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01 運命の出逢い。



ハロハロハローハロウィン。







 夢を見る。

 猫が見開いたような大きな瞳は、青色。

 そして美少年という言葉で片付けるには足りない、美しくも儚げな白金の髪の少年。それでいて、強い眼差し。

 そして、魅力的なヴァンパイアなのだ。



 吸血鬼ことヴァンパイア。

 それを夢占いで見れば、何かを自分から吸い取る象徴の人。それはお金だったり、エネルギーだったり、様々だ。

 しかし、夢に出てくるような少年は知り合いにもいない。

 美しい青。

 味方が現れる前兆。

 私の持っている夢占い本によれば、その少年ヴァンパイアは味方。……なのかなぁ。


「あっ。学校の時間だ」


 私は占いの本を本棚に戻して、学校に向かうためにその本屋さんから出た。

 私が通うのは、駅近の創立五十周年の学校。それも定時制の高校だ。不良が多いので、普通科には疎まれていたりする。

 私もある意味、不良だ。元暴走族のOBの先輩と同級生の友だちが付き合い出してから、つるんでいる。未成年なのにタバコを吸っている友だちもいる。あ、私は吸わないです。煙苦手です。

 家が貧乏の母子家庭だから、学費が多くない定時制を選んだ。でもまだバイトはしていない。一度面接に落ちてから、行けなくなったチキンです。

 自転車で長い坂を登りきって、屋根付きの自転車置場に到着すれば、いつもつるんでいる友だち達がもういた。


月美つきみん。お化け屋敷に行こうぜ!」

「ほえ? 遊園地ですか? お金ないです」


 自転車から降りるなり、そんな提案をされても、懐が寂しい。学生ニートです。

 ウルフヘアーを整えて、三人の友だちと向き合う。


「違う違う」

「あそこのお化け屋敷だって」

「近所にあるあれだよ」


 そう言って三人が指差すのは、聳え立つ学校敷地内から見下ろせる街。住宅街だ。一軒だけ、鬱蒼とした木々に囲まれたお屋敷とも呼べそうな大きな建物がある。


「え。不法進入じゃん」

「空き家らしいぜ。なんでも家主が無残な死に方をしたとかで、長く空き家なんだってさ」


 先輩。それでも不法進入です。


「行ってみようよ、つっきー。……出るらしいよ」


 タバコを吸っていた友だちが言った。ニヤリ、と私を脅す。


「大丈夫、バレないって」

「行こうぜ」

「ええー」


 私は乗り気じゃなかったけれど、置いていかれるのも嫌なもので、しぶしぶついていくことにした。授業はサボり。大丈夫。出席日数さえあれば、卒業出来る学校なのだ。


「やっぱりやめようよ……」

「ビビんなって月美ん。手繋いであげようか?」

「何馬鹿なことを言ってんの」


 先輩のお尻に、恋人の蹴りがお見舞いされた。

 私はあははと乾いた笑いを見せてから、屋敷を見上げる。タバコを吸い終わった友だちは、遠慮無く門を押し開けた。呆気なく開いてしまった。

 夏の終わりの夕暮れは、微妙に暑くて嫌な気分にさせられる。灰色の薄暗い空の下。鬱蒼とした木々が、余計屋敷の不気味さを醸し出していて、うん正直に言って怖い。


「あっれ、鍵空いてるよ、ほら」


 友だちは楽しんで、開いた扉を潜った。

 中に入れば、一番に二階に上がる大きな階段を見付ける。


「お邪魔します。……やっぱり洋式だね」


 私も最後に足を踏み入れて、屋敷の中を見回した。カーペットが敷き詰められていて、靴を脱ぐスペースがない。靴棚みたいなのはあるのだけれども、やっぱり中を覗いても何もなかった。


