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第13章 明かされる陰謀(2)

 牢へと向かう道の途中で大粒の雨が降り出した。一気に髪と衣が雨を吸い、体が重くなる。ぬかるんだ地面が僕の足を捕え、体力を消耗させた。

 稲光が短い間隔で森の木々を照らす。雷の轟音は少しずつこちらへと近づいているようだった。息があがり、喉の奥が干上がる。呼吸が喉に張り付く。動悸で胸が壊れそうに痛かった。

 牢の前の篝火が雨のせいで消えかかっていて、木々の影でひどくそこは暗かった。ふと目を凝らすと、門番が一人もいない。

 嫌な予感がして、僕は牢へと駆け寄った。入り口に立つが、人の気配がまるでしない。昨日来たときはすぐに係が出て来たと言うのに。

 僕は一人スピカの牢へと急いだ。

 夕刻だと言うのに、燭台の火は灯されず、誰ともすれ違わない。何かが起こった――それだけははっきりしてきた。

 どうしようもない不安を必死で堪えながらようやくたどり着いた牢は、鍵がこじ開けられて既に誰もいなかった。牢の中には、薄黄色のドレスが一着残っているだけ。


 僕の頭の中に、成人の儀の翌日のことが一瞬にして蘇る。そして次々と心を抉るような絵が瞼の裏に浮かんだ。

 ――――まただ

 僕は思わず牢の中で膝をつく。

 走りすぎたせいで膝が笑っていた。その上この事態だ。――耐えられなかった。

 呻きながら、石の床を拳で何度も殴る。

 骨が折れてもいいと思った。

 ふと手首を掴まれ、体を引っ張り上げられる。見るとミアーがそこには居た。

「何をされていらっしゃるのです!! きっと来られると思って、お待ち申してましたよ!」

「ミアー……どうして君」

「説明は道すがらしますので、急いで下さい!!」

 僕が立ち上がると、ミアーがハンカチを取り出して僕の右手に手早く巻いた。じわりとそれに血のシミが広がる。

「弓をお引きになると聞きました」

 そう言うと彼女は途中の倉庫から弓矢を一式取り出した。

 僕は矢を背負うと、弓掛けをすばやく右手につける。今つけたばかりの傷がひどく痛んだが、なんとか引けそうだった。

「……先ほど襲撃がありました。申し訳ありません。外部からの侵入者には気をつけていたのですが。

 ……油断していました。まさか……あの人があそこまでやるとは」

「誰?」

「ご存知でしょう? グラフィアスですよ」

「グラフィアス!?」

 どういう事だ。そこまでして、スピカを手に入れたかったと言うのか!?

 あいつは単独だとそう思っていたが――もしかしたら――

 僕は彼の言った事を一つ一つ頭の中で反芻させる。

 ――そうか

 あの言動の微かな不自然さ。それは、そう言う事なのか。

 僕は唇を噛み締める。

 まんまと騙された。彼が本当に欲しかったのはスピカではなく――

 ミアーは僕の様子に気づく事なく、説明を続ける。

「隠れていた数人で、後を追っています。あと宮にも応援を送るよう連絡を」

 ミアーは厩に入り、馬を連れ出すと、僕に一頭あてがった。そして、自分も馬にまたがる。泥が跳ね、やる気をなくす馬をたしなめながら一気に山道を下ると、雨に濡れた城下町が見えた。ひどい雨のせいで人通りはほとんどない。

 ミアーは道が分かれる度に仲間がつけたという印を器用に見つけ、僕を導いた。

 城下町を抜け、広い草原に出たところで、僕は離れた場所に人影を見つけた。土砂降りで視界がひどく悪いため、顔までは見えない。

 長身の男が三人、馬にまたがっている。そして一頭の馬の上に布で包まれた人のようなものが見えた。

 ちょうど合流したところのようだった。

 その向かい側には比べて小柄な人影が二つ。グラフィアスを追って行った者のようだ。尾行を暴かれたのかもしれない。こう着状態だった。


 僕は馬から降りると弓を構え、静かに機を計った。


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