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第13章 明かされる陰謀(5)

 昨日の天気が嘘のような綺麗な晴天だった。

 空は柔らかい水色をしていて、薄い雲がぼんやりと霞んでいる。小鳥が空を泳ぎ、弾む声で春の歌を歌う。

 中庭の芝は昨日の雨に洗われ美しく輝き、所々植えられた背の低い木々がそのつぼみを誘うように綻ばせていた。

 ――この世の全てのものに祝福されている、そんな気分だった。

 僕はひどい寝不足だった。といっても、そう幸せな寝不足ではない。

 ――イェッドの宿題のせいだった。

 あのあと、僕らは結局ほんの少しの時間しか一緒に過ごせなかったのだ。

 ……怒り狂ったレグルスと、デリカシーの無いイェッドが邪魔をしにきたせいで。


「――日も暮れていないというのに何をしてるんですか!!」

「皇子! 宿題は終わったのですか!? あと、スピカも、課題が山積みですよ!!」


 蹴破るのではないかという勢いで扉を叩きながら、二人は叫んでいた。

 扉の外でそれだけ騒がれれば……出て行かざるをえなかった。

 僕はものすごく不満げな顔をしていたと思う。実際、中断されてどうしようもないくらい不機嫌だった。

 ……大体、レグルスは分かるけれど、イェッドまでなぜ邪魔をするんだ。嫌がらせとしか思えない。

 僕は二人を睨みつける。既に恐ろしさよりも、不満の方が勝っていた。

 外に追い出されたセフォネは僕と同じくらい立腹した様子だった。

 彼女は噴火しそうに赤い顔でブツブツ小言を言いながら、いつの間にか用意した着替えを僕たちに渡す。


「……明日までだというのに……どうして我慢できないのです!! 

 それにこんなに濡れてしまわれて! 風邪がぶり返しても知りませんよ!! なんでいちいちこんなに手間をかけさせるんですか」


 スピカは、そんなセフォネに対してもびっくりするくらい晴れやかな笑顔をむけていた。

 不思議に思って彼女を見つめると、彼女はふふふと笑って、「あとで教えてあげるわ」と言った。



 僕は自分の支度を整えると、儀式が行われる謁見の間まで移動する。

 絹で出来た漆黒のシンプルな揃えを身につけると、自分が闇に溶けていくような気がした。


 スピカの言った「あとで」は結局今日に持ち越されてしまっていた。

 実際彼女の方も、事件のせいで出来なかった課題が大量に残っていて、僕との逢瀬どころではなかったのだ。

 事件の事もまだいろいろ不明な点が多かった。今日も調査は続いているが、それを聞くのはとりあえず式が終わってからだ。

 謁見の間の控えの部屋に入り、飛び込んできた光景に僕は目を見張る。

 真っ白なドレスに、蜂蜜色の髪の毛がふんわりと広がって羽のようだ。ほとんど光が差し込まない部屋なのに、そこだけ木漏れ日が輝いているようだった。

 ――なんて……

 言葉にならず、僕はただただ彼女に見とれた。


 しばらく惚けていたが、僕はふと気がつく。

 あれ?

「スピカ……髪が……」

 彼女の髪は結われていなかった。その長さは、腰よりも長く、その身を金色に染めている。所々小さな色とりどりの花が編み込まれていて、おそらくそこでうまく繋げているのだろう。

「……見つかったのよ、……ミネラウバの部屋で」

 突然のように叔母の声が響き、僕は驚いた。

「……叔母さま、いつからそこに?」

「……最初からよ」

 叔母は呆れたようにため息をつく。よく見ると、そこにはシュルマや他の侍女たちも居て、僕の様子をくすくす笑っていた。

「前、あたしが誘拐されたときに、ミネラウバが手伝ったでしょう? そのときに拾ってたらしいのよ」

 スピカが侍女たちの冷やかしに赤くなりながら補足した。

 その少しはにかんだスピカの笑顔に、僕は心の底からホッとした。

 ――僕は、間に合ったんだ

 本当にギリギリだったけれど。

「時間です」

 そう声がかかり、僕は謁見の間へと続く扉に向かう。

 ここにたどり着くまで苦しかったけれど……、苦しかったからこそ、自信を持って式に臨める気がしていた。

 後ろを振り向き、今度こそ手に入れた大事な宝物にむかって微笑む。


「行こう」


 ――二人で並んで歩く、新しい日々へ

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