「空き家にしては綺麗すぎない?」


 私は疑問を呟きながらも、ケータイのライト機能で足元を照らす。他の三人も同じ行動をした。

 暗くても、ボロ屋敷ではないことはわかる。


「二階から見てみよう!」


 ノリノリの友だちが、迷わず階段を上がる。やれやれ。

 私ははぐれないように、三人についていく。階段もカーペットが敷いてある。洋式のお屋敷って素敵ですよね。暗いと不気味で怖いけれども。


「つっきー。どっち行く?」

「え? んーと……右から?」


 どっちからでもいい。むしろ帰ろう。

 私の選択で、廊下を右に行き、最初の部屋に手をかけた。部屋の中を開くと、背筋が凍る。それくらい部屋が冷え冷えとしていたからだ。それにーー……棺桶らしきものが部屋の中心に置いてあったから。


「え? 棺桶って……嘘でしょ」

「ちょ……帰ろうよ」

「待て待て、ただの棺桶だろ」

「そうだよ、中身なんて空っぽだよ」


 私は帰ることを提案するのだけれど、同じく動揺した三人は中身を確認したがる。引き留めたけれど、三人は黒い棺桶に近付いた。そして開こうとする。でもガタガタ揺らすだけで開かない。


「つっきーも手伝ってよ」


 ええい。わかったよ。もう!

 言われた通り手伝おうと、棺桶に触れて瞬間、フッと棺桶が開いた。

 中にはーー……少年が横たわっている。それだけでも、ドキッとした。でもその少年が夢に出てきたあの美少年に似ていたものだから、心臓を鷲掴みにされる。

 人形のようだと思った。白金の髪。陶器のように白い肌。そして、白いリボン。着飾った背広に短パン。等身大の人形みたいだ。十三歳前後の少年に見える。

 次の瞬間、人形みたいな少年が起き上がった。人形じゃない。


「えっ、ちょっと、ええ!?」


 気が付けば、すでに三人は部屋から飛び出していた。人間、驚くと悲鳴も上げずに逃げ出すのですか!

 私も置いていかれないように、ブーツで走り出して追いかけた。階段をダダッと下りて、玄関に辿り着いた三人は、すぐに倒れてしまう。


「み、みんな!」


 モブの友だちよ! どうしたのですか!?

