第4章 たどり着けない部屋(1)
僕は、昨日に引き続いてスピカの部屋で夜を過ごした。
一応彼女を呼ぶようにセフォネに頼んだが、断られたと言われてしまった。
しかし、僕はあきらめきれずに部屋を抜け出した。
昨日と同じで、ひどく部屋は冷えきっていて、火を持って来ていなかった僕は、かなり後悔した。
今度は起きて待っていようと、寒さにも耐え、毛布を被って椅子に座っていたが、いつの間にかやはり眠ってしまっていた。
……彼女は、戻ってこなかった。
体がだるい。ひょっとしたら風邪を引いたかもしれない。
こんなことセフォネにばれたら、スピカがとがめられる。
そう思い、まだ薄暗い中、僕は慌てて自室へと戻った。
幸い、まだセフォネは出仕してきていなかった。
胸をなでおろしつつ考え込む。
それにしても……どういうことだろう。
スピカは……いったいどこで夜を過ごしているのか。
あの部屋でなければ、どこなんだろう。
セフォネの眼を盗んで、外宮の見取り図を見てみたが、城門側から9つ目の部屋で間違ってはいなかった。
最初に案内されたとおりの場所にスピカの名が書き込まれていた。
この見取り図自体が間違っているのかもしれない。
そうでなければ……ぼくはどうしたらいいんだろう。
いくらなんでも、2日続けて、避けられるとなると落ち込む。
もしそうなら理由が知りたい。
単に忙しかったのか。
僕に幻滅したのか。
言い訳くらいさせて欲しかった。約束を守るからと言わせて欲しかった。
会えないとその一言も伝えられない。
そんなことを考えながら、ベッドの上でぼんやりしていると、セフォネが出仕してきた。
「皇子、おはようございます。ずいぶんお早いのですね」
「おはよう、セフォネ」
一応、聞いてみることにした。
「あのさ、朝一番から悪いんだけど……セフォネは、スピカの部屋、間違ったりしてないよね?」
「なんです、朝から」
セフォネはさすがにあきれている。朝一番の話題がスピカというのが気に食わないらしい。
しかし、僕にとっては一大事だ。
「……まさか、皇子、勝手にお渡りになったんじゃないでしょうね?」
鋭い。
さすがにベテランだけあって、空気を読むのには長けているらしい。
僕が慌てると、セフォネは大きくため息をつく。
「そんなことなら、昨日無理にでも連れてくればよかったですわ。……皇子、お風邪を召してるんでは……?」
セフォネは例によってまた憤慨する。
「また、戻らなかったのでは? ……そうなのですね? あの娘!」
僕が答えられずにいると、セフォネの顔がどんどん熟れていく。
もう歳なんだから、あんまり怒ると頭の血管が切れそうで怖い。
「だから、それはいいから、部屋の話!!」
僕はそう言って話を元に戻す。
「ええ、ええ、間違えませんよ。わたくしは今上陛下が皇太子であられたときからこのお役をやらせていただいているんです! スピカ様の部屋は、リゲル様が正妃になられるまでいらした部屋です。間違えようがありませんわ!」
セフォネは憤慨したままで、一気にまくし立てる。そうして息をつくと、彼女は少し落ち着いたようだった。
「え? 母上と?」
「帝が部屋の位置をお計らいになったそうですわ」
「父上が……」
どういうことだ。あの父上が口を出すなんて。
しかも母上と同じ部屋? あんな通うのに遠い部屋を?
謎だらけで、頭が混乱してきた。
僕はとりあえず食事を用意してもらい、落ち着いて考えることにした。
食欲がなかった。
……やはり風邪を引いたらしい。
僕は軽く果物をつまんだだけだった。
食後のお茶を飲んで、改めて考える。
セフォネがあれだけ言うんだ。部屋は間違えていない。
母上と同じとなると、間違えようがない。
じゃあ、なぜスピカが居ないのか。やはり、僕を……避けてるのか。
僕の部屋には来ないし、訪ねても部屋に居ない。
立太子の儀まで……このままなのか。まさかそんなことはないだろうとは思うけど、……もしお披露目にさえ現れなかったら、どうすればいい。それこそ、もう、彼女を妃にすることは不可能だ。
あまりの不安に、僕は泣きたくなってきていた。