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第10章 尋問(1)

 いつの間にかもう日は傾きかけていた。

 明かり採りの窓から傾いて赤く染まった夕日が覗く。

 残り時間がどんどん減ってくる。


 事件の解決に、何をするのが一番の近道なのか。手当り次第にやってみるしかない。

 

 とにかく情報を集めたかった。

 現場を見れない今、出来ることは限られる。

 ふと思いついたことがあり、僕は宮の人間に話を聞くことにした。

 手始めに王女以外の妃候補の2人を部屋に呼ぶ。

 誤解を招きたくなかったのでイェッドを同席させた。



 最初にシェリアがやってきた。彼女はイェッドを見ると明らかに落胆の色をその顔に浮かべる。


「あ、の……皇子と二人でお話ではなかったのでしょうか?」

「……事件のことで聞きたいことがあるだけだ。そこに座ってくれるかい?」

 僕は淡々と言う。

 余計な時間は取られたくなかった。

「君は、事件があったときって、どこにいたんだ?」

「まさか……私を疑っていらっしゃるのですか? ……犯人はあのスピカと言う娘だと聞きましたけれど?」

 彼女はイライラするくらいのんびりと言う。

 状況を理解してはいないようだ。

「まだ、そうと決まったわけではない」

 彼女はゆっくりと天井付近に目を泳がせ、少し考えてから、やはりのんびりと口を開く。

「……夜も遅かったですし、自室で休んでいましたわ。その辺のことは近衛隊の方にもお話ししたのですけれど」

 一応調べてはいるのか。スピカだと決めつけて、ろくな捜査をしていないのかと思っていた。

「『誰にも』会わなかったってことだよね?」

「はい。でも……」

 シェリアは口ごもる。

「何?」

「私をお疑いでしたら、見当違いですわ。だって、外宮のあの館、出入口には見張りがいらっしゃるでしょう? 見つからずに館から出ることなんて出来ないのですもの」

 ……確かに。

「でも、反対側に回れば、見張りには……」

「でも、その時間帯なら、一周している間に誰かに会ってもおかしくありませんでしょう?」

 予想外に鋭く言葉を遮られて、僕はぐっと詰まる。

 確かにまだ侍女たちが起きている時間帯だ。外宮北側は部屋に戻る人間で出入りは一番多い時間帯かもしれない。それなら、見張りの目をごまかす方が楽そうだ。

 彼女が誰にも見られずに部屋を出入りするのは難しいということか。


 ……ひとまずは、シロということにしておこうか。


 僕は一息つくと、話を切り替える。

「シェリア、君は、スピカについてどんな話を聞いている? ……前に君が言っていたと思うけれど、スピカはイェッドに泣きついていたとか」

 僕はちらりとイェッドを見る。彼は黙って資料に目を通していた。

 よくよく思い出すと、彼女の言葉で、僕は決定的にスピカに疑いを抱いてしまったのだ。万が一彼女がスピカに対する悪い噂を流してるとしたら……。

「そうでしたかしら?」

 シェリアはのんびりと言うと、天井を見つめて考える。

 とぼけているのか、本当に覚えが無いのか区別がつかない。

「言ったと思うけど」

 僕は少々声を尖らせる。

「……そうそう、侍女たちが噂しているのを聞いたのでしたわ」

「侍女たちって? 誰?」

「食事中でしたかしら、ふいに聞こえて来たものですから……だれかとは断定は出来ませんわ」

 つかみ所が無い。そう感じた。

「あと、スピカの恋人って?」

「ああ……確か、噂では、皇子の元側近の方とか。すごく目立つ方だったようですわね。侍女は皆知っていましたわ。……まだ完全に切れていないとお聞きしましたけれど。皇子のような高貴な方と二股をかけるなんて……皇子はそれでも平気なのですか?」

 急にシェリアの灰色の瞳に熱がこもる。

 ……二股って……。

 妙な違和感を感じたが、シェリアが急に立ち上がるとその身を寄せて来たので、僕は思考を中断させられた。

 イェッドのことなど目に入っていないようだ。


「ちょ、ちょっと!」

 僕は慌てて椅子から飛び退くと、彼女と距離を置く。

「わたくしでしたら、一生皇子おひとりだとお約束いたしますのに」

 僕は困惑してイェッドを見る。

 こうならないために彼を同席させているというのに、彼は素知らぬ顔で相変わらず資料を見つめている。

「騙されていらっしゃるのですよ!? あんなことになっても、皇子がまだ彼女を庇われるなて……わたくし皇子があまりにお可哀想で……」


 その灰色の目に見る見るうちに涙が溜まる。

 ……うわ……。だめだ! 僕はこの子苦手だ……!

 僕にとって、同情されて泣かれるほど嫌なことは無かった。しかも見当違いだし。

「わ、わかった、もういいから……ごめん、次の予定が詰まってるんだ!」

 僕は出口に足早に向かうと、扉を大きく開ける。

 シェリアは不満そうに少し口を尖らせると、ハンカチで涙を拭いながら扉までやってくる。

 そうして上目遣いに僕を見上げると小声で言った。

「それでは、今夜、また伺いますので」

「は?」

「……嫌ですわ。聞いていらっしゃらないのですか? エリダヌス様の次は私と、順番が割り振られておりますのよ?」


 シェリアは少々赤くなりながら、その潤んだ瞳で僕をじっと見つめる。その様子からはエリダヌスの死に対する哀悼など欠片も見つからなかった。


「あと3日しかありませんもの。その間にお披露目する相手を選んで頂かないと。……わたくし、選ばれる自信、ありますわ」


 外見に似合わない言葉を堂々と吐くと、シェリアはその銀髪をさらさらと揺らしながら部屋を出て行った。

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