 見てみれば、ただ気を失っているだけみたいだ。息している。

 カツン、と足音を耳にした。カツン。カツン。カツン。近付いてくる。

 振り返れば、少年が階段に立っていた。


「ーー…やっと現れたな」


 そこに立っていたのは、夢で見た少年と同じ。

 青色の瞳を持った少年だった。


「オレの夢に出てきた少女、お前だな」


 十歳前後とは思えない強い声音。

 私の黒のウルフヘアーを見て、ワンピースを見て、ブーツを見た。


「……ふん。先ずは不法進入者を追い出すか」


 目の前まで下りてきた少年は、私の胸の高さしか身長がない。私もクラスの中では身長が低いから、彼はかなり小さい方だ。

 そんな彼は、私の友だちの顔を覗いた。そして囁く。


「来たことを忘れて、家に帰るんだ」


 三人は立ち上がり、私を置いて去ってしまう。

 その命令に従ったかのように見えた。


「さて……君は誰だ?」

「つ、月美……月と美しいと書いて、つきみ」

「つきみ……」


 不思議な感覚がする。ただ名前を呼ばれただけなのに、それだけで満たされるような、そんな気分に陥った。


「立ち話もなんだ。部屋で話そう」

「あ、うんっ」


 手を引かれる。それも洋画で見たことのある紳士のエスコートみたいだった。温もりがない手だ。私より少し小さい手。白くて綺麗な手だ。


「オレの名は、ルレウス」

「ルレウス……」


 やっぱり日本人ではない名前。それに聞き慣れない名前だ。そんな彼に一階の一室に、連れていかれた。

 ライトで照らしてみれば、お洒落なアンティークのテーブルがある。薔薇の絵がが刻まれた椅子まであって、私達はそれに腰を下ろした。


「それで、君は魔女か何かなのかい?」

「ま、魔女?」

「違うのかい? じゃあ何故、君の夢ばかり見るんだ。ヴァンパイアになって初めて、夢を見たかと思えば君ばかり……単調で飽きた」


 ゴクリと息を飲んだ。ヴァンパイアって単語が出た。

 魔女だって質問は置いといて、彼がヴァンパイアだっていう事実を受け止める。


「夢の通り……ヴァンパイアなのですね」

「君も夢を見たのか。そして、そうだ」


 肯定。ルレウスという名のヴァンパイアは、椅子にふんぞり返った。


「ちょうどいい。これも何かの縁だ。君には協力者になってもらおう。月美」


 綺麗な青い瞳が、私を映す。不思議な感覚だ。


「協力者、とは?」

「人間の協力者が必要なんだ。とあるヴァンパイアがいてね。そいつがグールという下級のモンスターを作っているんだ。グールとは、死体にヴァンパイアの血を与えて作るモンスターのことだ。人を食らう。そのモンスターの退治をしてほしい」


 グールというモンスター退治。

 私は頷いてから、考察した。少年ヴァンパイアさんに、頼まれている。モンスター退治を。


「何故私なんですか? その……何の力もありませんよ」

「その点は補える。オレの血を一滴与えれば、身体能力が上がる。見た所、君は身体能力が高い方だろう。一滴で足りるはず」

「……確かに、身体能力は高い方です」


 コクン、と頭を振る。クラスの中で、運動神経は一番だ。何故わかったのだろう。

 すると、少年ヴァンパイアさんが立ち上がった。自分の人差し指をくわえたかと思えば、血が出ている。口から見えた牙で傷付けたのだろう。その人差し指を、容赦なく私の口に中に突っ込んだ。血の味がした。


「これでよし」

「待って、私まだやるとは言ってな……」

「拒否権はない」

「な、なんですと!?」


 少年ヴァンパイアさんは、容赦ない。


「ヴァンパイアと出遭ったのが、運の尽きだ」

「そ、そんな……」


 出遭った。


「それにヴァンパイアと出遭っても、それほど動じない人間は稀だ」

「呆然としているだけで……」

「君を利用する。月美」


 にこり、と少年ヴァンパイアさんは微笑んだ。

 それだけで、胸が高鳴った。じゅわり、と顔が熱くなるのを感じる。美しいヴァンパイアの笑顔というのは、なんて破壊力。


「さて行こう。試しに」

「え、ど、何処へ?」

「グール狩りさ」


 手を差し出されたものだから、つい私は手を重ねる。

 立ち上がるなり、抱えられた。流石ヴァンパイア。軽々と横抱きをされてしまう。

 次の瞬間、ビュンッと風を切る。私は少年ヴァンパイアさんにしがみ付いた。ビューンッと進み続ける。

 そしてピタリと止まったかと思えば、感覚がグラリと回った。立つように下ろされたけれど、クラクラする。


「ここは……トンネル?」


 近所にトンネルなんてない。どうやらとても遠い場所に来たみたいだ。石のレンガで作られた暗いトンネル。心霊スポットじゃないだろうか。お屋敷より不気味だ。


「……あれ!?」


 気が付けば、少年ヴァンパイアさんがいなかった。

 真っ暗なトンネルの前で、一人ポツリ。

 前は真っ暗なトンネル、後ろは鬱蒼とした森。もうすでに空は黒に染まっていた。


「嘘でしょ? ちょっと……る、ルレウスさん?」


 声をかけても、返事はなかった。トンネルの中に入ったのだろうか。それとも、置き去りにされたのだろうか。

 ガクガクと震えてしまうのを堪えた。一人、オロオロしていたら、足音が耳に届く。引きずるように、ズル……ズルリ……と聞こえてくる。不気味すぎだ。


「にく……」


 確かにそう呟きが聞こえた。


「だ、誰ですか?」


 私は問う。二人の影が、近付いてきた。

 鼻に腐った臭いが届く。思わず鼻を塞いだ。


「肉……」

「ひっ」


 ケータイで照らしてみれば、蒼白な顔で口元が赤黒くなっている男が、二人いた。目は白く濁っていて、どこを見ているかわからない。状況からして、グールなのかもしれない。

 人を食らう。

 食べられてしまう!


