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第9’章 二通の手紙(1)

「陛下から?」

 なんだろう。あたしなんかに……。

 あたしはその上質な紙で出来た便箋をそっと開く。間にもう一通の手紙が封筒に包まれたまま挟んであった。

 触れた瞬間に誰が書いたものかすぐに分かり、思わずそれを開きたくなるが、ぐっと堪えて、帝からの手紙に目を落とす。

 力強い筆圧で書き記されたその文字。あたしはそれに釘付けとなる。


 スピカ殿


 シリウスの行動について、まず、謝らせてくれ。あの子が何をしたかは詳しく知らないが、あなたをひどく傷つけてしまったようだ。

 しかし、あの子を追い込んだのは全て私の指示なのだ。私は、あの子の覚悟を試す必要があった。立太子が迫っているのに、まったく危機感を持たない、あのままではいつかつぶれてしまうと思ったからだ。

 同時にあなたも試させてもらった。妃として披露されてしまえば、この先どれだけ辛くても、逃げられない。逃げるなら今のうちだと分かってもらうために、セフォネをはじめとする侍従や侍女にも少々辛く当たらせてしまった。

 ただ、今回の事はあまりにも荷が重かっただろう。私も不測の事態に驚いているところだ。

 そのことについては深く謝りたい。

 私は、あなたがやったとは思っていない。まだ調査は始めたばかりだが、すぐに犯人が見つかると思う。

 おそらくあなたには犯人は既に分かっているはずだし、協力をしてもらえば解決も早いだろう。

 しかし、このことはシリウスに危機感を感じてもらうためには、いい材料となりそうなのだ。

 そこで頼みがある。

 しばしの間、黙って罪を被っては貰えないか。

 シリウスはあなたのためなら、必死になるだろう。色々なものをその目で見ようとうするだろう。この機会を逃したくないのだ。

 もし、シリウスの事をまだ見捨てずにいてくれるのなら、シリウスのために、この国のために、もうしばらく我慢してくれないだろうか。

 勝手な願いだとは承知している。シリウスを見放したのなら、断ってもらって構わない。その時は、すぐに解放させるよう手はずを整える。


 添えた手紙はシリウスが書いたものだ。これを読んで、あなたがシリウスに心を戻してくれる事を願いたい。



 驚いた。帝からこんな風に信用してもらえるなんて思いもしなかったのだ。だって、直接お話ししたのは一度だけ。それも……シリウスに謝ってくれなどと、大胆な願いを申し出たのだった。

 あたしは恐る恐る挟んであった手紙の封を切る。読もうと意識しないでも、その手紙が持つ記憶が頭に広がり、手が震えた。

 シリウスは必死だった。その漆黒の瞳を真剣に光らせながら、食い入るように便箋を見つめていた。ブツブツと呟きながら言葉を選び、天井に視線をさまよわせてはため息をつく。


 ――どうしたらうまく伝わるかな


 その黒髪を左手でかきむしる。ひどく恥ずかしそうに。それでも、筆を置く事はしない。自分で呟いた言葉に照れながら、言葉を吟味して、納得するように筆を滑らせる。

 あたしは、もうそれを読まなくても良かった。十分だった。便箋を開く前に、気持ちは伝わっていた。

 それでも、確認するかのようにそれを開く。

 初めて見る彼の書く手紙は、彼らしい、繊細な文字で綴られていた。


 スピカへ


 手紙なんか書いた事が無いから……なんて書けばいいかよく分からない。

 でも、昨日も一昨日も君に会えなくて。

 君が不安になってるんじゃないかって、そう思うと、たとえへたな文章でもちゃんと伝えておいた方がいいと思ったんだ。

 ごめん。君に会いにいったけど、君を見つけられなかった。

 部屋を間違ったのかな? そんなはずは無いと思っていたんだけど。

 まだこの時期は、一人で寝るのは寒かった。君の隣で眠りたかった。


 妃候補がたくさん来ていて、君が嫌な思いをしてるんじゃないかって心配だ。

 でも、僕は、決して君を裏切らない。約束するよ。

 それだけは絶対伝えておきたかった。

 君を悲しませれば、君はきっと僕の元から離れていってしまうだろうから。


 君が隣にいない世界は僕にとって意味は無いんだ。

 君のためなら、僕は何を捨ててしまっても後悔しないと思う。

 そんな事をすれば、きっと君は怒るだろうけどね。


 君に逢いたい。

 逢って、僕の色に染めてしまいたい。

 絶対に他の誰にも渡したくない。

 僕だけのものにしてしまいたい。

 君が目の前にいると僕はきっと余裕が無くなってしまう。

 君が大事で堪らないのに、壊してしまいそうだ。

 どうかしてるよね。


 君が好きだ。言葉では伝えられないくらいに。


 シリウス

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