そのはずだ。

 だから、彼女は魔女だと推測した。夢を見せているのだ。

 その類の能力を持つのは、魔女くらいなもの。

 そのうち、現れると思っていれば、的中した。

 自らオレの所有する屋敷に現れる。魔女に暗示は効かない。魔女の血族だということは確かだが、彼女自身それを知らなかったらしい。魔女の魔法は、親から子へ継がれるものだ。片親のいないことが原因か、または元々魔法を継がれずにいただけかもしれない。どちらにせよ、オレには関係ないことだ。

 夢も見なくなった。

 ついでだ。新手のヴァンパイアが作り出したグールの狩りを、彼女に任せた。

 名を、月美。月が美しいと書いて、月美。

 月の力を借りるという魔女に相応しい名だろう。

 そんな月美は、年相応に天真爛漫。でも冷静沈着な面も持っている。現実を受け止めて、行動する力があった。使える人間だ。

 詮索好きなのは、少々面倒。でも暇潰しにはいいか。

 毎晩、一滴ほど血を与えた。ヴァンパイアの血には、人間の怪我を治す治癒力があり、身体能力を得られる力がある。その力を貸した。

 代わりに血をもらう。魔女を味わったことはないが、悪くない味だった。週一で、彼女の血を味わう。少しもらうだけだ。毎晩吸うヴァンパイアとは力の差が多少出るが、本来週に一回の吸血でも、十分喉の渇きは抑えられる。

 気に食わないのは、服装だ。真新しい服は、趣味が悪い。

 仕方なくオレの仕立て屋を呼び出して、彼女の服を仕立ててもらった。


「おお! 古臭いかと思ったけれど、いいですね!」


 彼女は、少々失礼な発言をする。

 今時かつ洗練された服装。胸元を強調するフリルのブラウスは、赤いストライプ。ハイウエストの黒いスカートは、コルセットデザイン。


「えっと、ベネディクトさん。ありがとうございます」

「いいえ、お礼には及びません。よくお似合いです」

「えへへ。ありがとーですー」


 仕立て屋ベネディクトは、白髪の老人の姿。イギリス人だ。

 四百年前に目覚めてから、出会ったヴァンパイア。

 それからオレの仕立て屋になってくれている。日本に移住した時もついてきてくれた。 


「もう何着か、用意してくれ。ベネディクト」

「はい、ルレウス様」

「……」


 オレとベネディクトのやり取りを見ていた月美は、じっと見つめてくる。


「なんだい? 月美」

「……いやルレウスさんは、ベネディクトさんより年上なんだなぁと思いまして」


 鋭いな。見た目ではなく、ヴァンパイアの年齢を指しているとわかった。


「いいかい。君は迂闊に買い物行くな。センスが悪い」

「酷い言い方!」

「ベネディクトの仕立て服がいいだろう」

「それは最もですー」


 月美は気に入ったようで、鏡の前でクルリと回って見せる。そして、鏡に映る自分を見つめた。そんな満足気の月美を眺める。


「……なんだ、ベネディクト」

「いえ、なんでもございません」


 ベネディクトの視線に気が付いてオレは尋ねたが、誤魔化された。


「明日この服着て学校に行こう。大人っぽいって言ってもらえるかも」


 君は着飾っても、中身が天真爛漫過ぎて、意味がない。

 そんなことを言っては、オレも同じだと返されないため言わない。言われたら、縁を切る。協力関係はおしまいだ。

 なんてことは起きないのだろう。

 彼女は、どうやらオレが好きらしい。

 この姿に魅了される人間は珍しくないことだが、恋をしてくれるのは珍しいことだ。特に年上の姿をしているまともな人間は。

 彼女の場合、数年年下の少年に恋している気分だろうか。

 はたまた、ちゃんと年上のヴァンパイアに恋している自覚はあるだろうか。

 まぁどちらにせよ、協力関係が続くまでの話。オレには関係ない話だ。


 コンコン。

 眠っていれば、棺桶をノックする音で起こされた。また月美が空の写真を撮ったとかで、見せに来たのだろう。

 もう明るい空の写真は、十分見た。

 棺桶の蓋を押し開けるなり、雨の匂いを嗅いだ。

 見れば、月美はずぶ濡れだった。昨日のフリルの赤いストライプのブラウスと黒のハイウエストスカート。ウルフヘアーから、びしょ濡れだった。


「何故、ずぶ濡れなんだい」

「見て見て! ルレウスさん! 虹が出てたの!」

「……虹?」


 オレに突き付けられのは、携帯電話。それも最新のもの。

 画質がいい写真を見せられる。そこに映っていたのは、積乱雲と青空と虹だった。虹を見たのは、何百年ぶりだろうか。

 赤、橙、黄、緑、青、紺、紫と並んだ色。鮮やかで美しいものだった。直接見れないのは、残念だ。


「……でも、君がずぶ濡れなのは何故なんだい?」

「え? 夕立」

「夕立が降ったのなら雨宿りをすればいいじゃないか。馬鹿なのかい?」

「だって良い感じに撮りたかったんですー。ルレウスさん、きっと虹は久しぶりだと思って」

「……やっぱり馬鹿だね」

「酷い!」


 むくれる月美は、あいも変わらずずぶ濡れだ。


「早く拭くんだ。ヴァンパイアの血は、風邪予防は出来ない」


「はーい。バスルームにありますよね」

「ベネディクトも陽が沈んだら来てもらう」

「ありがとーですー」


 オレの指示に従って、バスルームに向かう月美。子どもだ。

 呆れてその姿を見送ってから、棺桶から出る。

 コトン、と彼女の携帯電話が落ちた。置いていったものだ。

 オレのために、ずぶ濡れになってまで撮ってくれた写真。それを自分の携帯電話に移した。


「馬鹿な人間……いや、馬鹿な魔女だ」


 フッと嘲ては、待ち受け画面にした虹を眺める。

 それが優しい眼差しになっていることには気が付かずーー…。




 


20170828

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