「ぐあ!」

「きゃ!」


 私に噛み付こうとしたから、私は突き飛ばした。思い切り、飛んだ。一メートル以上は離れる。でも、もう一人いる。そいつも私を噛み付こうとしたから、噛まれないように先に蹴り飛ばした。


「はっ、はっ」


 二人は起き上がる。私の肉を求めて、呻き声を上げながら襲ってきた。


「無理……ルレウスさん! 助けて!」

「がぁ!」

「ひぃっ」


 私は声を張ったけれど、少年ヴァンパイアさんは現れない。

 襲い掛かるグールをまた突き飛ばす。そこでケータイを落としてしまった。暗闇の中、噛み付こうとするグールの足を蹴って崩す。倒れたグールの顔を思いっきり蹴る。スイカやメロンを潰してしまったかのように、グッシュを壊れた。ひぃい。

 すると、ブワッと燃え上がった。


「え!?」


 灰になって、暗闇の中に消えていく。

 呆然としていたら、残りのグールに捕まった。私の腕を掴んで、噛もうとする。私はもがいて、もがいて、それからそいつの髪を鷲掴みにした。頬を殴ったら、またグシャリと壊れる。ひぃっ。

 そして、またブワッと燃える。身体の内側から火がついたかのように、一瞬にして燃え尽きた。


「お見事」


 パチパチと拍手が聞こえたかと思えば、少年ヴァンパイアさんが立っている。私のケータイを拾って差し出した。


「あなた、鬼畜ですね!」

「見込みがある。この調子で片付けてくれ」

「無視!?」


 いきなりモンスターと戦わされて、私は声を荒げる。

 でも少年ヴァンパイアさんは、微塵も聞いていない。


「さて、帰ろうか」

「……はい」


 にこりと笑いかけられて、私はまた胸を高鳴らせてしまう。この笑顔に弱いみたいで、ついつい猫撫で声で返事をしてしまった。

 もう一度、私を横に抱えて、ビューンッと移動する。目を閉じてしがみ付いていれば、あの屋敷の中にいた。電気がつけられると、雰囲気が違って見える。普通に、豪華すぎて居心地が良くない。場違いに思えた。


「それで……どうして夢を見るのだと思う?」

「え? さぁ……急に見るようになって」

「オレがこの街に来てから見るようになった。……出逢うべくして出逢ったのだろう」


 さっき座った椅子に戻ると、夢の話をする。


「……あなたは私の夢を見て、私はあなたの夢を見た……出逢うべきだという暗示だった、のですかね」

「フッ……暗示ね」


 おかしそうに青い瞳を細めて笑った。そんな顔も綺麗で、ドキッとしてしまう。


「君には暗示が効かなかった」

「暗示って……ああ、私の友だちにやったもの、ですね」

「オレほどになれば、人間を気を失わせるくらい簡単に出来る。でも君には効かなかった」


 足を組んだ少年ヴァンパイアさんは言った。

 パチン、と白い指を鳴らす。


「ほら、効かない」

「……?」

「恐らく魔女の血族だろう。両親から聞いていないのかい?」

「あ、私……父親はいなくて……」

「そうかい。では父方から受け継いだのだろう」


 あっさりと父親がいないことを、受け流された。

 魔女だと認定される。魔女……魔女とは。


「その夢を見たのも、魔女の予知能力からだろう。……これ、今日の報酬」

「……ありがとうございます!」


 一瞬にして私の前に立ったかと思えば、万札が差し出された。

 お金をもらったです! わーい!


「一日五万だ」

「日給五万!」

「働いてもらえるね?」

「はい、喜んで!」


 わーい! お金持ちになれるです!

 こうして私は、少年ヴァンパイアさんに雇われることになった。




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